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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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七話 第七騎士団

 アダルはそのまま数分少女を抱きしめた。数分すると彼女は泣き止み、寝息を立て始める。そこで彼は母親と思われる女性に目配せをする。彼女もこれに気付いた様子で、こちらに近づく。アダルは女性に少女を預ける。

「本当にすいません。貴方は私達恩人です。私達の代わりに敵を討ってくれたのですから」

 彼女は疲れた様子ながらも無理して笑みを浮かべようとしている。そんな所を目にして彼の胸に少しの痛みが走った。

「・・・・・。これを受け取ってください」

 アダルは徐ろに懐から昨日貰った金が入っている革袋を女性に渡す。それを目にした女性は目を見開き、慌てた様子だった。

「そんな! 頂けません。私達は貴方に感謝しているのです。私達では出来なかった夫の敵討ちをして頂いた上にそんな大金。受け取れません」

 凄みを増して声を出す女性。それでもアダルは無理矢理彼女の手に袋を握らせる。これには彼女も思わず息を飲んだ。

「元はといえば自分がこの村を巻き込んで絞まったのが原因です。その上、貴方達家族に悲しい思いをさせてしまった。これは今自分が出来る最大の謝罪です。こういうことしか出来ない自分をどうか許してください」

 最終的に頭を下げる。それには女性驚愕した様子だ。

「これ以上貴方達の前にいる資格は自分にはありません。本当に申し訳ない」

 もう一度頭を下げた後、彼は踵を返しその方向に歩き始めた。それを見送るその場の人々。アダルの姿が見えなくなったところで女性はその場で膝を崩し、静かに涙を流した。






 村の外まで歩いてきたアダル。そこにはユギルが悲しい顔をして待っている姿が見えた。

「・・・・・・・・」

 ユギルは彼に言える言葉が無かった。そのまま彼の横を素通りしようとするアダル。何かを伝えようと言葉を放とうとした。

「騎士団長に会わせろ」

「え?」

 想いもしなかった言葉を投げかけられ、思考が止まる。

「だから騎士団長とやらに会わせろ」

「な、何故ですか?」

 そんなことしか口に出来なかった。するとアダルは悲哀の目を空に向けた。

「どうせお前を迎えに来たんだろ。だったら出来るだけ早く立とう。俺が出来るのは早くいなくなることだけだ」

 それは違うと言いたかった。そもそもは盗賊のは言いがかりなのだ。彼らが勝手に逆恨みをして、その見せしめに彼が滞在して居るであろうこの村を襲った。アダルが居た場合は彼を殺すつもりだったのだろう。しかしその後に待っているのはただの彼らの快楽満たしに過ぎない。それは居なかった場合も同じだ。彼らはただの理由付けにアダルにしただけだ。それも慈悲を示し、命は取らなかった彼に仇を返す形で。

「貴方様が責任を背負う事はありません」

 気がつくとそんなことを口にしていた。言い終わったユギルは自分が言ったことに気付き、慌てて口を手で塞いだ。それを耳にしたアダルはゆっくりと振り返った。

「そうも行かないさ。おれはこの村に取ってはあの盗賊達と対して変わらない。そんな奴は早くいなくなった方が良いんだ」

 そういうと彼は再び空に目を向ける。その哀愁漂う雰囲気にユギルはただ黙って見つめるしかない。

「・・・・・・。付いてきてください。この騎士団の団長の所まで案内します」

 それしか言えずにある方向に歩き始める。アダルは一瞬だけ苦い笑みを浮かべ彼に付いていく。






 しばらくユギルに付いていくとそこには騎士達が集結している場所に着いた。一般の騎士と思われる者達は何列かに分かれて並んでいる。そんな彼らが目を向けている場所に目をやると少し広めの台があり、その横に幹部らしき人達が並んでいる。そのうちの一人が登壇すると、騎士達は一斉に今まで以上に正しい姿勢を始めた。

「此より、我らの役割を再確認する」

 登壇したのは十代後半に見える銀髪の美少女だった。髪は腰まで届く三つ編みで日の日かありが反射するほど艶やか。神鳥もそれなりに高く手足も長い。騎士団特有の甲冑を身に纏い、純白のマントを靡かせる。腰には細剣を差している。その声はどこか清やかで、品がある。そんな彼女が騎士達に指示を出している。

「まずは捕まえた盗賊の件だ。彼らは此より王都まで連れて行き、そこで裁判にかける。盗賊の首魁は死んだことで責任を逃れようとする者もいそうだが、それでも彼らが行った事は裁かなければならないこおとこだ」

 身振り手振りを加えて、騎士達にその事を伝える。それを聞いて騎士達も各々各々頷いている。

「そこで、騎士アスラマ・ディール!」

「はい!」

 彼女が一人の騎士の名を指名する。呼ばれた騎士は返事を返すと、台の前に出てきた。現れたのは二十代前半の赤髪の青年が現れた。

「騎士アスラマ・ディール。貴殿達には盗賊達の王都まで連行を命ずる。誰一人として逃がすなよ」

「はい! その命令、命を賭しても実行させて頂きます」

 そういうと、アスラマは自信の小隊を引き連れ、捕らえられている盗賊達の所に向う。その様子を一目して、団長は新たな命令を騎士達に伝える。

「その他の者達は村の復興作業に取りかかってくれ。それでは今回の連絡は以上とする。解散!」

 その号令と共に騎士達はいそいそと村の方向に向っていく。

「行きましょう」

 ユギルは足を今集会を終えたばかりの騎士団長の所に向ける。徐々に彼女との距離が近づき、ようやく彼女がユギルに気付く。すると彼女は少し慌てた様子になり、小走りでこちらに近づいた。

「殿下! ご無事で何よりです」

 目の前にくるなり、彼女は片膝を地面につき、服従の態度を示す。それになんの違和感も感じさせないほどさの姿が様になっていた。

「ご苦労だったね。それにごめんね。勝手にいなくなったりして」

 反省色をみせるユギル。それに対して彼女は微笑を返す。

「いいえ、その件については大丈夫です。私達は殿下が無事ならそれだけで・・・・・」

 今にも感極まりそうな彼女の姿を見て、ユギルは余計反省した様子だった。

「殿下が居なくなったことで騎士大臣に叱られた事やあわや除隊を命じられそうになった事など殿下の無事な姿が見れた事で吹き飛びました」

「少しでもお前達に悪い事をしたと思った私が馬鹿だったよ」

 反省を返せと言いたげなユギル。そんな彼に団長は言葉を続けた。

「反省は為て貰います。一人で大森林に行くなど言語道断です。貴方にもしもの事があったら私達は忠誠を誓う王族達に顔向けが出来ません。貴方の守護するのが私達第七騎士団なのです。それなのに守護対象が居なくなり、あわや死体として見つかった日には話達し達の出世の道は閉ざされ、一族郎党死罪もあり得るのです。少しはご自分の行動を抑えて頂きたい」

「君の私欲が混じっているじゃ無いか。それに私の守護がしたいのならどこかの塔にに閉じ込めていれば言いじゃない!」

 笑みを浮かべながら言葉を並べていく団長に赤尾を赤らめながら反論する。その言葉にはさすがに団長も目を丸くした。

「良いのですか?」

「王族に二言は無い!」

 それを耳にして団長は口角を上げた。

「許しが出た。今よりユギル殿下を拘束し、北の塔まで護送する物とする。皆の者。遠慮はいらぬぞ。何せ許しは貰ったのだから」

 彼女の号令と共に側近と思われる騎士達が彼を拘束し始める。そこでユギル葉彼らの本気度に気付き顔を青ざめさせる。しかしその時にはもう遅く、彼らの手際の良い拘束術に嵌まっており、もう成すすべも無く連行されていった。彼は最後にこちらを顔を向け、口パクで「助けて」と言っていたが、アダルは曖昧な表情で首を横に振る。それを目にしたユギルの顔は絶望に染まった。





「それでは自己紹介をさせて頂きます。巨鳥さま」

 その発言にアダルは息を飲む。

「俺の事を知っているのか!」

 彼女の問いかけるとゆっくりと頷きで返された。

「殿下からの手紙が届きまして。そこに貴方の事と貴方の特徴が書かれていました」

 笑みを浮かべる団長。彼女は続けざまに手紙に書かれていた事を話してくれた。

「金髪に紅眼。紺のインナーと黒のスラックス。そして赤いコートを着ている御方が今回依頼を受けてくださった巨鳥様本人と手紙では書かれていました」

彼女はアダルの前に立つと胸に手を当て自己紹介を始めた。

「殿下が紹介してくれなかったので自己紹介をさせて頂きます。私の名はレティア・クールカン。この第七騎士団の団長を務めています」

 笑みを浮かべて言葉を口にするレティア。彼女はその後ゆっくりと頭を下げる。

「今回の盗賊の一件。私達に非があります。私達がもっと早くに来ていればこのような事にはなりませんでした。本当に申し訳ない」

 先程までユギルと戯れていた姿とは一転。真面目に謝罪をしてくる。彼女はそれに加え、言葉を続ける。

「それに殿下の身を守って頂き、剰え未知なる脅威からこの国の守護を手伝って頂けるとの事。これ以上の感謝はありません。国民を代表してお礼を申し上げます」

 レティアはそれをいうと頭を上げ、アダルの顔を伺う。

「別に盗賊の一件はお前らには非はないさ。俺が招いた一件だからな。それにこの国の守護だって、取引で請け負っただけだ」

「存じておりますとも。それでも貴方には感謝をしなくてはいけない」

 真剣な表情で言われ、アダルはため息を吐く。

「頼みたいことがある。出来れば今日中にこの村を経ちたい」

「分かっております。準備はすでに整い、今にでも経てるようになっております」

「そうか」

「では、馬車での移動になります故、馬車まで案内いたします」

 ゆっくりとその方向に向うレティア。アダルは黙って彼女のあとに着いていく。彼はくたびれたように再びため息を吐く。


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