四十一話 避難完了
ユリーノの上げた声に返答するのは笑いを堪えているリヴァトーンだった。
「そ。そう、だぞ!」
堪えているとは言え、彼女の言ったことが想いの他壺だったらしい彼は場違いな笑い声を上げる。
『笑っている場合じゃないだろ。ここはもう戦場だ。はやく避難誘導を終えてお前達も逃げろ。その間はどうにかこいつの動きを止めてやる』
「分かってるぞ!」
返事を返すとリヴァトーンは少し強行手段を執ることに決めトリアイナに指示を出す。
「逃げ遅れた連中を連れて行け、トリアイナ!」
言葉を受けたトリアイナは言葉を理解し、それに従うような動きを見せた。トリアイなの取った行動は凄く簡単。逃げ遅れた民衆たちの服の肩部を貫き始めた。
「うおっ!」
「なんだ?」
「ちょっと待て!」
貫いているのは服だけ。肉には一切に触れずにそれを行なっていく。その作業はおおよそ一分ほどで終了した。何が起ったのか分からない民衆であったが、命の危機と言うことだけ思い出し再び走り出す。それを見届けるとトリアイナはリヴァトーンの手元に帰還する
「いくぞ!」
言葉と共に彼はトリアイナを上に掲げる。と同時にユリーノの体を抱き寄せた。彼らの体は浮遊を始める。もともとどこでも自由自在に行動させられるトリアイナだ。それを持つことによってリヴァトーン自身も空を飛ぶことは可能だった。しかしそれをやったのは今回が初めてであった。
「うっ! これは少し気持ち悪いな」
浮遊になれていない彼は気分が悪そうに表情を歪める。しかし軟体獣の動きを見てそれも直ぐに引っ込んだ。アダルが体を絡めて動きを抑制してはいるが、体が柔らかいためそれは完全ではない。今にも触手の1本をたたき込みそうな動きを見せている。
『早く行け!』
少し焦った様な口ぶりのアダルの言葉に従うようにトリアイナをホテルの方に穂先を向ける。逃げ遅れた民衆にある変化が起った。貫かれた服がいきなり碧色に発光を始めたのだ。その光に逃げながらも民衆達は困惑して見せた。その様子を上から見ていたリヴァトーンはニヤケながら呟いた。
「飛べ」
それを言った瞬間民衆の体は浮遊を始める。驚愕の声を上げながら今の現状を遂に理解できなくなった彼らは姫うぃお上げ始めた。
「降ろせ!」
「助けてくれ!」
などの言葉が聞えてくる。その状況を見てユリーノは少し可哀想になった。
「ねえ、何をするの? 少し可哀想じゃない?」
「・・・・・そうだな。だが、今そんな小さい言ってる暇は無いと思うぞ」
そう言うと彼が見たのは軟体獣だった。アダルもいよいよ抑えられなくなっていたのだ。今動いている触手は3本。それだけあれば逃げ遅れた者達を殺す事は簡単だろう。そう思いながら、彼は再び呟く。
「行け」
言った側から浮遊していた民衆達は猛スピードで高台の方に飛んでいった。様子を眺めながらリヴァトーンは内心上手くいって良かったと安心していた。今回民衆を避難させるために飛ばした方法。これは彼が今考えついた方法だった。だから内心不安があったのだが、それは想いの他上手くいく結果となった。
リヴァトーンが考えた理論はこの様なものだった。これはアダルとの訓練中に発覚したことだが、トリアイナの穂先が触れた無機物はトリアイナと同じような動きをする事が出来る。実際訓練時、穂先が触れた小石がトリアイナと同じように命令を受けて、アダルに襲いかかったことがあった。この思わぬ手にアダルは驚愕して、防御するのが一瞬遅れ小石の軍団を回避することが出来ず、そのまま全弾浴びたのだ。さしてダメージにはならなかったがそのことにアダルは驚いていた。しかし一番これに驚愕していたのはリヴァトーン本人だった。何せ今までこの様な能力があるなんと知らなかったのだから。この事があったから今回の行なった案を思いついたのだから発見できて良かった能力ではあるだろう。これを発展させることが出来れば戦闘に生かすことが可能である。これはリヴァトーンの成長に期待と言ったところか。
『避難し終わったみたいだな!』
声を出すアダルは不意に軟体獣の拘束を解き、背後から蹴りを入れる。いきなり体が自由になった事に軟体獣は呆気にとられて、次に来た蹴りを真面に食い、その場で前のめりに倒れた。アダルは腕を掲げて手に光の杭を作り、それを軟体獣の体の中心に突き刺す。
「キュララララ!!!!」
悲鳴のような甲高い鳴き声を上げながら藻掻く。今軟体獣が感じているのは刺された痛みと高温に焼かれる痛みだ。どうにか杭を抜こうと触手を差し向けるが杭が高温を放っているため触っても焼かれる。それでもアダルは確信している。軟体獣はきっとこの拘束を直ぐに解くだろう。自分がしたことは先ほどと同じような時間稼ぎに過ぎないことを。
『お前はホテルに行け』
軟体獣から目を背けず、リヴァトーンに言葉を投げかける。未だ浮遊中の彼も軟体獣を見ていた。
「リヴァトーン。こいつの話なんか聞かなくて良いから。君は君らしく闘っちゃえ! 私も援護するからさ!」
抱き寄せている為、間近でユリーノの声が耳に届く。リヴァトーンは彼女の顔を見て、少し考える様な顔をする。
『俺と話したこと忘れているわけじゃないよな! お前が闘うタイミングは今じゃない! まだ先がある。だから今を生きる事を考えろ!』
そう言っている間にも軟体獣に指した杭は抜け掛かっていた。アダルは舌打ちを鳴らし、両手を広げて、光の鎖を作り出す。何をしたかというと、アダルはそれをリヴァトーンとユリーノの体を纏めて巻き付ける。
「ちょっ! なにを!」
「・・・・・! まさか!」
察しの良いリヴァトーンはアダルが何を使用としているのかを分かると顔を急激に硬直させた。
『そのまさかだよ。今は時間が無いからな』
徐ろにそれをハンマーのように回し始める。回転が増すにつれてリヴァトーン達が感じる速度は速くなっていき、彼らの体が限界を迎えル手前のタイミングで、アダルはそれをホテルの方に投げる。
「巫山戯るな!!!!!!」
段々小さくなっていく罵倒の声を聞きながら、内心でそれを言う資格はないだろとツッコミを入れた。彼が先程やった行為も同じような事であり、今の台詞は何も言われずに飛ばされた民衆達も思って居たことなのだから。
『さて。これで何も気にする事無くこいつと戦えるな』
声を出して、軟体獣に目を見据える。既に軟体獣は杭を完全に抜いており、おぼろげではあるが立ち上がっていた。
「キュラア!!」
文句を言っているように聞える。何を言っているかは大体分かった。おそらくは面倒な攻撃をしやがってと言いたいのだろう。
「キュララア!」
6本の触手の先端を見せるように上げると、それはいきなり甲高い音を出しながら回転しだした。先端が尖っているためドリルの様だ。この攻撃はリヴァトーンもやっていた攻撃だ。海の中だと渦も作って強力な攻撃になるのだろう。だが、軟体獣の方はそれが6本で、回転も此方の方が明らかに速い。それらは一斉にアダルに襲う。関節がなく、動きが不規則で読みづらい。それでも全部が自分に直撃させようとしているのが分かって居る彼は、翼を広げそれを羽ばたかせる。一回の羽ばたきで攻撃の上に回避する事に成功した。触手のドリルはほぼ下を通過したのだ。アダルは攻撃を仕掛けようと前のめりになった瞬間アダルは見た。軟体獣の脚部になっている触手の内、4本が急激の伸びて先程と同じように回転を始めている光景を。そしてアダルはここで致命的なことをしてしまった。なんとそれを見てあろう事か、隙を見せてしまったのだ。これを見逃さない軟体獣は賺さず触手を仕向けた。一瞬の隙を突かれたアダルは回避しようとしたが、先程襲ってきた触手の内1本が彼の足に絡まっていた。舌打ちをして避けられないと悟るアダルに触手達は直撃した。




