十九話 言葉が交わる距離
勢いよく吹き飛ばされた男は後方30メートル地点にある大木を轟音を立ててへし折ったところでようやく止まった。あまりの衝撃でその場には土煙が立ち上っている。その中輪見てアダルは舌打ちをする。
「ああ。いてぇ、いてえ」
ニコニコしながらフードについた木の木片を払いつつ立ち上がる。
「軽口を言うくらい余裕だろうによく言う」
不機嫌そうに言葉をはき捨てると男はその表情のまま首を振る。
「そうでもねえよ。今のは結構効いたぜ」
「じゃなきゃこっちが困るよ」
頭を掻きつつ顔を俯けながらも男を横目で捕らえる事を忘れない。
「にしても凄いなお前。手からは沢山の弾丸やら砲弾やら剣まで出せるなんてな。多芸だな」
アダルは男からの賛辞の言葉を聞き流して、二発目を撃つために左手を腰の横につけて光を収束させる。
「素直に受け取る気にはなれないっつーの!」
言葉を言い終わると同時に左腕を男に向け伸ばして拳の形の光弾を飛ばす。それを見た男は一瞬呆けた余婦な顔をするが、直ぐに剛毛な目を光らせて、槍を逆手に持って光弾目がけて飛ばす。槍は直ぐに光弾と接触を果たし、光弾がはじけて轟音がその場に響く。
「ちっ!」
光弾を迎撃した槍は無傷の様子で、勢いそのままアダルに向けってくる。それを見て舌打ちを鳴らす。咄嗟に手を前に出してそこから自身の身長を超えるほどの棒を光で形成して槍を捌高と試みる。
「こんなことも出来るんだよ!」
男はそれを見て右手の指を槍に向ける。それを動かすと、槍は突如回転し始める。あまりにも予想外の事が目の前で起きて、アダルは目を見開く。しかし肉を塩に変える能力を持つ穂先には当らないよう気を張る。彼の本来の姿は巨大な鳥。そのため目はかなり良く、拘束で回転している槍の穂先を捕らえていた。彼は光の長棒の片端を両手で握ってバットを構えるような体勢を取る。槍が長棒が当る範囲内に入ってくると、それをスイングする。長棒から伝わる感触で槍の柄を捕らえた事が分かると、さらに力を込めて、全力でスイングを振り切った。打撃を与えられた槍は回転を止めて、スイングの勢いに負けて在らぬ方向へと飛んでいく。アダルはそれを見ることはせずに、男のいる場所に目を向ける。しかしそこにはもう人影が無かった。不意に背後から枝が踏まえた際に起きる小さな物音が聞え、慌てて体の向きを変える。そこには両腕の鋭利な鰭で飛びかかってる男の姿があった。さすがにここまで近づかれいるとは考えなかったアダルは今は邪魔な長棒を消し去り両腕に光を纏わせて、顔の急所を防御しようと腕を組む。しかしそれより先に男の右腕の鰭がアダルの肩を捕らえた。それは良く切れる刃物の用に肩の肉を抉った。アダルは思わず顔を歪めて苦悶の声を漏らす。しかし男の攻撃はまだ終わらない。今度は左の鰭で胸の肉を切ろうと試みる。が、それはアダルの腕によって受け止められた。その際金属同時がぶつかった際に発する甲高い音が鳴り響く。
「堅いな」
「そっちもよく切れる刃物持ってるじゃねぇかよ」
至近距離で交合わされる言葉。今回初めてお互いの体がぶつかり合った。男は攻撃を止めないために右腕を動かそうとするがそれは出来なかった。アダルが男の肩関節を押さえていて動かせなかったのである。
「さて、お前に聞きたい事が二つある」
アダルはずっとこれを待っていた。彼に問いただすために槍を持たないで接近してくることを。血を流すこと覚悟していた。重傷を負ってでもこの距離で聞きたい事があった。肩の傷口からは血が滴り、痛みもあるが今はそんなことはどうでも良かった。
「どうやって俺の事に気付いた」
間近でそれを聞いた男は一度不思議そうな表情を作る。
「別に良くないか。今はそんな事」
「良くないな。俺に取っては」
言葉の途中で男が足を動かそうとした動作を見せたため、アダルは彼の両足を踏みつけて動けないようにする。
「さて、吐いて貰うぞ。どうやって俺の正体に気付いた。それを知らなきゃ俺は今後街を出歩けない」
割と真面目にそれを伝えるアダル。しかし男に取っては心底道でも良いことだったらしく呆れた様な顔をする。
「心底どうでも良い。それより戦いの続きをしようぜ!」
彼の目は訴えている。「どうしても聞きたければ俺を倒してみろ」と。面倒で対応に困る。どうやら彼はそれについては言ってはくれない様子だ。これは少し参ったとアダルは頭を巡らせる。暴力で訴えることで無理やり聞くことは出来る。しかしそれは得策では無い。その方法では確実には言わない可能性がある。男は戦士で戦闘狂の気がある。言わない確率の方が高いだろう。素直に言うこともしないだろう。ならば違う方法で聞き出すしか無い。そう考えてアダルは口を開く。
「そうか。言わないか。だったらもう闘う理由は無くなる訳だし、俺は逃げさせて貰うぞっ!」
言い終わる前にアダルは男の拘束をすべて解き、足裏で腹部に蹴りを入れる。咄嗟のことで反応が遅れたため、その攻撃はまともに入る。アダルはその反動を利用して後方に下がる。そこで肩を切られた事を思い出して傷口を押さえた。それに対して男は先程まで接触していた場所で腹を抱えて蹲っていた。だが、逃げることは許さないと訴えている様な険しい目を向けている。しかしそれをあえて無視してアダルは彼に背を向けて歩き出す。挑発の一種をアダルは実行して、男が襲ってくるように仕向けているのだ。
「待てっ!」
言葉と共に背後から足音が聞える。目の前からは先ほどあらぬ方向に飛んでいった槍がアダルに向けて飛来して来てる。男の指示によって自在に動きを変える槍は、アダルに取っては厄介な存在であり、対応が面倒な代物だ。先ほどの接近の時に邪魔だった事もあり遠くに吹き飛ばしたのだが、それが男の指示によって今戻ってきてしまったらしい。戻ってきてしまったらしい。さすがに触るわけにも行かないが、どんな動きをしても対応されてしまうことは分かっている。そこでアダルは翼を広げて飛び立ち、男の視界から消えることを試みる。
「っう! どこに行った!」
目標が姿を消したため、矛先を向ける先が無くなった槍は男の手に戻っていく。その間に.突如姿を消したアダルを探す為、四方八方、あらゆる方向に顔を向ける男。彼は徐ろに口を半開きにして目を閉じた。しばらくそのままでいると、突如目を開き、振り返って槍で一刺しする。当った感触は無かったが掴まれた感触が男の手に伝わる。
「どうやって、俺の位置が分かった?」
「耳が良いんだよ!」
槍が掴まれた場所よりアダルの疑問の声が響く。それに男は自信満々に応える。それを聞いて納得した様な声を出すと、その場にアダルが少しずつ姿を現す。
「そうか。それでも俺が巨鳥だと分かった訳か」
アダルは腑に落ちたような表情をする。男がアダルのことを巨鳥と認識できたのか。それは彼の異常すぎるほど良すぎる耳を持っていたためであるとアダルはそれを聞いて分かった。
「多分だがお前、この王都にいる全ての人間の声を認識できるな」
アダルがそれを発すると、男は目を見開いて驚く。それを見てアダルは肯定と受け取り言葉をつづける。
「さすがに全ての人の声が聞くのは脳に悪いからな。は特定の言葉を発する者の声を拾うように設定したんだな。それで俺のが離宮にいることが分かったんだろう」
男は渋い顔をして無言を続ける。
「それで今日。俺が外に出る事を知って襲ってきたんだな」
「・・・・・・。俺は一言しか喋ってないはずだが。そこまで考えつくのか。怖いなお前は」
気味が悪い物を見るような目が中を捕らえる。だが、気味が悪いと思って居るのはアダルも同じだった。だが、そのことは言わずにアダルは言葉をつづけた。
「俺からしたらスサイドンの血を引いた息子であるお前も怖いけどな・・・・」
アダルは溜息交じりに疲れた声を出す。その言葉を聞いた瞬間男は驚きのあまり、口を半開きにして、間抜けな表情になった。




