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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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二十五話 訓練場の二人

アダルが森林公園で海人種の男に襲われてから一週間が経過した。森林公園で行なった戦闘により怪我人や死亡による被害者はその時間帯に人が公園にいなかった為存在しなかった。それでも戦闘の後からでも苛烈な物だった事が窺える破壊痕が刻まれていた。王宮はこれは突如落雷がこの場所に集中して落ちたと公表ししばらくの間安全的保証の不確保とその場所は景色修復の名の下立ち入り禁止となっていた。王都の者達はこの件について不思議には思った物も、皆深くは考えず公表された情報を鵜呑みにしてなに一つ変らず生活を営んでいた。

一方でそんな事を知るよしも無いアダルもいつもと同じような日常を送っていた。いつもと変らぬ時間に目を覚まし、いつもと変らぬ時間に朝の読書を行なう。いつもと変らぬ時間に朝食を取り、いつもと変らぬ時間に鍛錬を始め、いつも道理の時間それを続ける。

そんな不変的な彼の日常でも、一つだけ変った事があった。それは鍛錬を一人では無く二人で行なっていると言うことだった。この日も二人の人影は訓練場にて競っていた。一人は言わず裳知れたアダル。そしてもう一人は一週間前、彼を襲った赤槍の海人種の男であった。「ちっ! 当らねえな!」

 機嫌が悪そうに言葉を吐き捨てる赤槍の男。リヴァトーンは穂先をどうにか彼に当てようと槍を振って回している。対するアダルはわかりきった槍の攻撃を難なく避けつつ、偶にリヴァトーンの体に一撃を入れる作業を繰り返している。

「ぐむっ!」

 腹に拳を貰ったリヴァトーンは肺の空気を強制的に全てはき出され、後方に撃ち飛ばされる。その運動は彼の体が壁に強打されたことによって漸く終わる。リヴァトーンは足裏を地面につけると、膝を笑わせていた。息を絶え絶えにしてふらふらになって体勢を崩しながらも元の場所に戻ってきた彼は先ほどと同じように槍を振り回してどうにか彼に一撃を当てようとする。

 この光景が見られるようになったのは、五日程前からだった。その日目覚めたリヴァトーンはその後の事を従者のガイドルとユリーノより聞いた。彼はその後三日分の食事を取った後、訪れたフラウドによって事情聴取と称されて個室にて尋問された。正直今まで生きていた中で一番生きた心地がしなかった。彼の尋問により溜まったフラストレーションを抱えたまま、リヴァトーンはアダルのいる訓練場に訪れた。そこにいたのは瞑想中の隙だらけのアダルだった。溜まりまくって暴発寸前のフラストレーションはその無防備なアダルの姿を見たことによって暴発してしまった。今だったら勝てるかもと思いのもと、不意打ちを仕掛けたのだ。結果はあっさりと返り討ちにされてしまい、リヴァトーンは壁に叩きつけられて彼はまた気絶した。次に目が覚めたのは翌朝だった。目覚めるなり、リヴァトーンは考えた。この間の戦闘。アダルは決して本気では無かった事に。本当なら今のように一瞬でやられても可笑しく無かったのだと。しかし彼はコチラに実力を合わせてお互いが拮抗するような戦い方を選んだ。多分だが、また正面から闘ったら彼は実力を合わせてくれるのだろう。だったらそれで勝利するほどになれば父親に勝てるのでは無いかと。もし勝てなくても追い詰めるくらいの戦闘力は付くのだろうと。その思考に至るとリヴァトーンはガイドスが持ってきた朝食を取るなり、また直ぐに訓練場に向った。幸いにももうアダルが鍛錬をしていた時間帯だった。昨日とは違い、何やら影のような物と闘っていた彼に又襲いかかった。二日連続の不意打ちに少し驚いた顔をしていたが、闘っていた影を消し去り、獰猛な笑みを浮べてリヴァトーンを迎撃する。それから日中は彼らは共に鎬を削り合っている光景が見られるようになった。

「もっと早く槍を捌けるだろ!」

 挑発口調のアダルは不敵な顔を見せ付ける。それを見ているリヴァトーンは息を絶え絶えにしつつ、要求に応えようと先ほどよりほんの少しばかり突きを連続させる。

「もっと早くだ!」

「ッつ! やってやるよ!」

 アダルの要求通り彼の槍捌きは格段に早くした。しかしその分正確さが欠けて攻撃と呼べる攻撃では無くなってしまった。

「大道芸じゃ無いんだ。しっかり当てろよ」

 回すことに意識が集中してまったく攻撃に還元できていないリヴァトーンにアダルは辛辣な言葉を浴びせ、回転中の槍にタイミング良く腕を突っ込み、弾く。赤槍は回転したままリヴァトーンのてを離れて後方に吹き飛んでいったかに思われた。しかし彼は咄嗟に赤槍を目で追うと、一度間合いを開けた。何をしでかすのかと注意深く観察為ると、リヴァトーンは一度指先を落下途中の槍に向けた後、直ぐにそれを腕を勢いよく振ってアダルに向ける。すると、落下していた槍が突如空中に留まった。落下中に弱まってしまった回転力であったが、空中に無理やり滞留させることで落ちないように回転力を増量させたのだ。回転に用って穂先が空気を切り音を発し始めたらそれは漸く動き出す。高速でそれはアダルの首を狩らんと襲いかかる。

「厄介な物を考えつきやがって!」

 悪態を吐きつつ、仰け反ってその攻撃を回避する。それはあと数秒回避行動が遅れていたら確実にアダルの首を刈り取っていただろう。しかしアダルはそれを避けきり、元の体勢に戻るとリヴァトーンを見やる。彼は今、アダルの首を刈り損ねて空振りした回転槍から視線を外さないことに怪訝に思う。ふとその視線が突如下がり、アダルの足下に向けられた。

「やっぱ、そう来るよなっ!」

 翼を広げ、飛び立つ。数瞬後、先ほどまで足首があった場所を回転槍が通過した。それは徐々に回転を弱めていきリヴァトーンの手の中に収まっていく。彼は柄を掴むなり、再び槍を高速に回し今度は空を飛んでいるアダルに向け投げつける。先ほどよりも甲高い空気を切る音を発しながら、回転槍の猛威は再び訪れる。ここでよける事は彼に取って造作でも無い行為だ。しかしアダルは何か引っかかっていた。何故効かなかった攻めを再び行なったのか。しかも空中の相手に。空中機動を持つ自分はこれを簡単に避けられる。何か意図して行なったとしか思えない。ふと槍の奧にいるリヴァトーンの姿が目に映る。彼の背後には水で作った十本ほどの槍があり、その全ての穂先がアダルに向けられていた。

「少しは考えたな!」

 リヴァトーンは避けられることが分かっていて赤槍を投げたのだ。むしろ避けられて空が彼の攻撃の始まりだった。

「ふんっ!」

 彼の読み通りアダルはさらに高く天井すれすれまで飛んだ。空を切った回転槍はブーメランの様にリヴァトーンの元に戻っていく。しかしアダルはそれを見届ける暇は無い。それはもう上には逃げられないことを表していた。それを見計らったかのようにリヴァトーンは水で作った槍を一斉に射出する。アダルがその場から逃げられないよう囲い込むように、しかもその全てがアダルの体を貫くような配置で展開していく。

「面白い!」

 向ってくる槍群を見てもアダルは焦る様子も無い。逆に楽しんでいる節もある。彼は体の腕に光を纏わせて体の前で一回転させた。するとその描いた円は光の壁となる。それに未だ光を纏っている手をあてるとその壁はアダル全体を守れるほど大きくなった。そのタイミングで槍群はアダルの元に到着する。もう少し速度が出ていたなら確実にアダルの体を突かぬいていただろう。しかし何を思ったのか彼は光の壁を叩き割ったのだ。これでは阻む物は無く、その体は貫かれる。かに思われた。しかしアダルの拳で割られた光の破片は一つ一つ鋭利な刃物と同じになっている。それに加えて高速に至った拳で割ったのだ。破片にもそれなりのスピードの付与される。結果、訓練場全体に光の破片による暴雨が降り注いだ。もちろん水槍もそれに当たり、原型を留められなくなって水に返ってしまった。リヴァトーンはその光景を見るやいなや舌打ちをして図で似自分の手にある赤槍を頭上に掲げて回転させる。回転力で盾を作ったのだ。それを眺めていたアダルは腕をパンチする要領で彼に突き出す。瞬間アダルの腕から光の砲弾が射出され、リヴァトーンは避ける間も無く光に飲まれていった。


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