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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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藍の影 ディニ

真っ暗な闇が支配する空間。そこで地上進行状況が加えられていく世界地図を見ている一つの人影があった。その影は青まで明るくはなく。黒ほど暗くもない。そのどちらも兼ね備えた藍色を纏っていた。その影は思い詰めたように世界地図を見続けると、急に悲嘆に暮れたように俯く。

『つまらぬ。まったくもってつまらぬわ』

 妖艶な女性の声でいじけたようにそれを言うと、藍は地面を蹴る。その反動で蹴ったところが軽く削れた。しかし何も飛びはしなかった。ただそこがくぼんだだけだった。

『何がつまらないのだ? ディニ』

 そんな彼女に不意に後ろから声を掛ける物が存在した。ディニと呼ばれた藍色の人影は鬱陶しそうに首だけ振り向き声の主をその目に入れる。

『この場で真名で呼ぶな。青がいたなら注意されていたぞ? スコダティ』

 声の主に注意を入れながら彼女も真名で名を呼んだ。

『別に知られても道という事無いだろうに。あいつは神経質過ぎるな』

 笑いながら軽く流して、肩を竦める。そんな彼から世界地図に目を移す。スコダティは彼女の隣まで足を進めて同じく地図に目を向けた。

『しかし、少し驚かそうと思って後ろから声を掛けたのに。無反応とは少し傷付くぞ?』

 全魔皇帝に使える六つの色の将。スコダティはその中で黒の名を承っている。この真っ暗な空間で彼の色を表す黒は闇に同化していて分からない。そこで彼が声を掛ければ誰もいない空間で突然誰かから声を掛けられたという奇妙で気味の悪い現象が完成する。これを受けた者は必ず驚いて怖がったりするものだが・・・・。

『其方は良くその手法を使うからな。慣れてしまった』

 彼は事あるごとにこの手法を多用しまくってしまった結果。ディニは慣れという者を覚えてしまった。その事実にスコダティはわざとらしく肩を落とす。しかしこの光景も彼女はよく見た物なので無視をする。スコダティは最早何も反応すらしてくれないと諦めて、彼女が呟いていたことの真意を問うことにした。

『それで? 何がつまらぬのだ?』

『何もかも。だな』

 即答で返ってきた割には随分と大雑把な答えだった。何に対しての何もかもなのか。その範囲がどこからどこまでなのか。普通だったらそれを聞かなければ分からない。しかしスコダティは何故かそこら辺の察しが良く付いた。

『まあ、分からぬでもないな。しかし我慢した方が良かろうな』

『そんな事は分かっている。妾は一軍の将だ。勝手な行動はできん。しかしな、地図だけでは駄目だ。実際に見なければ分からないことが多い。失敗しない為にもな』

 彼女の言い分も分かる。しかし彼女はそれを出来ない。いや、ここに入れる他の将達も黒と白以外はそれを可能ではない。

『しかし器がなくては地上に出ることなど出来まい』

 その発言にディニは苦虫をかんだときの様に顔を歪める。彼の言っている器というのは肉体のことである。過去に封印された彼らはその体を引き離されて封印された。その体は精神を無くして直ぐに野生の獣の姿に変ってしまう。悪魔種の手先はその野生の獣になってしまった肉体の血を引く生物たちなのである。

『だから分かっていると言ったろう。ただ実際に見れぬのはつまらぬと思っただけだ』

 拗ねたように主張すると、彼女は手にチェスの駒を持ち広げられていた地図の襲撃予定の場所にそれを置く。そこはクリト王国の近くにある港の国。アバッサであった。それを見たスコダティは眉を顰めて、何かを思い出した時の素振りを見せた。

『そういえば我が半身も今ここに向っているな』

 その発言を逃すことをディニはしなかった。彼女は愉快そうに口角をつり上げ、目尻も同様にした。

『それは面白い事を聞いた。つまり今回妾の手先と闘ってくれると言うことか。天敵は』

 彼女の発言にスコダティはわざとらしくしまったと困った様な表情を見せる。

『今更そのような演技はいい。それで? 連れて行ってくれるのだろ?』

 それが本心だと分かる彼女はさっさと話題を切り出す。スコダティは直ぐにその表情を止めて、上を向いて指を鳴らす。すると視線を向けた場所から二頭身で金髪の女悪魔のぬいぐるみが出現し、それを手にする。

『まあ、体がないのだか精神を入れる器が必要なのだが・・・・』

 困った風に首を傾げる。それで何かを察したディニはすました表情で頷く。

『なる程・・・。妾にそれに入れと言うことか・・・・・・』

 言っていて僅かにその表情を歪める。

『地上に行く方法が限られている今、これくらいでしか行けないのだが・・・』

 彼女の顔を見てスコダティは空間に小さな皹をいれ、その中に

ぬいぐるみを投げ込もうとする。

『別にそれに入ることを不服とは思っておらぬ。器のデザインが多少同化とは思ったが、それでいい』

 ディニは淡々と言い訳がましくそれをいい、ぬいぐるみを奪い取り頭を撫でてかわいがり始める。

『そうか。なら早速やろうでは無い』

 彼女から反応が返ってくる前にスコダティは手を彼女に向ける。するとそこから煙のような物が出現し、彼女の体を覆う。それによって輪郭すら見えなくなったディニは声を上げる暇さえ無かった。その煙は数分間その場に漂うが消えるときは掃除機で吸われたようにどこかに飛んでいった。煙に包まれていたディニの姿は確認出来なかった。しかしよく見ると床で倒れて気を失っている彼女を発見する。彼女に添い寝するようにぬいぐるみもあった。少しの間彼女は微動だにしなかった。スコダティはその事に何も反応もしないが、少しの間彼女に目を向け続けた。気丈に振る舞っているが実は心配している。と言うわけではない。彼は観察しているのだ。彼が使用したのは精神を無理やり肉体からはがし違う物に押し込める術。これを使用された者の精神は無理やり剥がされてしまったことで意識を取り戻したときに記憶の欠損したり、精神が崩壊する事がある。だがそこはこの術を使い続けてきた事だけはあり、彼はそのリスクを負うことなく綺麗にその術が行使できる。当然この程度で壊れたりするほどディニの精神も柔ではない。それを知っていてやった節もある。ここで彼が見たかったのは彼女が仮初めの肉体をどの程度の時間で掌握できるかという物だった。観察を続けていると、ぬいぐるみの指が微かに動く。それ以降はまるで生物のようにそれは立ち上がった。立ち上がるやいなや、そのぬいぐるみはスコダティに睨みをきかせる。

『いきなりやってくるのはどうかと思うのだが?』

 小言を挟み、睨みを効かせたまま近づいてくるぬいぐるみ。その声は先ほどよりも高くはなってはいたが、確実にディニの物だと判断できる。スコダティはそんな彼女の姿を見て、手を叩きつつ賞賛の言葉を贈った。

『さすがは何時群の将だ。この僅か数分でその器を完璧に御しきれるとは。恐れ入った』

 本気でそう言っているのだろう。しかしディニは溜息を吐いて片手で頭を抱える。

『相変わらず嘘くさいのう。馬鹿にされている気分になる』

『それはディニの感覚が澱んでいるせいであろう。我はいつも正しいことしか言わぬ』

 それの発言に思わず勢いで『それはないだろ』と言いたくなった。しかしそれを寸でのところで我慢して、言葉を呑み込む彼女は違う言葉を代わりに吐き出した。

『そうだな。確かに其方は正しいことしか口にはせぬ。しかし隠し事は多いだろう。そのせいで信用されるのだよ』

 耳の痛い情報だったのか。彼は「自分でも納得だ」と言いのけ頷きを入れる。その感じにディニは彼がまったく堪えた様子がなく、反省の色も見せないので、話しを戻す。

『準備は出来た。それではさっそく連れて行っておくれ。愛しの地上は。そして忌まわしきも愉快な天敵の元へ』

『了解した』

 そう言うと彼から再び靄のような物が出現し、彼らを包み込んだ。その靄は存外に数秒で消えてしまった。それと同じく靄に包まれていた二人も消え去ってしまった。残ったのは藍色の輪郭のみだった。


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