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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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五十三話 反応検査

『黒の天敵と彼奴は其方に言わないのか?』

アダルの問いかけに対するインディコの反応。それはまさかに聞き返し。そのような返しが来るとは思わなかったアダルだが、聞かれたことには返さないと思い頷いて返す。するとインディコは急に頭を抱えて何やら小さい声で独り言をはき出す。それは小さく早口すぎて聞き取れないがきっとスコダティに対する罵詈雑言の類いだとは想像が出来る。人形ではあるが顔を真っ赤にして、それを行なっているのだ。羞恥も相まって、それは過激な物になっているだろう。アダルはそれをただ見守っていた。目を話したら殺される可能性があるから。だから目をインディコから離さないでいたが、それでも海で起きた異変にも注意を続けていた。見たわけではないが、先程より悪化しているのは分かっていた。

そんな中アダルにはもう一つ危惧していることがあった。異変を感じ、軟体獣の一を特定したら一度海面に出る約束をしていたリヴァトーンが未だに海面に姿を見せないことだ。考え得る可能性は二つある。一つ目は未だに軟体獣を見つけ出せない。二つ目は海面に出ることが出来ないほど切羽詰まった状態にあり、単独で撃退に向った。出来れば一つ目であって欲しいが、彼の性格上二つ目の可能性も高い。そんな中、頭に第三の可能性がある事を閃いた。それが思い浮かんだ瞬間、アダルは冷や汗が背中からドッと出るのを感じた。

三つ目の可能性。それは今目の前にいるインディコの様に地上に来ている悪魔種もしくはスコダティによってリヴァトーンが殺されている可能性。考えたくないが可能性がないわけではない。実際悪魔種であるインディコは人形の器ではあるが地上に顕現している。力も抑えられているのだろうが、それでも強力でリヴァトーンでは直ぐにやられる未来が見える。それはスコダティが相手であっても同じ事が言える。最悪の場合、リヴァトーンも的になってしまう事も考えられる。

『何だ? そんなに海の者が心配か』

 いつの間にか平常に戻った彼女は揶揄うような笑みを浮べながらアダルに問うた。少し自分の思考に深く入りすぎたアダルは今声を掛けられるまで彼女が戻ったことに気付かなかった事を不甲斐なく思い、拳に自然と力が籠もった。

「まあな。あんたが来なければしなくても言い心配事が増えたせいで、俺は仲間のことが余計に心配になった。余計な事をしやがって」

 挑発まがいな言葉使いをする。この程度なら彼女を沸点に誘うことがないだろうと態と荒く答えたアダル。その考えは当ったようで、彼女はアダルの態度に愉快そうに笑い出す。

『其方の考えているような事にはならぬよ。今ここには妾しか居らぬ』

「近くにスコダティはいるだろ」

 その発言にインディコの目は点になり、少し考える仕草をする。

『そうだったの。言い方が悪かったか。いや、言葉というのは難しいな。妾が言いたかったのは他の悪魔種の将はいないことだ』

 敵の幹部の言葉など簡単には信じられない。しかし嘘を言っているようには何故か思えなかった。これが自分の命だけが賭けられているのならアダルは彼女の言葉を信用出来ただろう。しかし今回は違う。彼女の言葉にはアダルとリヴァトーンの二つの命が賭けられている。だからこそ、信用は仕切れない。

「その証拠はどこにある」

 だからアダルが取った行動は彼女の主張が正しいかどうか確証を得ること。つまり彼女にそれを話させることだった。

『証拠か・・・・・。これは難しい所を突いてくるな』

 インディコは証拠を提示する事を渋り出す。今までの様子から自信満々にそれを出す。又は主張すると踏んでいたアダルは、彼女への疑念をより強めた。

「証拠はないのか!」

 大きい声で問いただすように言いつける。その声に彼女は余計に困った様に首を動かす。

『うむ・・・・・。あると言えばあるが。ないと言えばない。本当に難しいところだ』

顔をあらゆる方向に動かしながら、曖昧な事しか答えないインディコ。

『強いて言うのなら、この姿でいるということか』

 彼女のひねり出した答えでも、アダルは納得はしない。

「それでも十分にあいつを倒せるくらいの力を持っているだろ」

『そうでもないぞ。黒の天敵』

 帰ってきた言葉にアダルは眉を顰める。どういうことだと口に出す前に彼女はその説明の為に口を言葉を紡いだ。

『この体では妾は生物を一体も殺す事など出来ぬ。精々妾の部下の獣に力を分けること位だ』

 信じられないの一言に限る。しかし今度は何故か納得してしまう。最初の対面の時、何故彼女は攻撃ではなく言葉を掛けてきたのか、アダルは正直理解に苦しんだ。話していてインディコの性格から問答無用で攻撃してくる事はないとは思って居たが、彼女が言ったようなこともあるため、彼女の存在を気付いて貰う為に話かけた意図も有るのだろうと思い至った。アダルがそんな考えに到ったとき、彼女は何かを思い出したかのような素振りを見せる。

『おぬしが言っていた他の悪魔が来ていない証拠だが、あったぞ』

 嬉々とした声を出すインディコをアダルは訝しげに見つめる。そんな事を気にしない彼女はそのテンションを維持したまま続きを語り出す。

『妾が本気の殺気を放出し、半径十キロ圏内でそれに反応為る者がいなかったら、それが証拠になるだろう』

 強すぎる殺気は同等の強さを持っていなければ感じ取ることが出来ない。それを考えれば理に適っているに思える。しかしアダルは内心、どれを行なわせるべきかどうか悩んだ。彼女がそれをすると言うことはこの町の生命の気配も全て感じ取られてしまう。折角リヴァトーンが立てた作戦をこの段階で明かしてしまって良いのかどうかを迷っていた。

『どうした? 其方が求めていた証拠になることだぞ? やらせずで良いのか』

 ここでは彼女に探索させた方が自然なのだろう。アダルが要求したことなのだし。しかし彼女がそれをやると完全に作戦が露見してしまう。どうした物か。かんがえた末にアダルは気付いた。これはかんがえるまでもなくやらせるべきと言うことを。何故なら、既にこの町。即ち作戦の目的は遂行されているのだから。

「好きにやってくれ。俺も俺で探りを入れるからな」

『問題無いぞ。そうでなければ今からやることの意味がなくなるのでな』

 言い終えると彼女は準備の時間を設ける事無く、速攻で殺気を解放する。直ぐに行動為るとは思わなかったアダルは準備無しで彼女の殺気を近くで受け止める結果に成り、一瞬気が飛びそうになった。それ程威力のある殺気だ。それをなんとか持ち直して、自身の感覚を鋭くして、近場で彼女の殺気に反応を見せる人物がいないか探索する。十秒して、海中から一人を発見。その五秒後、町外れで一人。ならに二秒後。その又奧から一人の気配を感じ取った。一人目は間違い無くリヴァトーンだろう。二人目は位置的からしてヴィリス。そして三人目はその余裕の佇まいからスコダティだと予想出来た。これによって彼女がの発言が本当だと言うことが証明された。しかしアダルに取っての問題はこれからだ。

『んっ?』

 今も尚殺気を放ち続けるインディコは何かを疑問に思ったのか、眉を顰める。小さな違和感だが、それを拭いきれないのか、彼女は殺気の室を大きく弱めた。それは寝ている物なら誰でも飛び起きるほどの威力の物だ。普通だったらここで街の者達は飛び起きて、慌ただしくする事だろう。しかしそうは何故か成らなかった。何故なら・・・

『街にいる生命の反応がないだと!』

 心底驚いた声を出すインディコ。アダルは少し面白い反応を見せる彼女の姿に笑いそうになるのを堪えている。

『どういうことだ、黒の天敵よ!』

 少し焦った様な声で問いただす彼女にアダルは説明するべきか悩んだ。


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