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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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三十六話 スサイドンの配慮

彼の提示した二つの可能性。リヴァトーンはどちらも心あたりがなく、首を傾げていた。そんな彼にアダルは問いかけた。

「良く思い出してくれ。それがきっと大精霊化に繋がる道になる」

「思い出せって言われても・・・」

 少し渋りながら彼はアダルの言った通りに自分の過去を回想していた。さすがに物心が付いたところからではあるが、リヴァトーンは記憶力が良く自分の行った事や見た光景などを鮮明に思い出してみた。

「出来れば今声に出してくれ」

 アダルの要請に答える様に記憶を口に出す。

「小さい頃は城から飛び出してばかりだったな。外で遊ぶのが楽しかった。父も母も何も言わないことをいいことに好き勝手していた。お陰で悪ガキ王子と呼ばれるようになった」

 その当時のことを思い出し愉快そうに笑う。

「城外で遊ぶそうになって直ぐにユリーノと親友になった。当時の俺様より刺激的なことをするあいつと居ることが面白くて、あいつと連むようになったな」

「そうか」

 ただ聞くのも何なので適当に相槌をうつ。

「都市が4か5に成る頃から戦闘訓練が始まった。そして同時貴族の子女子息と交流するようにと言われて大陸で言う貴族学校の海霊教育舎に入れられ、そこでガイドルと出会い連むようになった」

 よほど嫌だったのか苦い顔をしている。

「それからガイドルをユリーノに合わせて一緒に遊ぶようになったりしたな。それ以外は戦闘訓練に時間を費やしていた。それから数年は何も特に大事に巻き込まれるような琴葉無かった」

 遊びの一環で自警団のまねごとのようなことはしていたが。それも大して大きいことにはならなかっただろうとリヴァトーンはそれを楽観視して話さなかった。しかしそれは彼が思っているほど軽い物では無かった。リヴァトーンは遊びでやっていたと言っているが実際は結構な犯罪者を確保しており、その中には凶悪な殺戮者。スサイドン殺害を目論んだテロリストや反逆者も含まれていた。確保する際相応の戦闘が繰り広げられ、リヴァトーンらは無傷でその犯罪者達を確保して見せた。もちろんその連中は弱かったわけではない。むしろ強者の部類だった。しかしリヴァトーンの強さはそれらを圧倒していた。これは単純に日頃からスサイドンからの戦闘訓練を受けていた恩賞だけではなく、彼自身の才能によってである。

「俺様が12の時だったな。遊んでいた海底火山が急に噴火した。それに巻き込まれてユリーノが行方不明になった事があった。あの時はさすがに焦ったし、そこで初めて自分の行いを反省したな」

「彼女は良く生きていられたな」

「俺様も同感の意見だ。どうやって来ていたのやら。あいつは教えてはくれなかったから未だに謎だ。続きだが、それから順調に歳を重ねていって、15の時だ・・・・・・・」

 言い終わると彼は次の事を言おうと口を開く。しかしそこでいきなり眉間にしわを寄せて頭に手を当てた。

「どうした?」

「いや、少しど忘れしたみたいだ」

 そう言うと彼はどうにか思い出そうと頭をフル回転させる。そしてどうにかその時のことを少しずつ思い出していった。

「たしか父と真剣勝負をしていた。その時初めて槍を持った・・・・・・」

 その後の言葉がどうにも続かない。

「済まない。そこの記憶が無い。いや、そこから一年程のことをどうにも記憶がぼやけていて鮮明には思い出す事が出来ない。何でだろうな?」

 困惑した様子を見せる。

「その時に何かあったんだろうな」

「何かって。もしかしてトラウマか力が封印されたきっかけがか?」

 アダルは頷く。それを目にしたリヴァトーンは即座に否定に入る。

「あり得ないだろ」

「お前はその件があってから一年程記憶が鮮明じゃないから否定することは出来ないだろ」

 否定材料が少ないリヴァトーンは口ごもるしかない。

「まずはそのことを思い出す事から始めるしかないな」

 さてどうした物かと考えるが答えは直ぐに導かれた。

「まあ、その詳細を知っている奴に聞けばいいだけなんだが」

「・・・・・・となるとガイドルかユリーノだな」

 その時の情景が頭に過ぎり、彼らがその時も共にいたことを思い出す。アダルは当然のように頷いて見せた。

「まあ、お前の臣下なんだからその時も共に居たことには違いないな。問題はそのことを話してくれるかどうかだが」

 どう思うと問いかける。リヴァトーンはその質問に少し考えて首を横に振る。

「簡単には話さないだろうな。いくら俺たちの仲でも話さないことはある。そしておそらくはこの事は俺には口止めされているんだろうな」

「スサイドンからの命令によってか」

「そうだろうな。俺が覚えていないことを良いことにその時のことを口止めするようにって言われてるぜ」

 まあ、仕方が無いとも思うがとリヴァトーンはその命令を下したちちに同情する。何せ息子がたいへんな目に遭ったのだ。まあ、たいへんな目に遭わせたのは自分であるのだが。もしかしたらそのせいなのかも知れない。再び同じような事があったのなら今度は命の保証などないのかも知れない。だから本人が覚えていないのを良いことに利用し、家臣にはそれを口止めさせているのだろう。しかしリヴァトーンはそれに仕方が無いとは思っては居ても納得仕切っていない。

「だけどやり方がらしくねえ」

「お前もそう思うか」

 彼の意見にアダルも同意する。スサイドンとは五年ほど共に旅をした仲。その中で彼の性格などは理解していた。当時のスサイドンは直情的な性格で他人のこと気にしない奴だった。言ってしまえば他人の事情なんか関係無く巻き込んでいく迷惑な奴だったのだ。もちろんそれだけではなく冷静に考えることも出来てはいた。海に戻って王位に就いてその性格は多少はマシになったようではあり、自ら民のために行動できる良き王になっていることはなんとなく想像できる。根本的なところで配慮が足りない所が直っていないのはリヴァトーンの話しを聞いて分っている。じゃなかったら息子相手に態とでもイイから何回か負けてやっても良いはずだ。それなのに一度も勝ったことがないと彼は語った。つまりは息子に対しても配慮を見せなかったと言う事なのだろうと。そんなスサイドンが唯一と言ってイイほど息子に配慮した。そこに何か思惑が有るのでは無いかと疑ってしまうのは当然とも言える。

「考えすぎか?」

 自分の答えにいまいち自信を持ちきれていないリヴァトーンはそれを溢す。

「今の所はどちらとも言えないだろうな。残念ながら俺はスサイドンじゃないから奴の思惑はわからないからな」

 そう言いながらもアダルはなんとなくスサイドンの思惑を理解していた。それはもうこの話を聞いて、スサイドンがリヴァトーンに配慮を見せていると言うのが分ってから直ぐにそれが直感で分った。彼の本当の性格を理解していたから。それが頭に過ぎったとき、呆れてしまった。と同時に相変わらずだなと思ってしまった。

「まあ、その時に何があったのかをどうにかお前の従者二人に聞くとしてまずは注文をとろう」

 そう言いのけアダルは置いていたメニューを手にとってそれに目を向ける。リヴァトーンも何か言いたげだったが、これ以上何も注文しないのは悪いと言う思いがあったため、彼に倣ってそれを見ていた。

「決まったか?」

 メニュー越しの問いかけにリヴァトーンは頷く。店主を呼ぶため手を上げようとした、その瞬間だった。

「!!!」

「?!!!!!」

 いきなり店内が激しく揺れた。それは三十秒ほど続き、店内にいた客は騒然としていた。アダルは確認の為に外に目を向けると店内と同じように騒然としており、ほとんどの人が腰を低くしてどうにか体勢を保っているような状態だった。その揺れによってガラスも遂にはじけた。店内で窓辺に座っていた客の悲鳴が聞える。そして最後に港の方から不気味な奇声が聞えたのだった。


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