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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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二十六話 実力を買う訳

その日の真夜中。もうすぐ12時を超えようとしているこの時間。食事の間のカウンターに近い席でアダルとフラウドは向かい合って座っている彼らは各々でフラウドが持ってきた資料を僅かな光の中でえ読んでいた。

「どうだ? 海底の王子の状況は」

 ふと、思い出した様にフラウドはリヴァトーンの近況が気になり、その問いかけを投げかける。彼が目覚めてからアダルに訓練をつけられているのは本宮に間で聞えている。だからつねに共にいる彼に効いたのだ

「順調に強くなっている。これならあと一週間で悪魔種のしかけてくる魔物の一体を倒せるほどにな」

 彼の言葉にフラウドは少し驚いた声を上げて、一度資料から目を外してアダルを見据える。

「随分と実力を買っているんだな。少し意外だ」

「そうか?」

 何が意外なのか分からないアダルはフラウドの表情を読もうとする。しかし本宮で鍛えられたそのポーカーフェイスから何も読める気がしなかった野か、諦めて正直に聞く事にした。

「何が意外だと思うんだ?」

「だから言ってるだろ? 何故そこまで海底の王子の実力を認められるのかだ。その根拠を知りたい」

 問いかけると彼は正直に答えてくれた。最初からこうすれば良かったと僅かに後悔すると共にアダルは彼からの問いかけに対する納得する答えを頭で纏める。

「あいつの実力を買う要因は主に二つだ。どっちもとても簡単なことだが、それだけで認められる要因だ」

 考えを纏め終わった彼はそそう口にして、本題を語り出す。

「一つ目の要因はあいつがスサイドンの血と才能のどちらも受け継いでいると言うこと」

「どういうことだ?」

 海底の話しであるためフラウドは良くスサイドンの事を知らない。というか海底の事をまったくと言ってイイほど情報を持っていない。人種である彼は大陸中の情報を集められてもさすがに海底の情報までは手が届かないのだ。彼には千を超える密偵が存在する。その全てが人種である。この大陸で一番多い種族は当然のごとく人種である。そのため密偵も同じである方が他の国に入りやすいのだ。しかし海底にはそれを送り込めない。辿りつく前に必ず溺れ死ぬにが目に見えているから。情報は欲しいがそこまでやることに労力を見いだせないフラウドは偶に海岸で人種に接触してくる海人種からぐらいしか海底の事を聞き出せないのだ。しかしそういう者達に限って頭が空っぽ。結果情報と言える物は何もなにのである。人所か他の種族が一切立ち入れない聖域の一つ。それが海底という場所である。

「スサイドンは海人種の王族の中で珍しい力を持っていた」

「珍しい力?」

 フラウドの野言葉に頷く彼は一度鼻笑いを入れて言葉をつづける。

「きっと驚くと思うぞ?」

 妙に焦らす言い方をするアダルが気になるが、今はそれよりその情報を逃さないと聞き耳を立てる。あまりにも真剣で反応しないフラウドの表情に彼は僅かにつまらなそうな表情を浮べる。しかしすぐに顔と言葉を戻す。

「海底の王族は海の大精霊の末裔だと伝えられている。その体は海中の中で屈指に大きく、海山に並ぶとさえ言われる。それでいて宝石を思わせる輝きを放つ鱗に覆われているってな」

「それがどうした」

「急かすなよ。今から本題を話すから」

 そう言って彼は一度手に持った資料を置いて両肘を机において身を乗り出す。

「スサイドンはな。その姿になれたんだよ」

 彼の言葉にフラウド瞬時に立ち上がってしまう。そしてアダルが真実を語っているかその仕草で読み取ろうとする。彼の脳が出した答えはアダルは嘘を吐いている様子は無いと言う事。目も泳いでおらず、口も動いていない。耳が赤くなった訳でも無く、手を弄っているわけでもな。嘘を吐いていることを表す仕草を一切していない。彼が嘘を一切言っていないことを表している。しかしフラウドは容易にそれを信じることが出来ない。たしかにそれを出来る種族は存在する。大竜種は人の姿と竜の姿を使い分けているし、最近新たな種族として発表された神獣種も体の大きさを変化可能で個体によっては人の姿にもなれる。これはアダルが証明している。怪異種は有る条件が揃ったときに体のサイズを変えることが出来るのも知っている。しかしその話しは容易に信じられないのだ。何故なら精霊種のほとんどはその体が小さい物ばかりなのである。歴史上巨大と言われる精霊でさえ、そのサイズは人と同程度。海山と同程度の巨体を持つ精霊など存在するはずが無いのである。ましてやその個体と同じように巨大化出来るなど信じがたい限りだった。

「信じられないか?」

 見透かしたような言葉にフラウドは一度頭を冷やしてゆっくりと腰を下ろす。

「ああ、そうだな。信じられない。だが、真実なんだろ?」

 虚言を吐いていないことは最早証明済みで有るため、フラウドは諦めた様な溜息をする。

「受け入れるしか無いな。すまない。話しを戻してくれ」

 俯いて疲労の表情を見せるフラウドに促される。アダルはその様子を見て今日はもう話さない方が良いのでは無いかと一考した後に今話した方が良いと判断し続きを口にする。

「話しの続きだが、リヴァトーンはあいつの才能を継いでいる。ということはだ」

「彼も巨大化出来る可能性があると言うことか・・・」

 アダルは背筋を伸ばすように背もたれに体重を預けると投げやり気味な口調で言葉を紡ぐ。

「というか確実に出来るだろうな。今は巨大化出来ない様だがきっかけさえ掴めさえすればあいつこれからの悪魔種の襲撃の戦力になれる」

 彼の言葉にフラウドはだからここ数日彼と相対を続けていたわけだと納得する。

「全てはきっかけ作りのためか。にしても少しハード過ぎないか? 聞いた話じゃ何回も殺し欠けたらしいようだが?」 

 呆れた様に顔を顰めるフラウドにアダルは軽薄な口ぶりで返す。

「戦闘の才能って言うのはな。闘い続けていないと開花しない。追い込んで追い込んで。それを乗り越えようとしないと発現しないんだ。あいつが得ようとしているのはその究極を極めたときにしか発現しない代物だ」

 戦闘に対して一日の長があるアダルの発言はとても説得力がある物だった。その怪盗でフラウドは納得した反応を見せたのだ。

「実戦を繰り返せばあいつは必ず伸びる。だから少しくらいハードと言わせるくらいの実戦を繰り返している訳だよ」

「そういうことだったか。スパルタだな。お前」

 半笑い気味のフラウドの言葉にアダルは神妙な顔つきになる。

「そうじゃないと間に合わなくなるからな」

 彼の言葉にフラウドも思わず同じ表情をして、手元にある資料に目をやる。そこに書いてあることは大陸中で起っている悪魔種の襲撃に関する物ばかりだ。ある村が消滅したとか街一つ消し飛んだとか。酷い物は小国が滅んだという文字も綴られているのが見受けられる。それ程今は切羽詰まっている状況なのである。

「それは同意するよ」

 ゆっくりとした動作で手に負っていた資料を置き、手を組む。

「だからあいつには早めに強くなって貰いたい訳だ」

 それを言葉にしながら彼は肩を回し始めた。肩の関節から少し大きな音で鳴っているの聞える。

「疲れているのか?」

「それなりだ。まだあいつに本気を出していないからそこまでの物じゃ無いんだがな」

 から笑いを見せると、アダルはある資料に目をやってそれに写っている写真を指した。

「話しを戻すとしようか。俺があいつを買っている根拠の二つ目だが。これがその根拠だ」

 アダルに促されるがま間、フラウドはそれに目をやり、僅かに渋い顔を見せた。


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