四十四話 情報漏洩の可能性
午後になり、アダルの姿は午前と同じく応接室にあった。ヴィリスは自分たちの移転準備のため姿はなかったが、代わりに海人種三人の姿があった。彼らは昼食後アダルに大事な話が合うと呼ばれていたのだ。三人は応接室の仕立ての良い椅子に各々座っている。リヴァトーンはアダルの隣に。ガイドルとユリーノは彼らの対面に腰掛けている。
「お前達に話す事が二つある」
大事な話と言うことナノで自ずと緊張感が高まっていた。アダルが声を発したのは、その糸が切れる寸前であった。後もう少し待っていたらユリーノが我慢できずに音を上げていただろう。
「まず一つ目だ。昨日の襲撃があって住民が移転地に避難しているが。俺たちもそこに向うことにした」
当然の如くその場にいた皆が驚愕する。そのうちリヴァトーンとガイドルはその意図を理解したのか納得した表情をする。しかしユリーノは違った。彼女は目の前にあるテーブルを叩いて体を前のめりにし、抗議した。
「どういうことよ! あの気持ち悪い生物を見逃すの!」
彼女はリヴァトーンとガイドルよりも理解力というか意図を深読みする力が足りない。だから。そのような結論に至ってしまったのだ。しかしこれは問題無い。なぜなら理解できてしまうリヴァトーンとガイドルが可笑しいのだから。普通の者だったらこれだけの言葉でアダルの意図まで読むことなど出来ない。そのことはアダルも分かっているため、彼女を責めようと思わない。逆に自分の考えを言える良いきっかけを作ってくれたと感謝していた。二人が自分の考えを理解できたのか確認することもできる機会も同時に作ってくれたことにも。
「一応分かっていると思うが俺が今言ったことには理由がある。そのもっともたる理由が軟体獣はもうここを攻めてくることはないって事だ」
「・・・・・・・? なんでよ」
首を傾げてしまったユリーノ。しかし自分が何も理解していないという状況が恥ずかしくなったのか、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら苦し紛れに問うてくる。
「まず奴等は必ず最初の襲撃で街を壊滅してくる。住民も皆殺しにする。だが、今回は違った。俺がいたからな。事前に前兆のような物もあったからとはいえ、対策するための時間があったのもでかい。だが、奴等は俺たちが想定していたより少し早く襲撃しやがった。そのせいで知られちゃ行けない事が知られた可能性がある」
「住民がこの港を捨て、避難すると言うことを」
補足したのはガイドルだった。しかし彼女の頭に当然の如くある疑問が浮かぶ。
「たったあれだけの襲撃で、そんな事が分かる物なの? だって、その軟体獣ってのは街を壊していただけなんだよ! そんな情報分かりっこない!」
彼女の言い分も尤もである。しかしそれはある可能性を除外した時のみ言える言葉である。
「たしかにそうだな。だが、軟体獣が発達した頭を持っていたらどうだ? もしくは軟体獣を操っている悪魔種がこの場所にいたとしたら?」
「そ、そんな事ありえないよ! だって悪魔宿は封印されて地上には出てこられないはずだから!」
朧気ながら覚えていた悪魔種の事を主張するユリーノ。彼女の主張にリヴァトーンも同調する。
「確かに悪魔種は地上に出られないな。じゃあ、可能性があるなら先に言ったほうだな」
「いや、後の方がおそらく正解だろう」
「はあっ?」
勝手に結論を下そうとしていたリヴァトーンの主張をアダルは否定する。それにはリヴァトーンも噛みつく。
「さっきユリーノが言っただろ! 悪魔種は地上には出てこられない。それなのにどうやってこここの港に来ることが出来るんだよ!」
横目で鋭い視線で睨み、喧嘩腰な口ぶりでアダルを問いただす。その目からはいい加減なこと言ってんじゃねぇぞという怒りが感じられた
「悪魔種は無理でもその協力者なら話しは別だろ」
アダルの発言をリヴァトーンとユリーノは理解できないと言うような顔をする。しかしそのことを知っていたガイドルだけは勝手に納得し、頷き出す。
「と言う事は感じたんですか? 協力者の気配を」
「ああ。軟体獣から僅かだがあいつの闇を感じた。まずここに来ているだろうな」
「・・・・・・? おい! なんの話しをしてるんだよ! 勝手に話しを進めるな」
リヴァトーンの抗議によってアダルは漸くある事を思い出す。それを思い出したと同時にしまったと顔に出してしまう。
「すまいな。これにかんしていえば完全に俺が失念していた。殺気から言っているとおりだが、実は悪魔種には地上侵攻を手伝っている協力者がいる」
返ってきた言葉にリヴァトーンとユリーノは部屋から漏れそうなほどの声が上げる。
「おい! その情報は最初に言っておくべき情報じゃないのか!」
「そうよ! それなのに失念してたうえに勝手に話しを進めるってどういうこと!」
これに関して言えば完全にアダルに非があった。二人の言い分も尤もである。だがこれに異を唱えた人物がいた。疲れた顔をして頭を抑えているガイドルだった。
「その情報は俺が言ったと思うんだが?」
呆れながらに口にすると二人の体は硬直し、一気に気まずい雰囲気になる。
「そうだっけか?」
「ああ。確かに言ったのを俺は記憶しているからな。お前等が聞き逃したのが悪いだけだ」
「なんだ、聞いていたのか。じゃあ、説明はしなくて良いな」
明らかに不機嫌になったガイドルを無視してアダルは話しを進めた。彼としても自分とスコダティのことを説明するのは今の状況だと時間が惜しくてやりたくなかった。
「さて、話しを戻すが。その協力者がいたせいでコチラの情報が漏れた可能性がある。これじゃあ、住民達を避難させても結局その場所が襲われるだけだ。だから俺たちはある決断を迫られた。それがこの町を捨てて、住民と共に行動するって事だ」
それによって移転先で襲われても速やかに行動できる。
「この町はどうするの? もしかしたら又この場所を襲ってくるかも知れないでしょ」
「その場合は俺が飛んで駆けつけるだけだ。だが、奴等が情報を持っていることを仮定したらもうここを襲ってくることは可能性としては低いだろうな」
絶対とは断言しない。悪魔種とスコダティがどのような考えで動いているか分からない。ただ分かることと言えば悪魔種は明らかに血を望んでいる。そう考えたら蛻の殻のここはに襲撃するという無駄なことはしないだろうとアダルは考えている。
「それにこの街に留まって移転先を襲われたらどうする?」
言い返しの出来ない、正論を投げかけるとユリーノは黙ってしまった。
「幸いここの機能は今完全に停止している。襲われたとしてもまったく痛手にはならない」
重要な施設や部品。重機は軟体獣に破壊されてしまったから。港としては完全に機能を停止し、住民がいない為死傷者を出す心配が無い。これ以上何を破壊されてもただ建物が壊されるだけなのである。
「と言うわけで、俺たちも移転地に行くって事だ。分かったな?」
それを問うと、皆が頷く。
「じゃあ、この話が終わったら準備をしてくれ」
アダルはそこで息を継いで、テーブルに置いてあるカップに口をつけ喉を潤す。
「さて、二つ目だが。リヴァトーン以外の二人に聞きたい事がある」
指名された二人はアダルの言葉に怪訝そうな顔を見せる。
「何を聞きたいんですかですか?」
余計な事を言って言質を取られないように気をつけているガイドルは分かっていた。アダルが何か聞きづらいことを聞いてくると。それがなんなのかは分からないがきっと自分たちの不利益になるような質問をしてくること察した。
「何簡単な事だ。リヴァトーンの身に何が起ったのか。それが聞きたい」




