四十七話 久しぶりのフラウド
「やっと、荷ほどきが終わった・・・・」
疲れた声で呟きながらアダルは近くにあった仕立ての良い一人用のソファに腰を預ける。不意に彼の目がある物を捕らえる。それは開けられた窓の外にある静かな海だった。
軟体獣襲撃から二週間が経ったこの日。アダル達の姿はアバッサの港ではなく、移転地の港にあった。厳密に言えばこの港もアバッサの国内にあるためアバッサの港ではあるのだが今はそんな事はどうでも良いことだ。
「・・・・・良い港だ」
しみじみと感慨深く様子で眺めた港の率直な感想を口にしていた。確かに今まで居たアバッサの港よりも規模が小さく、入れる船も限られているため少ししょぼく見えてしまう。しかしそれはアバッサの港が大きくて、何でもあったためであり、この港も十分の広さを誇っている。これの風景を作り上げた人物を賞賛したい気持ちになったが、誰が作ったのか思い出して、その考えを改めた。アダル達がこれから生活をするのは海に尤も近い7階建ての高級ホテル。アダルの部屋はその最上階にあるスイートと呼ばれる最高級の一室。座ったままではあるが彼は地上七階からの景色を愉しんだ。一般人が落ちたら一溜まりもない高さの所にある部屋だが、アダルはそんな事を考えない。何せ枯れた空を飛ぶため、高さには成れていた。それに落ちたとしても翼を広げれば飛ぶことも可能だから恐怖する事は無い。
ここのホテルで生活するのはアダル、リヴァトーン、ユリーノの三人であった。ヴィリスとガイドルは港より最も遠い高級ホテルにいる。これは襲撃に備えあえて別のホテルに泊まっている。彼らは事務方の人材だからもっとも安全な港から離れた所に居て貰った方がアダルとしても助かる。良くを言えば、ユリーノにもあっちのホテルに泊まっていて貰った方が良かったが、彼女がごねた為、コチラに止まって貰うことにした。正確にはガイドルの説得も効かず、リヴァトーンが彼女を助けた為だが、そんな事は誰も興味がないだろう。
「pirirr!!!」
そんな風に物思いにふけっていると突然アダルが王国から持ってきた鞄の中から甲高い音が鳴り響いた。いきなりのことだったから、アダルは驚き、思わずソファから転げ落ちそうになる。どこからそれが鳴っているのかと探し、鞄の方からなっている事が分かると彼は溜息を吐きながら立ち上がり、鞄に近付いていく。中をあさり、音を鳴らす物を取り出す。それは半径十センチほどの銀色の円錐状の小物だった。角のところがピンクに点滅しており、それに合わせるように甲高い音が鳴っている。
「piriririri!!!」
ずっと眺めていても成り収まる気配のしないそれを見てアダルは溜息を吐き、先程座っていたソファまで戻る。備え付けのテーブルの中央にそれを置き、点滅している角を軽く雄。為ると今まで鳴っていた音が鳴り止む。それと同時に点滅していた角から得何やら電子モニターの様な物が移し出された。
『やっと、でたか。俺からのコールは三回以内に出ろと前に言ったろ!』
モニターに映し出されていたのは王国に置いてきたフラウドだった。彼は彼で疲れた様二を滲ませている。目の下にはもう取れることがないのではと心配になるほどのクマができていた。
「そう言われても、こっちも忙しかったんだ。荷物に荷ほどきに少し時間が掛かってな」
面倒だから適当な嘘を言って逃れようとする。しかしガイドルは彼の言い分に反論する。
『忙しかった? そっちが勝手に忙しくさせたんだろ。お前のお陰でこちとらここ数日まったく寝ずに働いてんだ』
そう言うとフラウドは溜息を吐きながら、目元を抑える。さすがに目が限界なのだろう。
「現場には現場にしか分からない忙しさがあるのは分かってるだろ。それだよそれ」
アダルもアダルで少し疲れを見せていた。この症状はアダルが光神兵器を使ったときの物に似ていた。
『軟体獣から受けた傷。まだ回復できてないのか?』
意外だと言う表情をするフラウド。彼はこの世界に来てからのアダルの事を正直そこまで詳しくはない。だが、それを言うと語弊が生じてしまう。フラウドは情報としてだとしたら誰よりもアダルの事を知っている。それは彼にクリト王国を救済して貰おうとした時に、かたっぱしから彼の情報を集めていたからだ。フラウド自身も生れたときからアダルの事を聞かされていた。クリト王国を守ってくれた伝説の鳥が居たと。そして成長し、調べていく内に彼に前世での親友と同じような行動をしている事が分かった。そして思ってしまったのだ。彼は前世の親友で、巨大な鳥に転生したのではないのだろうかと。その仮説はある意味では当っていた。試しに歴代の国王が所持していた本を見てみたら、何故か鷹堂明鳥の名前があり、その偉業が書かれていた。それはこの国を救ったことが記されていた。だからこそ初対面の時、フラウドはアダルに対して旧友と久しぶりに会うかのように接したのだ。話しは逸れたが、フラウドはアダルの事を情報としては全て把握している。だが、それには未だアダルが開示していない事は含まれない。つまりアダルが公にしてない能力は詳細には分かっていない。そしてこの世界のアダルについては未だにフラウドでさえ、わかりきっていない。今の彼は何というか、情緒不安定で中々掴ませない性格になっていた。だからこそある意味では一番詳しく、一番分からないのだ。
「前に言ったろ。俺の再生能力は万能じゃない。回復できない攻撃も存在する。言ってしまうが、今回軟体獣が放った石化の怪光線。あれは俺に取って相性が悪い代物だ」
アダルがどのようにして再生していくのかいまいち原理が分からないが彼にも苦手な攻撃という物が存在しているのが分かった。彼も完璧な存在ではなく、ちゃんと弱点も存在する一生物なのだなとフラウドはしみじみ思った。
「それで、なんで呼び出した? こっちだって暇じゃない。さっさと用件を言え」
その言葉にフラウドは我を取り戻して、咳払いをする。
『いやなに。その街の感想が聞きたくてな。さっき荷ほどきが終わったって事は移転地の街に着いたんだろ?』
自分の失言に気付き、アダルは一気に不機嫌になる。しかし拗ねたわけではない。そんな姿を見せたら、からかわれることが分かっている殻、そんな姿をフラウドには絶対に見せないように心がけた。
「・・・・・・」
『だんまりを決め込むな。さっき僅かに顔の表情が変ったのは見て分かるぞ? その顔から判断してだが、何か思うところがあったんじゃ無いのか?』
フラウドの言葉に舌打ちを帰すアダルは背もたれに寄りかかり、テーブルにあった水の入ったコップを持ちそれを口に運んで口内を潤す。
「良い景色だと思うぞ? 時間を掛けた甲斐があるな」
言いたくなさそうな表情を為ながらアダルフラウドが要求している言葉を答えた。それを効いた。フラウドは満足げな卑しく笑う。
『そうか。お前がそう言ってくれてっよかった。何せお前達の為に作った街だからな』
「そこまでにしておけ。誰が聞いているか分からない」
そこでフラウドは自分の失言に気付き、少し焦った様すを見せた。
『確かにな。そのことを忘れていた。済まないな』
「別に良いさ。・・・・・・。さて、街の感想を聞くためだけという経ったそれだけの理由で通信を切るのは怪しまれるからな。これからは少し近況を話すとするか」
『賛成だ。調度お前に知っていて貰いたい情報があったしな』
 




