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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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十八話 赤槍の力

先に動き出したのは海人の男だった。彼は低い姿勢のまま自身のトップスピードでアダルに詰め寄る。視認でそれを確認するアダルも剣を体に隠す体勢のまま地を蹴った。普段から過ごしているため走ることに慣れているアダルの方が少し男よりスピードを出せた。その速度を乗せて力任せに剣を振るう。それを防ごうと男はスピードを少し緩めて、槍での防御行動に出る。

「はあっ!」

「ふうううぅ!」

 両者の声が漏れる。彼らを隔てていた間は物の数秒で無くなり、光で出来た即席の剣と赤槍の柄がぶつかった。その際甲高い金属がぶつかる音が発生し、それだけが彼らが戦い始めた事を証明してくれた。アダルは防がれたことを悔しそうにする事はせずに、剣を振った際に体勢を崩さないように剣を持ち替える。それを上段に構えてまた同じように腕の力だけで男の頭を真っ二つにする意気込みで剣を振り下ろす。しかしまたもや赤槍によって防がれてしまう。また防がれてしまいアダルは少し不機嫌そうに片方の口角を上げる。それと同時に剣を手前に引き、その勢いで後方に下がろうと為る。次の行動に移ろおうとする瞬間こそ最大の攻撃のチャンス。男はそれを見逃さず、瞬時に引きかけの剣を払いのけ、その穂先をアダルの心臓目がけて突き出す。あまりにも鮮やかに反撃されてしまい、アダルは目を見開く。しかし驚いてばかりもいられない。どうにか回避しなければ自分の心臓はあと数秒もしないうちに突き抜かれてしまう。先ほど剣を払われた際、体勢を崩しかけていたため、足も動かすことは出来ない。剣で防御しようとしても今から動いては間に合わないのは明らか。そうなればこれしか無いとアダル瞬時に頭を巡らせて、剣を持っていない方の手に動く命令を出す。

「いっ!」

 痛そうな声を漏らしつつ、アダルはなんとか槍の動きを止めることに成功した。具体的にどうやって防いだかというと、穂先を掴んだのだ。刃物である穂先を掴んだため、彼の手より血が滴る。しかしこれで男の動きを止める事も出来た。アダルは直ぐに剣の肩に向けて剣を振るおうとした。しかしその際に見てしまったのだ。彼のそれを待っていたと言わんばかりにぎらつかせた目と、光悦の笑みを。それを目にして、アダルは気味が悪かった。しかし次の瞬間穂先を持っていた手に刃物で切りつけた物とは違う痛みが走る。それは思わずそれを離してしまうほどだった。アダルの拘束が解け自由に動かせるようになった槍を男は再び彼の胸目がけて突き刺してくる。しかしアダルは瞬時に体勢を立て直して剣で逸らして槍の軌道を変える。その際アダルの体と男の体は急接近する。アダルは彼の腹部目がけて蹴りを入れる。しかしいつの間にか槍から離していた腕によってそれも防がれてしまう。だがそれで良かった。アダルの目的は攻撃では無く、防がれることだった。彼はそこでえ自分の翼を広げる。展開された翼は眩いばかりの光を放つ。それには男も目を絞める。そのタイミングでアダルは蹴りを入れた方の足を曲げて、バネのように伸ばし後方への運動が働く。翼も何回か羽ばたかせてその勢いをつけつつ空中で体勢を立て直したところで翼を閉じ、両足で地面に着地する。

「いつっ!」

 異様な痛さに苦悶の声を漏らしつつ、掌の傷に目をやる。それを目にしてアダルは不可思議な物を見た。なんと傷口から塩のような白くて細かい粒子が発生していた。それだけじゃ無い。その塩と化した所と接触している物も同じように塩と成っていっているのだ。アダルは思わず男を睨む。

「その槍。触れた物を塩にするのか」

 手首を押さえつつ恨めしそうに口にすると、男は鼻で笑う。

「正解だ。出来ればもう少し気付かれたく無かったんだがな。もう手遅れになるその瞬間まで」

 満足そうに笑みを浮べながら彼は徐々に塩化していく手に指をさす。

「この槍はな、肉を塩に変える能力を持っている。これに傷を受けたら最後。抗う術なく体を侵食され、最後はただの塩になる」

 胸を張って自慢げに言い降らす男はアダルに傷を負わせたことにより、勝利した気になっていた。それもそうだろう。これまでだったらそれで勝てていたのだろう。何せ普段は海で生活しており、海中最強の力とも言える槍を持っているのだ。海中で塩となったら一瞬で海の一部に成り、存在自体消し去る武器だ。これほど強力な物は無いだろう。しかしそれは海中に限った話しである。今は陸上での戦闘。そして相手は猪王を倒したアダルである。

「勝ち誇っているところ悪いが、一つアドバイスしてやる。今度から陸で闘う時は肉だけじゃ無く、水分も塩化するようにした方が良い。その方が体内から塩に出来たり・・」

 アダルは一度言葉を区切って塩に成りつつある手首から先を剣で切り落とす。

「こうやって槍の能力を封じる事が出来なくなるからな」

 切り落とした手を目にして男はその光景がよほど衝撃的だったらしく、しばらくそれを見ていた。

「お前、良い感じに狂っているな。普通そんな簡単に手首を切り落とせないぞ」

「それはお前が今までそういう奴と闘ってこなかっただけだ。それになもう使えない手に何の未練があるんだよ」

 彼の言葉に男は鍔を飲んで手首を切った方の腕を見た。切り口からは血がどばどばと勢いよく流れ出している。このままだと放っておいても出血しすぎて死ぬだろうなと思って居ると腕全体が仄かに光り出した。

「それにこれくらいだったら直ぐに生える」

 アダルの言うとおり、無くなった場所に光が収束して手の形を形成していった。彼は感覚が戻っているか何回か手を握っては開くを繰り返して確認する。その光景を目にして男はきょとんとした表情を見せる。しかし直ぐに何かを納得したような顔をして何か可笑しくなったのか大声で笑い出す。

「そういう事かよ。驚いて損したじゃねぇかよ」

何が面白かったのかアダルは理解できないが、男は心底それが可笑しかったようで、目を隠しながら笑い声を上げている。その声を聞いていると、アダルは徐々に気味が悪くなっていった。

「とんだ茶番に付き合わされたって訳だ」

 苦笑いを滲ませて、少し悔しそうな口調で男は口を開く。

「お前から仕掛けたんだ。このくらい付き合って貰っても文句は無いはずだが?」

「全く。その通りだよ」

 軽口を交えながら男は再び重心を下げて、穂先をアダルに向ける。

「今度こそ、残らず塩にしてやるよ」

 獰猛な笑みを浮べ、挑発気味にそれを言う。

「その槍の能力は分かった。二度と当らねぇよ」

 アダルは光の剣を消し、右手を前に突き出して四本の指を男に向ける。瞬間それらは眩い光を出始める。左手で右肘関節を固定すると、それらは指先に集中しだした。

「お前の投擲は命中度が低いみたいだからな。ようは遠距離から攻めれば良いだけだ」

 指先から破裂音が鳴ると同時に、男に向け無数の光弾が襲う。

「その程度の攻撃で俺の動きが止まるとでも思っているのか!」

 体の前で槍を回して光弾を跳ね返す。光弾が発射される激しい音と、光弾と槍が接触し多際になる甲高い音がしばらく続く。この攻撃はどうやっても槍の回転盾に防がれてしまい、攻撃を当てることが出来ないと感じたアダルは左手を肘関節から外し、拳を握って腹の横に移動させる。彼の攻撃特有の光の収束が左手に起きる。完全に収束すると、彼は光弾を放つのを止めて、左手を前に出す。すると拳の形をした光の固まりが男目がけて発射された。男はそれを今続けている回転槍で弾こうとする。

「なにっ!」

 しかし拳の形をした光弾は回転槍をすり抜けて男の胸に着弾する。

「グハっ!」

 その攻撃に耐えられず男は呻き声を上げて後方に飛ばされた。


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