四十話 合流
「リヴァトーン!」
飛来する瓦礫のを粉砕していたリヴァトーンは不意に後方から聞こえた声に反応して、振り返る。
「ユリーノか。遅かったな」
「これでも結構急いだんだよ?」
彼女の額から汗が滴っているため嘘は言っていないというのは分かっている。
「息上がってるな。運動不足か?」
「そんなわけ無いでしょ。ただ、肺を使った呼吸に成れて無くて走ったらこうなっただけだから」
言い分にリヴァとトーンは呆れた表情をする。
「それは良いわけには成ってないぞ? 何たって俺様もいま同じ状況な訳だからな」
返ってきた言葉にユリーノは拗ねたように顔を背ける。
「「リヴァトーンは何でも直ぐ出来ちゃうじゃん。私は君ほど天才じゃないから成れるのにも時間が必要なんですよ!」
彼女の言い分に納得する様子を見せるリヴァトーンは得意気になる。
「「確かに俺様は天才で要領も良いから何でも直ぐにこなせるな。すまん、さっきのは嫌味のつもりで言ったんじゃないんだ」
「それは分かるけど今の言葉は嫌味だよね」
目を細めて主張すると余裕のある笑い声を上げた。
「そうだ。悪かったか?」
「・・・・・・・別に。リヴァトーンはいつも悪く無いよ」
なら良かったと口にして、彼は再び戦場に目を向ける。
「それで。こんなところで留まって何をしているの?」
隣に来て問う彼女にリヴァトーン横目で睨みを入れる。
「当然闘っていたんだよね」
期待した目を向けてくるユリーノにリヴァトーンは正直な事を答える。
「俺あの戦いには戦闘していないぞ」
「・・は?」
彼女にとっては衝撃的な言葉がリヴァトーンの口から聞えた。思わずその言葉の意味を拒んだ脳はそれを顔にだした。
「聞えなかったか。俺はあの戦いには参加せずにここで雑用をしていた」
理解していない彼女に現実を教えるかのような口ぶりでもう一度同じ事を言う。
「な、なんで? 何で参加しないのよ!」
漸く彼の言ったことを理解したユリ-ノは声を荒げてその肩に掴みかかる。
「君らしく無いじゃん!」
「そうだな。俺らしくない。分かっているさ」
そう自分らしくないのは分かっている。誰よりもリヴァトーンが。
「だったらなんで参加しないの! 命が惜しくなったの?」
「見損なうなよ。俺が自分の命を惜しむような奴だったか?」
脅しのように地の底から出て居おいるのかと錯覚するほど低い声が彼女を捕らえる。その声にユリーノは一瞬怯える。しかしそれを見た彼女は歓喜する。
「そ、そうだよ! リヴァトーン。それが君なの! ここで黙って見守るんじゃなくて戦場で相手を恐怖させる。それが君なんだよ!」
両肩を掴んで嬉しそうに語る彼女。しかしリヴァトーンの表情は堅いままだった。
「じゃあ、さっさと行こうよ! あの鳥野郎より早くあいつを倒してやろうよ」
戦場向うように促すユリーノしかしリヴァトーンは動かずただ飛来してきた瓦礫を処理し続ける。
「ちょっと。何してんのよ。早く行こうよ! そうしないとあいつに取られちゃうよ?」
少し焦り気味に促す。それでも彼は動けない。今はこれが役目だと言うことを理解しているから。
「なんで向おうとしないの!」
そんな消極的な態度のリヴァトーンに痺れを切らしたユリーノは直接それを聞いた。それに対し、彼は後ろに目を向けるように顎で促す。彼のそれに仕方なくといった感じで従い、目を向ける。
「まだ避難者が残っている。こいつ等がこの区画から逃げるまで俺はここを離れることはできない」
背後には未だに大勢の逃げ遅れた者達がどうしたら良いのか分からず、当たりをきょろきょろして居た。
「さっさと逃げろ! 高台のホテルにだ! あそこなら安全が保証されているぞ!」
そんな彼らに振り返らず大声で促す。しかしその前に戦場で爆発音が響いたため、それを真面に聞こえた人物は少なかった。
「お前もさっさと俺にあそこに行って欲しかったら手伝えよ」
「・・・・・」
あまりにも彼らしくない行動にユリーノは言葉を失い、呆然とリヴァトーンを見つめる。彼女は彼を見つめる中である考えが頭を過ぎる。それはあまりにもリヴァトーンらしくない行動を繰り返す彼に抱いて可笑しく無い疑問だった。彼は本物のリヴァトーンなのか? 本物は戦場で戦っているのではないのか? だったら今目の前に居る彼は偽物であり、自分からしたら主の姿を語っている不届き者ではないか。不届き者を許せないと思う彼女の手にはいつの間にか短剣が握られていた。
「・・・・・」
近づいてくる気配。殺気の込められた眼差し。それらを向けられたリヴァトーンは彼女の方を見なくてもこれから何をしようとしているのか察しが付いた。そこから何故という疑問に言ったが、そこも直ぐに分かった。彼女をその思考に至らせてしまった事を反省してか、溜息を吐き、トリアイナを操ってユリーノ腕を巻き取る。咄嗟のことで対処出来なかった彼女は手に持った短剣を手放して、トリアイナに目を向ける。そしてそれを見て冷静になった。
「冷静になったか?」
「トリアイナを操れる。と言う事は本物?」
今会った事を確認するように口ずさみ、自分が何をしようとしていたのか漸く理解した彼女は目を見開く。
「私は本物のリヴァトーンを偽物と疑い、あろう事か不届き者と始末しようとしたの?
わ、私何やってんだろ」
冷静になった彼女に待っていたのは自分は取り返しの付かないことをしようとしたのだという後悔の念。こその力が抜けそうになり、足腰がふらつく。しかしそれをなんとか堪える。
「俺が情けない姿を見せたのがきっかけだ。お前がそんな俺を見て偽物だと思うのは当然だよな。すまないな」
「・・・・・。」
先に謝れてしまい、彼女はこの後言う言葉を失ってしまう。その時、大きい衝撃音が戦場の方から響いてきた。何事かと彼女はそこを見ると、目を見開いて体を強ばらせた。何本もの触手がうごめいている。禍々しいオーラを放っている。気分の悪くなるような異形の姿をしている。今まで見たことがない異形の怪物を目にして、彼女は本能的に恐怖を抱いた。そしてこれがいままで感じていた邪悪なる気配の正体。悪魔種の巨獣だということを理解した。巨獣は未だに人が残っているリヴァトーン等が居る辺り一帯を見付け、触手を振ろうとする動作を見せる。食べようとしているのか。はたまた叩きつぶそうとしているのかは彼女には理解が出来ず、ただそれを見てるしかなかった。
『やらせると思うのか!』
聞いた事がある声が大音量で響くと、瞬間的ではあるが眩い光が目の前に現れる。あまりにも眩しさを前にして咄嗟に目を瞑り、その上で手でガードする。それでも瞼越しにまぶしかった。だが、それは瞬く間の時間で終わる。それを感じ取ったユリーノは目を開ける。見えたのは光沢のある鎧を思わせる鱗に覆われた鳥の足。見上げるとそこには虹色を放つ翼を持った巨大な鳥人が数本の触手を纏めて掴み、巨獣の動きを抑制していた。
『おい。リヴァトーン。さっき言ったこと覚えて居るよな。俺は逃げろと言ったぞ?』
軽い口調ではあるが、明らかな注意だった。その声にリヴァトーンは鼻で笑いを入れ、言い返す。
「それは聞けないな。俺様は逃げることはしないし、命を見捨てることも出来ない。だからここに留まってあんたらが飛ばした瓦礫の処理をしながら避難誘導をしていたんだぞ?」
その姿を見ても臆することなく対応するその姿にユリーノは呆けてしまう。
「ねえ、リヴァトーン。この鳥って知り合い?」
彼女の問いかけに彼は一瞬不思議そうな顔をするが、直ぐに笑い出す。
「そうか。お前は巨大な鳥が誰なのか分からないのか! これは傑作だ」
『俺は傷付いたぞ。いつも一緒に居たはずなのにな』
いつも一緒に居たという部分を聞いて、彼女は首を傾げる。こんな巨大な鳥と居た記憶が無い体。彼女が共に居たのはリヴァトーンと彼女がいけ好かないと感じていた光の翼を持つ鳥野郎と言っていたアダルだけ。そこでえ彼女は気付いた。
「も、もしかして。濃い湯ってあの鳥野郎なの!」




