四十九話 鈍感さ
アダルの言ったことに対してフラウドは既に知っていような反応を示した。
『ああ、知って居るぞ。というか、お前なら一緒に行くんじゃないかって思って居た』
フラウドはアダルの顔を見て揶揄うように笑うと、それを受けた彼は図星をつかれたかのように肩を震えさせた。
「一緒に行って欲しいって頼まれたんだぞ?」
『そうだろうな。じゃないと帰らなかっただろう』
今の一言の意味をアダルは分からず、思わず首を傾げる。それを見たフラウドは呆れた表情をし、自分にしか聞えない声で『まだあいつの好意が届いてないのか。鈍感め』と呟く。その声はアダルに届くことは無かった。もちろん口が動いていたから何か呟いているのだろうとはアダルも分かる。しかし残念ながら彼は読唇術というのを納めていないし、こういう呟きの類いを読み取ったところで大体悪口を言われているということは分かっているので読む気になれないのだ。まあ、その考えは会っていて、今呟いたことは彼に対しての悪口だった。向けられている好意以外は敏感なセンスを持っているのがアダルの特徴なのだ。そんな彼に対してフラウドはいい加減気付けと言う意味合いを込めてヴィリスの思いを代弁するかのように口を開く。
『ヴィリスはトラウマを引きずって居るのは俺も知っている。そして正直返りたくないのだというあいつの思いも分からなくもない。それでも一度帰るという事を決めたのはお前という存在がいたからだと俺は思って居る。お前が一緒に行くと言ったことでヴィリスは帰る事を決心したんだ』
「なんで俺がついて行くと言っただけでそう簡単に決心できるんだ?」
アダルから帰ってきた言葉は?の増した疑問の漂わせる返答だった。それを耳にした
フラウドは一瞬硬直し、天を仰いで目元を隠す。そして意を決したように彼と向き直った。
『ok。分かった。お前が鈍感なのは理解していたが、まさかそこまでだったとは思わなかった。お前は何か? 最早そういう呪いでも受けているんじゃないのか?』
好意を感じなくなる呪いとはフラウドは言わなかった。何故ならそれを言ったら完全に墓穴を掘りそうだし、ヴィリスの思いを踏みにじる結果になりそうだったからだ。だからあえて濁してのろいとしか言わなかった。今のアダルなら何の呪いかなんて分かるはずがないのだから。そしてその考えは当った。アダルは神妙な顔つきで考えた後に真面目な返答を返したのだ。
「・・・・・・・・。さあな。それは分からないが、呪いを掛けてきそうな奴なら知っているが」
彼が思い浮べたのは卑しい笑みを浮べてピースをするスコダティ。それを思い浮かべた結果、アダルは寒気が走ると同時に、その顔を無性に殴りたくなり、最終的にそれを殴ろうとして避けられることを想像してしまう。それを不愉快に感じた部屋中に響き渡るほど大きい舌打ちを鳴らした。
『まあ、呪いに関して言えば冗談のつもりだったんだが。心配だったら帰ってきたら調べてやるよ』
「そんな事が・・・・・。まあ、出来るかその程度だったら」
納得してみせるアダル。フラウドも頷いてみせる。
『さすがに呪いを解く事までは出来ないが、掛かっているかどうかは分かる方法はある時期調べていたからな』
その時の事を少し懐かしむ様に思い出す。あまり良い思い出ではなかったようで苦い顔をして直ぐに止めてしまう。
『兎に角だ。お前がヴィリスと共に行く事に関しては知っていたし、お前の思うとおりにすれば良いと思う。あいつにはお前が必要だろうからな』
「おい、さっきから訳分からないことを言ってんじゃないぞ。別にヴィリスは俺が居なくたって十分強いからな」
『・・・・・・。はあ。これはもう俺の手ではどうにもならないな』
フラウドは彼のあまりにも鈍感さに遂にそれの治療を諦める事にした。
『今度こそ、何も言うことはないな?』
フラウドの問いかけに未だ不服そうな表情を見せるが、一応頷く。
『じゃあ、今度こそ通信を切るぞ。この作戦の成功を祈る』
「そこは任せろ」
アダルの言葉を聞き終えるとフラウドは通信を切り、彼の投射終わった。アダルも装置値天辺をもう一度押して元あった形に戻す。
通信を終えたことでアダルの部屋は再び静けさに戻った。そんな時、先程フラウドが言った二つの言葉が不意に思い出された。『呪いを受けているんじゃないか』という言葉と『あいつにはお前が必要だろう』という言葉だ。
まず呪いの方が気になってアダルはそれについて考え始めた。そもそも何故そのような事を言われたのかアダルは分かっていない。そしてもし欠けられたとしても、どのような種類の呪いを掛けられたのかまったく見当がつかない。そこでアダルは自分の思考に違和感を感じ始めた。
「まったく分からないだと?」
おかしいと思ってしまった。普段だったらここで幾つかの可能性が頭を過ぎるのに、今回はそれがない。ただ単純に思い浮かばないのかも知れないが、そうではない感覚があった。何回も可能性を導き出そうと考えている。そしてそれが出掛かったところで、それはないだろうと突然頭が冷静になる感覚。まるでその考えに到らせないように誰かが導いているような気がしている。
「・・・・・・。駄目だ。全然考えが浮かばなくなってしまう」
これは呪いを受けたのは本当かも知れないと考えて、帰ったらフラウドに検査を頼む事を見当に入れた。
呪いの件はこれ以上発展しないと考えたアダルは二つ目の気になった言葉に思考を映した。
「ヴィリスには俺が必要か・・・・」
考え深く呟くその言葉。それを言っているとアダルは何故か嬉しいという感覚に陥る。別に好意を持たれることに対してアダルは嬉しいと思って居るわけではない。ヴィリスは確実に好意を持っているが、それは今置いとくとしてだ。彼が嬉しいと思ってしまうのは頼られること自体に関してだ。百五十年前のスコダティとの戦いの際、少なからず心身共に傷を負ったアダルは休養のために大森林の洞窟に籠もった。結果的に百五十年もの期間閉じこもりあまり会話を交わす機会を減らしてしまった。だから頼られること余計に頼られることが嬉しいのだ。本人は否定するが、アダルは相当のお人好しであった。それが引きこもり期間を経て、余計に強くなってしまったのである。
「だが、なんでフラウドは態々こんなこと言ったんだ?」
不意にその考えが頭を過ぎる。そして疑問は徐々に大きくなり、アダルは首を傾げ始める。ヴィリスが家に帰りたくない気持ちは分かった。だが、俺がついていく事を了承した事で彼女はようやく帰る事を決心した様子だった。そもそも何故彼がついていったら帰る事にしたのかアダルは漠然としか分かっていない。ただ、一人で帰るのは辛く苦しいからついてきて欲しいのだと思っていた。実際にヴィリスの様子を見てもそのような感じだった。彼女は強いが脆いのをアダルは知っている。それは接していれば分かることだ。だからこそフラウドもそれを言葉にして言ってきたのだろうか。いや、そんな単純な理由でこんなことをフラウドが言うか? 彼の性格からして、何かの隠喩があるのでは無いかと考え始める。
「・・・・。くっそ。分からないか」
だが、いくらその隠された意味を探ろうとしても、答えはいつからない。いや、答えは分かっているが、それが正解かアダルが分かっていなかった。どうした物かと更け、アダルは考える事諦めたかのように息を吐き、取りあえず自分の考えた答えを実行しようと渋々ながら思い至り、それをしようと決意する、




