三十四話 賑やかな街
アバッサの港が遂に閉鎖が完了するのが遂に明後日になった。そのせいか今日は街は一段と忙しくなっていた。この街は当たり前だが港の貿易を支えに生きてきた。それはもちろん街に住む人も同じだ。そのためアバッサのメインの港であるこの場所が閉鎖され一時的だが他の港がメインとなると、街の人々もその場所に移る。港と一緒で悪魔種の手先の襲撃による被害を軽くするための避難するのだ。しかしそこで困るのは商人達だった。移転先にはみなもう仮の店舗を確保してある。しかしそこには今の店にある物は持って行けない。その分荷物が増えて避難するのが遅くなるからだ。それでも商人たちは売れ残りが出ることが許せないと言う考えがある。どうにかしたい。だが処分するのはもったいない。そこである考えが頭を過ぎった。少しでも利益を出そうと皆が同じ事を考えてそれを数日前から実行している。それは今の店舗にある商品を処分するのではなく、安くして住民達に買わせようと。所謂閉店セールだ。商人も商いが出来るのは今日までという通達が政府からされている。そのため皆躍起になって売れ残りを売り出している。そのため通りは商人達の声が飛び交っていた。そんな通りにアダルは歩いていた。後ろにリヴァトーンとユリーノを引き連れて。普段この時間は模擬戦を繰り広げている時間であるが、今日は違った。
「ねえ、リヴァトーン! あれ買って。ああ、あれも! これも。あと有れとあれとあれも」
ユリーノはテンションを高くして売り出されている物を指しては彼にねだる。それを見て、リヴァトーンは気前よく二万エダルを取り出して彼女に渡す。
「いいぜ。好きな物を買ってこい!」
「ありがとう! 愛しの王子!」
調子の良いことを言って彼女はリヴァトーンの頬にキスをして買いたい物を買いに掛けだしていった。
「慣れているんだな」
その様子を見ていたアダルが言葉を掛けると、リヴァトーンは肯定した。
「良くある事だからな。その程度で恥ずかしがるのは思春期くらいなもんだぜ」
確かになとアダルは内心呟き同意する。
「にしても済まんな。あいつのわがまま通してくれて」
「大した事は無い。それにお前には必要なことだと思ったからな」
彼の言葉の意味が理解できず、首を傾げる。
「まあいい。兎に角今日は休日にする。たまにこんな日を入れないと効率が悪いからな」
そういうものなのかといまいち納得出来ないリヴァトーンだった。
「それより良いのか? 彼女。多分もうすぐ・・・」
「リ!!!!ヴァ!!!!!トーン!!!!!!!!!! 大変だあ!」
言葉を遮るようユリーノが猛高速で帰ってきて何かを訴えてきた。
「ほら来た」
それが分っていたかのような口ぶりでアダルはリヴァトーンの肩を叩いた。しかしそれは彼も想定していた事らしく嫌な顔せずに迎えた。
「何だ? もう全部つかったのか?」
「なんでわかったの!」
彼女は両手に紙袋を沢山下げた状態で驚いた表情を見せる。
「足りなかったのなら仕方が無い。持ってけ」
嫌味を言わずに彼はさらに十万エダルを彼女に渡す。
「ありがとう! やっぱり持つべきものは友達だよね」
そういって彼女は買いたい物を求めて人混みの中に消えていった。そんな後ろ姿を眺めていたアダルはつい思った事をそのまま口にする。
「やっぱりあいつ。馬鹿だったのか」
その発言に気分が良さそうに笑いを上げた。
「そうだな。あいつは紛れもない馬鹿だな」
彼は怒る事無く肯定する。アダルは言った瞬間地雷かも知れないと反省したが、そんな心配はしなくて良かった。
「さて、俺たちは何をするんだ?」
目尻に浮かんだ涙を拭うリヴァトーンはアダルに問う。
「主な戦場になりそうな港の下見だな。別にこれは俺一人で出来るが。お前はあいつに着いていっても良いんだぞ?」
「別に俺様はやりたいことがあるわけじゃ無いからな。あんたに付いていくさ」
「それは心強いな。俺もお前の意見が聞きたかったんだ」
アダルはリヴァトーンを歓迎する素振りを見せる。そんな時に彼はドリンクを売っている店を発見し、彼に何も伝えずにそこに近づいていく。
「お、おい!」
突然のアダルの行動に戸惑いながらも動向見守っている。アダルはそこでドリンクを二つ買ってから戻ってきた。
「せっかくこんなに賑わっている所に来たんだ。少しゆっくりと見ながら歩いて行くか」
そう言うと彼は片方のドリンクを突き出す。リヴァトーンはアダルの顔を伺いながら、警戒した様子を隠さずに渋々とそれを受け取る。
「別に良いが。本当に向うんだよな」
「心配しなくても下見はちゃんとやるさ」
徐ろにドリンクを口にしてアダルは顔を歪めてさっきそれを買った店を見る。
「あの店は外れだな。買うんじゃ無かったてくらい不味い」
もう二度と行かないと言いつつも、もったいないと思って再びそれに口をつける。
「そう言いつつ飲むのかよ」
「もったいないからな。それにこれには罪がないしな」
なるべく味わうことがないように一気の飲み干して、ドリンクの入っていた容器を握り潰し、近くにあったゴミ箱に投げ捨てる。しかしすこし味わってしまったのか、未だに顔を歪めている。
「なんで買ったんだよ」
「珍しい物が売ってるなって思って興味本位に。しかしあの店の調理法がだめだから相当不味かったな」
それでも喉が渇いたという欲求を叶える程度の役目を果たせたわけだからと文句はそこで止めた。
「まあ一応喉は潤った訳だが、何か喰いたい物とか有るか?」
「何でも良いぜ。俺様に嫌いな食べ物はないからな」
そう言うと予想にしていたアダルは溜息を吐く。
「その何でもイイって言うの止めろ。困るのはこっちなんだ」
「それ、ガイドルには注意されたが。何がいけないんだ?」
首を傾げて不思議がられた。アダルは内心でガイドルにちゃんとその辺の事を理解させておけと罵る。しかしアダルは具体的に彼に説明するのが面倒だったため話しを変える。
「じゃあ、あそこの店に入るか」
指した先はありきたりな喫茶店だった。
「いいぜ。あそこからは良いにおいがする。きっとうまいだろうぜ」
「そうか。なら俺のセンスは普通で、さっきのはたまたまだったっていうことだな」
彼の発言で少し自身を取り戻してほっとした表情を見せる。
「あんたはそんなくだらないことを気にしていたのか」
「くだらないって。まあ、そうなんだが」
言い返そうと思ったがくだらないという思いは同じであるため肯定し、足を喫茶店に進める。扉に手を掛けて引くと扉に備え付けてあった鈴が鳴る。
「いらっしゃい」
寡黙そうな白い髭を携えた六十前後の男性が小さく歓迎の声を上げる。見た目的にこの店の店主だろう。
「二人で」
「空いてる席へどうぞ」
そう言われると店内を見渡し、窓際の一番奥のテーブル席が空いていることを確認して着いてきたリヴァトーンにその場所を指し、教える。
「あそこな」
直ぐにその場所に着き、二人は対面するように腰掛けた。二人してメニューを手に取り、それを開いて何にするか選び出す。ここでアダルはある事を思い出した。
「そういえばお前に付き添っていた馬鹿の彼女。あの娘と合流する場所決めていないがどうする?」
問いかけられてきた言葉にリヴァトーンは1度メニュー表越しにアダルに目を向けるが、直ぐにそれを戻す。
「大丈夫だぜ。あいつはあれでも俺の側近の中で一番強いし、感覚が鋭い。俺様がどこに居てもあいつなら見付けられるほどにな」
だから心配はいらないと後付けした後言葉をつづける。
「じゃなかったら勝手にどこかに行ったりはしないぜ?」
「・・・・。そうだよな。そこは不思議だったんだが、今の説明で納得した」
会話が終わったタイミングで店主が水を運び、二人の前に配る。
「注文は?」
「すいません。まで決まって無くて。お前は?」
「まだだ」
二人して決まっていないことを伝えると、彼は決まったらお呼びくださいと言い残してカウンターの置くに戻っていった。
「で、何か話したいことがあるんだろ? 歩きながらじゃ出来なかった事を」
リヴァトーン発現にアダルは困った表情を見せる。
「察しが良くてよろしい」
そういうと徐ろにメニューをテーブルに降ろす。
 




