三十九話 ユリーノは走る
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ユリーノは走っていた。住民が混乱し悲鳴を上げて逃げる中彼女は逆走していた。彼女が向っているのは己の主が居る場所。彼女にはリヴァトーンがどこに居るのか感じることが出来た。だから彼から離れていてもその意場所が分っていたため、自由行動をしていたしそれがあるからリヴァトーンの護衛を任せられていた。これは遊び場につかっていた海底火山が噴火した際、それに巻き込まれ数十キロ飛ばされた時に備わった力だった。何故かは分らないが彼女はその力が備わって良かったと思って居る。何故ならこれは目的の人物が死んでいない限り、必ず見付け出す事が出来るからだ。つまり生死が分かるのだ。それでいてどんなに離れた場所に居てもそれは感じられる。これほど人捜しにうってつけの能力は無いだろう。そして今リヴァトーンの気配は港から一キロほど離れた場所より感じられる。ついでにアダルの気配も感じられたが、彼のそれは何か気持ちの悪い気配と共にあった。それが何か分らなかったが、兎に角彼女はリヴァトーンの元に辿りつくことだけを考えて走った。
「っていうか、なんで今日なのよ!」
この混乱を引き起こした存在。それはなんとなくであるが彼女にも理解できた。と言うか港の方から逃げてきた住民達が逃げながら口にしていたのだ。悪魔種の襲撃だと。きっと
先程感じたアダルの近くにある気持ちの悪い気配がそれなのだろう。しかも明日で港を閉鎖して避難の前日で未だに人の残っている街を襲撃するなど、質が悪い。よほどこの大陸に住む全ての種族に恨みを持っているのだろう。
「おい! 嬢ちゃん。どこに行く気だ!」
不意に背後から呼び止められる。逃げ惑っている住民と違い逆走している自分に言ったのだろうと分った彼女は振り返り声の主を探す。すると明らかに焦燥しきった小太りの中年男性が人混みをかき分けて来た。
「なんで逆走してた?」
まさかこんな混乱した中に真面な判断を下す人間が居るとは思わずユリーノは驚きながらも少し苛ついた。
「彼氏があそこに居るの。だから探しに行かないと。あの人恐がりで、きっと何も出来ずに体を震えさせてあそこに留まっているの。だから死ぬ前に助けに行かないと」
探しに行く事以外は全部嘘を吐いた。探しに行っているリヴァトーンは彼氏ではない。彼女が思いを寄せているのはガイドルで、リヴァトーンもそれを分っている。それに恐がりだったら地上には来てないし、その場に留まっているとしてもそれは体が動かないからではなく、敵に対抗する為。
「それならボクが行こう。だから君は逃げなさい」
予想出来る答えが返ってくる。それにユリーノは仄かに嫌な表情を見せる。当然男もそれに気付く。しかし彼女は気付かれてないと思いながら言葉をつづけた。
「その・・・・・。駄目なの。彼、とても人見知りで。私が行って助けないと」
「なら、なおさらだ。君が危険に曝される事を彼も望まないはずだ。だから彼氏の琴葉ボクに任せて君は逃げなさい」
100%善意で行ってくれていることは伝わってくる。きっとお人好しなのだろう。しかし今この状況においてそんな真面な判断を下さないで欲しい。それも自分相手に発動されても迷惑な話だ。行かなければならない理由があったから逆走していたのだ。まあ、それを言っても彼は理解をしてくれないだろう。その考えの元、ユリーノは強硬手段をとった。
「ごめんなさい!」
言葉ではそう言いつつも、謝罪の気持ちなどこもっていない。彼女は振り返って、地を蹴り、駆ける。
「ま、待ちなさい!」
そう言われても聞く耳など持たない。その上もうその言葉が届くことがないくらいの距離があった。彼女は元々その言葉に耳を貸すつもりなど無かった。自分の主でさえ、あまり持っていないのだ。他人に貸す耳など無い。だが、懸念は残る。もし彼がよほどのお人好しだった場合追いかけてくる可能性が有ると言うことを。しかし彼女はそのことを完全に失念していた。彼女は人間を甘く見ているのだ。自ら危険を犯すような人物が人間にいるはずが無いと。だからこそその考えに至ることはない。というか彼女自身興味が無いのだ。そのこともあって駆けている最中でユリーノの頭から完全に先程の男性は消え去った。
「さと、どこに居るかな?」
感覚を鋭くさせ、リヴァトーンの居場所を探る。破壊された瓦礫が多少の邪魔になっているがそれでも居場所を知るのには支障が無いらしく、直ぐに見つかった。先程居た場所より少し港側に移動しただけで、大きな動きはしていなかった。内心で良かった喜ぶ。それはまだ生きていたことにだ。リヴァトーンと幼少の頃より一緒に居た。彼女にとって彼は退屈な世界を壊してくれた大事な友達だった。だから彼が瓦礫に潰されて死ぬことがないのは知っている。海底の世界では王様であり、彼の父親であるスサイドンに次ぐ実力者だ。この程度で死ぬはずがないという確信を持っている。それでも一応心配はしている。だからこまだ生きていて良かったと言う思いがこみ上げてきたのだった。
彼の動きを探ると、どうやらトリアイナを使って居るようだった。その距離だったらギリギリ悪魔種の手先である巨獣に槍が届く。だからユリーノは勘違いしていた。彼が今遠距離からトリアイナを操って闘っていると思い込んでいた。彼らしくない戦い方をしているなと思ったが、深くは考えなかった。今ははやく合流する事を考えて、そこで感知を切り、走ることに集中した。未だに逃げ惑う人の群れが港の方から続々と逃げてくる。それにぶつかりながらもなんとか一人一人の間を潜って速度を緩めない。雑踏の中であらゆる声が聞えるが、彼女はそれら一切を雑音と切り捨てその情報を排除する。
逃げてくる人の数が減り始めたところで、彼女は1度立ち止まった。見に入った光景が彼女を止まらせた。そこは先程まで栄華を極めていたとは思えないほど破壊されていた。見えるのは壊れた建物と壊れかけの建物だけ。空を見れば粉塵によって黄色く曇り、僅かに光が差し込まれている。時折瓦礫が雨のように飛来する。そして彼女が一番目を引いた物。それは気味の悪い触手を持つ一つ目の巨大な生物と虹色のつばさを持つ巨鳥が格闘を繰り広げている姿だった。それはまさに彼女が知る神話の物語のようで、現実には思えない光景だった。それを見て理解したこれを見たら確実に逃げたくなる。明確な命の危機が迫っていることが分ってしまう。海賊とかは出るが、割と平和な生活をしてきた住民からしたら巨大な触手を持った災害が突然襲ってきたような感覚なのだろう。彼女が知っている人物で政治面の動きをしていたガイドルはこの光景を住民達に見せないように動いていたのだろう。しかしその願いは呆気なく壊されてしまった。
「っ! そうだ。探さないと」
しばらくその光景に呆気を取られていたユリーノだが、目的を思い出して徐ろに目を閉じる。こうしなくてもリヴァトーンを探すことは出来る、彼女は目を閉じた。無意識で目を閉じていた。この光景を見たくないという深層意識がそうさせたのだろう。しかしそれを彼女は認識していなかったし、気にしてもいなかった。
「良かった、あんまり動いて無くて」
リヴァトーンのが先程の場所より動いていないことを安堵する様に肩を落とす。そして彼が居るはずの所に目を定めて走行を再開させた。物の三十秒程でその目にリヴァトーンを捕らえると彼女は手を上げて彼に呼びかける。




