四十八話 近況報告
近況を話すという結論を出した二人は未だ通信を閉じる事無く、対面を続けていた。
「まずは俺からだな」
最初に口を開いたのはアダルの方からだった。と言うのもフラウドはが少しくらい顔をしていたため、彼が言おうとしている内容が重くなることが察することが出来たため少しでも明るいことが話せるアダルが空気を読んで先手を取ったのだ。
「俺から話せることは一つだけだな。知っての通り、アバッサの港が軟体獣によって襲撃を受けた」
『そのことを話すつもりだったら、早く二つ目の事を話せ』
時間の無駄と言いたげに返すフラウドの言葉アダルは首を振る。
「いや、そのことじゃない。俺が言いたいのはその次の日に俺と海人種三人との間で起った事だ」
怪訝そうに眉を顰めるのが見て取れた。どうやらあの日起った情報はフラウドには届いてないようだった。だからか。フラウドはそれ以上何も言わずにアダルの言葉を待った。
「今回の襲撃の前に俺はリヴァトーンとある事を話していた。それはなぜリヴァトーンが大精霊化出来ないのかについてだ」
『それは才能がないからじゃないのか? 大精霊になるのには才能が必要なんだろ? だが、成れなかった。答えは分かりきっているじゃないか』
フラウドの意見も尤もだと思う。しかしそれはリヴァトーンの事を何も見ていない者の
意見だ。
「いや、それは無い。前にも話したと思うがあいつには才能があるんだよ。あいつの父親であるスサイドンよりもな」
二人は離宮内で話したことを思い出す。確かにアダルはリヴァトーンは買っている発言をしていた。
「だからな、大精霊化出来ない理由は別にあるんじゃないかと俺は踏んだ」
『別か・・・・・・。その理由は分かったんだろ?』
「ああ、わかった。あいつに問うた所、リヴァトーンには失われた記憶の帰還がある事が分かった」
映像の向こうでフラウドは少し興味が出たのか、愉快そうな笑みを浮べる。
『部分的な記憶喪失だったって訳だ。自分の記憶を封印するほどの事をやったんだろ。何をやらかした?』
他人のやらかした話しを聞くときのフラウドは心底楽しそうで、獰猛な顔つきをする。この世界では割と苦労人であろうが、この性格の悪さがあるから割とおあいこなのかも知れない。
「一応その内容は知っているが、それについては俺からは話せないな。ここで話したら俺の信用がなくなる」
肩を竦めて見せると、フラウドは『あっそ』と素っ気ない返事をしてきた。
『さっきの言葉からして、それはもう解決させたんだろ?』
しかし次の瞬間、フラウドは再びアダルに向け笑いかける。それを見た瞬間、アダルは少し前の自分の言葉を思い出し、フラウドに填められたことに気付いた。自分の浅ましさに嫌になると同時に、填めてきたフラウドを恨みを込めて睨む。
「嵌めやがったな!」
怒りの籠もった声で問うと、フラウドは分かった。
『今のは自縛以外の何物でもないだろ』
彼の言う通り、今のはアダルが軽率過ぎた結果だった。いつもなら働くはず警戒がいつの間にか弱まっていた結果に過ぎない。正論過ぎる彼の指摘にアダルは何も言い訳を返すことが出来なかった。観念したアダルは抗議を諦め、溜息を吐いて解決法を語った。
「リヴァトーンの記憶について知っている奴が近くに居た。あいつの従者だったガイドルとユリーノだ。軟体獣襲撃の次の日に彼奴らを呼んで問いただした」
『良く話したな。拷問でもしたか?』
冗談のつもりか、茶化してくるフラウドの問いにアダルは疲れた声で「しねぇよ」と冷静に突っ込んだ。
「こっちがリヴァトーンの記憶が欠けているという情報を引き合いに出して、その内容が知りたいとごねたら簡単に吐いてくれたよ」
少し駆け引きが簡単すぎたとはアダルも思って居る。
「それでだ。問題はその後だった。結局記憶の始まるところだけ話したところでリヴァトーンの記憶整理の為の発作が始まった。それは約二時間続いたが、あいつは一切意識を失うことなくそれに耐えきった」
『それは、また。すげぇな、その精神力は』
リヴァトーンの成したことを素直に驚く。まあ、驚くよなとアダルでも思う。普通なら意識を失うのだ。
「だがあいつは意識を保ったままそれをやりきった。それだけでリヴァトーンの強さは証明出来る。それに記憶を戻したことも結果的にマイナスにならなかった。苦しみながらも取り戻した甲斐があってか、今リヴァトーンは大精霊化までは行かないが、体を完全に精霊化する事に成功した」
『・・・・・!!』
声を出せないほど驚愕しているのが目に取れる。
「あとは巨大化させる事が出来れば」
『戦力になるって事だな?』
その問いにアダルはただ笑う。
『にしても記憶という壁を取っ払うだけで、急激に成長するとはな』
「言っただろ。あいつは才能と素質がある。まあ、まだトリアイナの使い方はなっていないがな」
トリアイナの正しい使い方をリヴァトーンが出来るのかという心配もアダルにはある。あれのせいで記憶を封じられたのだから。あれを使うのがトラウマになっているのではと少し心配をしていた。だが、これを乗り越えない限りリヴァトーンの成長はないのだ。だからからこそ、あえて取り上げたりせず、順応するように修行をつけてもいた。今現在リヴァトーン最大の武器はトリアイナであるため、取り上げる事はしたくないのである。
「さて、俺から話せる事は話した。今度はお前の番だ」
そう降るとフラウドは一瞬体を硬直させたが、それを直ぐに解き肩を落とす。その様子はどこか落ち込んでいるようにも、悲観に暮れているようにも見える。
『大陸にある国の内、三国が悪魔種の襲撃によって滅んだ』
重く閉ざされた口から放たれた言葉派にアダルは目を見開くことしか出来なかった。その後、アダルも落ち込む様に肩を落とす。
「そうか」
『住民は疎か、その土地にいた全ての生物が全滅させられた』
現実に起ったことを耳にして、自分が情けなくなる。そこの住民を助けるのが自分の役目だったのにと思わずには居られないのだ。
「襲撃をしたのはどんな生物だった?」
『・・・・・前に見えた動画があっただろ。その時写っていた炎を吐く大蛇だよ』
見せられたときのことを思い出し、アダルは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
『其奴の対策はお前が帰ってきてからやる。まずは軟体獣の討伐に集中しろよ』
アダルのその表情を見てられなかったフラウドは釘を刺しておいた。この件に関して言えばアダルが責任を感じる必要はないのだ。そもそも今回軟体獣の襲撃が読めたこと自体が稀。悪魔種がどこを狙っているのかなど分かるはずがないのだから。
「・・・・・・・。そうだな。集中するしかないしな。これ以上振り回されないためにもまずは軟体獣を倒す事が最優先だよな」
釘を刺された結果、アダルは少し冷静になることが出来た。
『そういうことだ。あの大蛇については出来る限り情報を揃えておくから心配するな。もちろん探索の方も忘れずにやっておく』
「深追いはするなよ」
『言われなくても分かっている。俺は部下を無駄死にさせるような指示は下す気はないしな。大蛇にあったらまず逃げるように命令を忘れずにするつもりだ。死んだら情報を持ってくることも出来ないしな』
軽く笑って答えるフラウドにアダルも釣られて「確かに」と言って笑って見せる。畑里して小さく笑い続けていた。それは一分ほど続き、さすがにその笑い方にフラウドは切り上げようと口を開く。
『さて、もう話す事は無いな?』
未だに笑いが交じっている声で訊ねるとアダルは何かを思い出したのか、首を振る。
「さすがに話しには聞いているとは思うが、この件が終わった後。落ち着いたらヴィリスは少しの間大母竜の元に返るそうだが。そこに俺がついていく事になった」




