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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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一話 海底にて

クリト王国が巨大猪王によって襲撃をされてから四日ほど経つある日のこと。クリト王国を囲む海の海底にて二人の男と一人の女での談話が行なわれていた。もちろんただの人ではない。彼らは海に住む種族。海人種なのだ。彼らは海に住み着いた精霊の末裔が進化した種族であり、その姿は人間と魚を組み合わせたような姿をしている。

「それって、本当? 人間が作り出した作り話じゃないの?」

「いや、本当だ。これは信用できる筋から聞いた事だからな。間違い無い事実だ!」

 聞いた事が半信半疑で信用できないと良いたげな口調の赤く腰まで伸びている髪と赤鱗を持つ女に、頭部にサメの鰭を着けた男は本当の事であるという証明をしようと、言葉を続ける。

「あの半島にある人間の国に突然現われて、街を一つ全滅させたんだ。その証拠に全滅した街は存在している!」

「だけどさ、どうしてその巨大猪王は突然姿を現したの? 可笑しいことでしょ?」

「だから、それを今から言おうとしたんだ! 君が一々突っ込むから話せないんだろ! 少しは自粛をしろ!」

「何よ! 私のせいって言うの!」

「だからそうだって言っているだろ」

「あははははは!」

 今にも言い争いに成りそうになっていたその場の空気を変えたのは、ずっと二人の会話劇を静観して聞いていた両腕に鋭利な鰭を持つ男の笑い声だった。その声に二人は驚いた様に一瞬肩を揺らして、笑い声を上げている男に目を向ける。

「ちょっと、びっくりするじゃない。いつも言っているでしょ! 唐突に大声で笑わないで、って!」

「そうだ。少しは空気を読めよ。俺は笑うことを言った覚えはないぞ! 何に笑っていたんだ」

 二人仲良くその大声を上げた男に抗議を述べる。その声が聞えたのか、男は笑うのを止め、愉快そうな笑みを浮べて語る。

「いや、何。お前らはいつも仲が良いなと関心していたら、急に笑いたくなっただけだ。気にせず、続けてくれて構わない」

 男はそういうと、先程の続きをするようにと促してくる。しかし、当の本人達は少し居心地が悪そうにしている。男はその言葉でやる気を失ったのか、そっと息をはく。女に関してはそうではなかった。彼女は少し顔を赤らめていたのだ。しかし恥ずかしそうな表情を見せまいと気丈に振る舞おうとして、逆に変な表情をしてしまっている。

「ど、どこが仲が良さそうにみえるのよ! こんな臆病者と仲が良さそうに見えるだなんて不愉快極まりないわ!」

 恥ずかし紛れに彼女は顔を背けつつ、必死に否定の言葉を紡ぎ出す。それを目にした大声を上げた男は含みのある笑みを浮べつつ、女の表情を伺う。

「その割りには少し嬉しそうだが?」

 その言葉に女は余計顔を赤くする。

「め、目でも悪いんじゃないの! この顔のどこが嬉しそうに見えるのよ!」

 抗議の声を上げるも、男はその笑みを止める事は無い。女にとってこれほど居心地の悪い所はないだろう。

「もういいだろう? ユリーノをからかうのは、そのくらいで。貴重な俺の時間をこれ以上無駄にしたくない」

 その状況を救ったのは先ほどまで彼女に状況も説明をしていた頭部に鰭のある男だった。彼はユリーノと喚ばれた彼女を庇うように前に出た。言葉は辛辣だったが。その状況を目にして、男は余計笑みを深め、目を細めた。

「その目をやめろ。気分が悪くなる」

 男のその目を嫌った彼はキツい口調でばっさりと、言い捨てる。言葉にしたがった男はすぐに目を細めることも笑みを浮べることも止めた。

「まあ、いいさ。とりあえず、話しを続けてくれ。俺様はその話しに興味がある」

 やれやれと言った様に肩をすくめた後、彼に先ほどの話しの続きを促した。

「話しを遮ったのは君だろう」

「あのまま続けていたら、お前らは話し所じゃなかっただろう。だから態と遮ったんだよ」

 緩和剤は大変だぜ、と彼らに聞えるように口にする男に二人は複雑な表情を見せる。

「早く話しを続けろ。この俺様がご所望だ。この意味が分かるよな? ガイドル」

「・・・・。分かっているよ。ったく、相変わらずマイペースな奴だ」

「褒め言葉だ」

 ガイドルと呼ばれた男は男の言葉を無視して、先ほどの続きを話し始めた。

「先ほどの続きから語るが、まずは猪王が何故突然現われたかだが。それはどうやら転移の術を使える物が、猪王を導いたようなんだ」

「て、転移の術? そんな物が存在するの?」

 ユリーノはガイドルの言い放った言葉に興味を持ち、気づいた時にはそれを聞いていた。それを耳にした彼は一瞬こめかみに青筋を立てた。彼女はまったくコチラの話しを理解していないと言うことを理解して。思わず言い返そうとした瞬間。男が咳払いをして話しを続ける様に促す。それを目にしてガイドルは冷静さを取り戻し、彼女の言葉に返答を返す。

「ああ、存在はしていた。ボクらの種族でも使える者はいた。しかしそれを扱う者は大陸じゅうを含めても今はいないと言われているんだ」

「どうして?」

「今それを使える人物がいないから。これ以外無いだろう」

 男がガイドルの言葉を横からかっさらってそれを言い放つ。ユリーノはそれがどうしてか、気になり男に目を向ける。しかし彼女の答えはガイドルから発せられた。

「その術の使い方を誰も知らないんだ。森の賢者と謳われる永寿種も。大陸を作ったと言われる大竜種も。だれもそれの使い方を覚えていない。まるで記憶を抜かれたようにな。今やそれが存在してたという証明を示しているのは文献だけ。まさに幻の産物だよ」

 彼の言葉にユリーノは関心した。それと同時に当然頭に上る疑問が彼女の仲に残った。彼女は思ったことはすぐに口にしてしまうタイプの性格だ。当然その疑問を口にしていた。

「じゃあ、なんでそれを使えるの? そもそもなんで猪王をクリト王国に送り込んだの?」

「そんなの簡単だろ」

 男が彼女の疑問に答えようと言葉を紡ぐ。

「転移の術を仕える種族がまだ存在し、恨みのあるクリト王国を滅ぼす為に猪王を送り込んだ。ガイドル、お前も大体同じ事を考えていたんだろ?」

 男が彼を伺うように見ると、ガイドルは頷きを返す。

「どこの種族がやった事かは分からないが、それでもあの国。そうとうその種族に恨みを買われていたんだろ。もしくは・・・・」

「何? 他に何かあるの?」

「他の理由でも存在しているのか?」

 ユリーノの追求にガイドルは少し口を濁す。男は彼が何を言いたいのか分からないため、一緒に彼に追求する。二人からのそれに耐えられそうにないガイドルは諦めたかのように重い口を開いた。

「これは俺の考えに過ぎないし、妄言かも知れない。信用するなよ?」

「良いから早くそれを言え。こういうときだけ焦らすなよ!」

 軽く口調でからかう様に男は問いかける。しかし反面ガイドルの顔色は段々暗くなっていく。男の中で彼が何を思いついたのか本格的に気になり始めた。

「その転移の術を使う種族はその国だけを狙ったんじゃないかもしれない」

 ガイドルがようやくその重い口を開き、自分の考えを二人に発表した。それを耳にした二人は一瞬呆けた様な顔をするが、すぐに堪えきれなかったように笑い出した。

「それはさすがに考えすぎだ!」

「あり得ないってば。さすがに飛躍しすぎ!」

 彼らは笑いながら、息も絶え絶えな声でそれをいう。それを聞き、ガイドルは少し安心したような声で言葉を紡ぐ。

「そ、そうだよな! よかった。お前らに否定されてホッとした。俺もさすがにこれはないんじゃないかって思って居たところだ」

 彼はそう言うと、二人に釣られて笑った。笑い声はその海底一変に響いていた。


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