表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
9/310

九話 説明

 前世の王来を表す言葉は間違いなく腹黒であるとアダルは考えている。前世では成績も優秀で教師からの信頼も厚い。そして人をまとめる能力があったためよく委員長をしていた。しかし彼は昔から人に心を許してはいなく、自分の根本的な所は絶対に他人には見せなかった。そんな腹の底で黒いことを考えているような彼が唯一、前世のアダル。明鳥の事だけは心を許していたという。彼曰く「お前は俺の唯一の友だ」と恥ずかしげも無く言っていたことを思い出す。

 そんな彼が前世と変わらぬ姿で優雅に紅茶を楽しんでいる。さらさらな黒髪に黒曜石を思わせる輝きをもった黒の瞳。それが台無しになる程の切れ目でいつも仏頂面の表情。そんな変化のない彼を見て懐かしく思いながら、アダルは彼の正面の席に腰を下ろす。

「何をにやけている。会いも変わらず気持ち悪い」

「久しぶりに会ったのにそれはないだろ? 王来」

 前世での名を呼ぶと彼は呆れた表情をして、読みかけの本を閉じた。

「ここでは前世の名前で呼ぶな。この世界の俺の名はフラウドという。呼ぶならそっちで呼べ」

「ああそう。そういうことならいいぞ」

 アダルは納得したように頷く。フラウドはその様子を見向きもせずに再び本に目を移す。

「お前はこの世界に来て何年だ?」

 読書を続けながら彼はは訪ねてきた。その間も彼の目はアダルに向くことは無く、活字に向いている。そんな前世でよく見た状態にアダルはため息を吐く。

「お前、その悪癖まだ直ってなかったのかよ。さすがに失礼だろ。それをやるのは俺だけだということは分かっているが、見てるこちらも気分が悪くなる」

「話を逸らさず答えろ。何年だ?」

 たしなめても聞く耳を持たないのは相変わらずだと思い、あきらめた様に口を開く。

「二百年くらいだな。俺が目を覚ましたのは」

「俺は百五十年前だ目を覚ました時は混乱したぞ。からだがの自由が効かなくて」

 フラウドはようやく本を読み終えたのか、それを閉じテーブルの上に置いた。

「なんで俺が来ると分かった?」 

 アダルは疑問に思った事をそのまま口にした。すると彼は初めてこちらに目を向けた。

「ふっ。そうだな。お前には話しておくか」

 そう言うと彼は前世で俺にだけ見せた微笑をした。

「この本が教えてくれたのさ」

 そう言うと今まで呼んでいた本を自慢げに掲げる。そのこうどうに彼は呆れた顔をする。

「本が教えてくれたのは本当さ。この本は代々王だけが所有できる不思議な本でな。これには本を開く者の未来が書かれている。そして今日。お前がこの王都に来ることが分かった。というわけだ」

 彼はそういうと再び、その本を机の上に置いた。

「お前がそれを持っていると言うことはお前も王様なんだな」

「ああ、そうだとも。今代では無いが、歴代の王と言うことでこれを所持している」







「俺が生まれたのは百五十年前だ。俺はその時の国王の第一王子としてこの世界に生を受けた」

 フラウドは突然自分の出生話を始めた。

「王族か。お前らしいな」

 愉快そうに言うアダルにフラウドも笑って返す。

「ああ、俺も思ったぞ。そして内心爆笑していた。まさか本当に王族になるなんてな」

 前世でも人を導く力を持った彼だ。この世界でその能力が本格的に発揮されるだろう。

「体が成長し、俺が四つの年になったときだ。俺にそれが聞こえたのは」

「聞こえた?」

 怪訝そうに返すアダルにフラウドは頷く。それを見て、彼は目を見開いて驚愕した。

「お前にも聞こえたのか?」

「ああ、そうだ。どうやら他の者も聞こえていたらしい」

 彼らが聞こえたというのは、何故の謝罪の事だ。突然頭に響いたそれは誰もが驚くであろう。

「他の? お前は他にもこっちの世界に来た連中と連絡が取れたのか?」

 先程のフラウドの言葉に身を乗り出し突っかかるアダル。そんな彼にフラウドはただ頷いた。

「俺はクラスであの爆発に巻き込まれた十五人。その内の十人の居場所を調べ上げ、接触した」

 彼から告げられるその言葉にアダルは呆然とした。彼は誰一人とも会わずに、探索するのが嫌になり、洞窟に引きこもった。その言葉は自身を否定しているように聞こえたのだ。

「お前も俺と同じような事をしていたらしいな? だが、落ち込むな。お前が一番早くこの世界に来たんだ。他の連中がこの世界に来たのは俺が生まれて以降の事。お前が見つけられないのはしょうが無い事だ」

「そうなのか?」

「ああ、そういうことだ。だから気にすることは無い」

 フラウドにそう言われると、彼は少し落ち着いたのか息を吐いた。その様子を見計らって彼は口を開く。

「話を続けるぞ? 俺はあらゆる手段を駆使して爆発に巻き込まれたクラスメイトの内、十人を見つけ出した。それでも見つけるのには苦労したがな」

「そうだろうな。俺も探してはみたが、何せこの世界は広い上に種族も多い」

 彼の言葉に同意して頷くアダル。そんな彼と同じ意見を持っていたフラウドは続きの言葉を紡いだ。

「そうだな。この世界には十を超える人種以外の知的生物が存在している」

 彼はそう言うと徐ろに紙とペンを取り出し、説明を始める。

「地上の大陸のほとんどを統べる人種。森の賢者と呼ばれる長生種(エルフ)。人種の次に多いと言われる獣人種。夜の支配者と呼ばれる吸血種。海底に住むと言われる海人種。小柄ながら魔法の扱いに秀でているいる妖精種。普段は温厚だが怒ると島を沈める怪力を発揮すると言われる霊鬼種。他の種族に悪戯ばかりしてくる怪異種。大陸を作ったと言われる一族、大竜種。そして天界より地上を常に監視していると言われる天使種。これが全部じゃないが大まかに確認されている知的生物の一覧だ」

 説明しながら彼はこれを書き込んでいった。

「お前はこの中だったら何種になるんだ」

 フラウドは笑みを浮かべながらそん名事を聞いてくる。アダルはその返答に少し迷いを見せた。

「どうなんだろうな・・・」

 顎に手を当て考え始める。しばらくの思考の彼は口を開き始める。

「お前。俺の本当の姿って知っているか」

 その言葉にフラウドは頷きで返す。

「多分だが、俺は種族的には獣人種に当てはまる事になるな。俺自身はそれに当てはまるとは思えないから天輝鳥と名乗っていたが」

「そうか。だから可笑しな種族名だったのか」

 彼の言葉にアダルは思わずフラウドの顔に目をやる。彼の表情は笑っていた。

「まあ世界を回っていたお前はいろいろと見て気付いてたんだな。何せ獣人種には鳥の獣人はいないからな」

 綴られる彼の言葉にアダルはああと返すし、続きの言葉を発する。

「他にも種族が居ないか探してはみたんだが、どうも五十年じゃ見つけられなかった。だから俺は自分の事を天輝鳥と呼ぶことにした」

 フラウドは頷くと徐ろに再び、ペンを手に持った。

「丁度良かった。お前に言うことがあったしな」

 言葉にしながら彼は新たな文字を紙に記していく。

「ここ最近。この種目に新たな種族が加わる事になった」

 告げられた言葉に思わずアダルは耳を疑った。

「それは本当か!」

 思わず身を乗り出し、フラウドに問い詰める。フラウドは頷くと供にその種族の説明を始めた。

「その種族は獣の姿をしながらも人の言葉を理解し、話す事が出来るほど脳が発達しているという。それはさながら神話に出てくる伝説の獣のようだという」

「そんな種族がいたのか」

 アダルの問いかけにフラウドは淡々と首を振る。

「それに人間化する能力もあると聞いた。お前みたいにな」

 彼を目配せをしながら書き綴る。それを終えると今書き終わった紙を渡してくる。アダルは徐ろにそれに目を通す。

「その種族の名は神獣種。神話に出てくる獣から名を取ったものだという」

「神獣種か」

 思わず呟いてみるとアダルはあることに気付く。

「おい! まさか俺も」

「おそらくその神獣種の一体だな。今確認されている個体は五体だが、お前が加われば六体になる。希少種なんだぞ」

 それにはさすがに言葉をなくす。しかしそんな彼などお構い無しにフラウドは言葉を続ける。

「そんな希少な種族に成っていたのかよ。俺は・・・・」

 衝撃の事実が彼の口を重く閉ざした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 妖精種の説明で『小柄ながら魔法の扱いに達観している妖精種』とありますが、『達観』ではなく『卓越』とかの間違いでは? 達観だと日本語がおかしいですよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ