四十五話
「・・・・・・。話しを聞いても、面白くないと思うぞ?」
そういうフラウドは苦笑いを浮べ、やや抵抗気味な態度を示す。その態度をアダルは鼻で笑い飛ばす。
「相変わらずの秘密主義か。良いんじゃないか? 話したく無いんだったら話したくないで。それでお前の微かに残っている良心が傷付かないんだったらな・・・」
アダルは態と嫌味っぽくそれを口にする。その言葉にフラウドは僅かに顔を歪める。その後フラウドは額に手を置き、二人の間に会話はなくなった。彼はアダルが言った言葉を反芻しながら、アダルに伝えるかというのを考えていのだろうと、簡単に察知出来た。少しの時間。おおよそ一分近くたって、フラウドは何かを諦めた様な息を漏らす。
「仕方ないか・・・。ここでお前の信頼を損なう訳にはいかないからな・・・」
そういい、溜息を挟んで彼は言葉を続けた。。
「俺が全魔皇帝やら星冠やらの存在を知っていた理由は極々簡単な事だ。その時に星冠を使用した人間の王が書き残した文書を読んだからだ」
渋々ながら彼は流暢な言葉でそれを紡ぎ出した。彼の言葉にアダルはすぐに反応を示す。
「文書か。そんな物が存在していたんだな・・・・・。?」
「ああ、そうだ。この城のその時の王の直筆の物が存在しててな。この国の国宝として認定されている代物だ。代々国王になる人物は一度はそれに目を通す」
それを耳にしたアダルは彼の言葉にある疑問を抱く。
「そんな重要な代物。なんでこの国に存在しているんだ?」
不思議そうに首を傾げるアダル。それを目にして、フラウドは一瞬呆けた様な顔をする。しかしすぐに何かに気付き、笑い声を吹き出す。
「お前は知らないかもな・・・。なんでそんな物がこの国にあるかなんて」
悪戯な笑みを浮べ、馬鹿に為るような物言いでフラウドは笑い半分な声でそれを紡ぐ。その様子を目にして、アダルは怒り半分な顔をする。
「そんな顔をするな」
未だに笑い声が交じるその声で彼を宥めると言葉を続ける。
「お前が抱いた疑問の答えだが。簡単でつまらない物なんだ。単純にその時に星冠を使って悪魔種を封印したのは、この国の王様だったってだけの話しだ」
彼の言葉から軽々しく放たれる言葉。しかし初めて聞くアダルは目を見開いて驚いている。それを目にして、フラウドは愉快そうに笑い声を上げる。
「まあ、知らなくてもしょうがない事だな、これについては。何せ、今現在この事を知っているのは一部の王族だけだからな」
「そう、なのか・・・」
未だに衝撃が抜けきらないアダルはパッとしない声で返し、その後フラウドの聞えない声で呟く。
「それだったら文書が存在しているのは納得出来るな・・・」
そこでアダルはある事実があることを悟る。
「ということは、だ。お前はその王の子孫に当るのか?」
気になって仕方が無いその問いをアダルはぶつける。それをに応えるフラウドは彼の問いに軽い感じで言葉を返す。
「そうだな。俺たちクリト王国の王族はその時の王の血を受け継いでいる」
少し照れくさそうに鼻をかくフラウド。
「だったら、お前らには星冠を使える可能性はあるのか・・・」
「それは分からないな。俺たちは単に王の血を受け継いでいるだけだ。それに肝心の星冠がどこにあるのかなんて分からない」
「持ってないのか?」
「ああ、持っていない・・」
少し深刻そうな顔つきをするフラウドは声のその表情に引っ張られた。
「星冠は、その時の王が悪魔種を封印した後に星に返したと文書には載っていた。返した場所も記されていなかった。だから俺たちもどこにそれがあるのか分からないんだ」
言い切ると、彼は疲れたような溜息を吐く。
「ったく。封印がいずれ解けるって分かっているのに、返すかよ。てか、せめてその場所を書いとけよって話しだな・・・」
ヤケクソになったかのように言葉を吐き捨てると、彼は話しを切り上げに掛かる。
「兎に角、俺の知っているのはその程度だ。どうだ? 面白くもない話しだったろ?」
その問いかけにアダルは一度鼻で笑い、頷く。
「そうだな。案外面白くもなかったよ」
彼の言葉を耳にして、「そうか」と呟く娃フラウドは徐ろに腰を上げる。
「行くのか?」
「あぁ!」
溜息交じりな声が返ってきて、アダルは吹き出しそうになるのを堪えた。しかしそれを逃さないフラウドはアダルに数秒間鋭い視線を浴びせる。しかしすぐに飽きたのか、それを止めて彼の顔を一瞥し、愚痴を溢す。
「これでしばらく休養を入れられると思っていたんだがな。まさか、このタイミングで仕掛けてくるとはな。全く。迷惑な連中だ」
彼の言葉アダルは肯定の言葉を上げる。
「本当にそうだな。厄介な事に巻き込みやがって」
苦々しい表情をするフラウドに影響されてか、アダルの表情も同じ物になった。
「しばらくは、この国に留まってた方がいいな」
「そうしてくれ。その方が俺も助かる」
フラウドはその言葉を発すると、徐ろにアダルの肩に手を乗せる。
「まあ、しばらくは相手側も動かないだろ。体力が回復したら、この国を楽しんでおけよ? この国は他の国よりほんの少しだけだが、いろいろと発展している。きっとお前を楽しませるだろう」
軽薄な口調で言われたその言葉にアダルは頷く。
「そうするよ。どうやらこの国はそれなりに楽しそうだ。毎日ここから眺めてもそう思うからな」
感慨深そうに窓の外の王都の街に目を向ける。いつもと変らない日常を過ごす民達。彼の目には何が面白そうに見えるのか分からないが、不思議と悪い気はしないフラウドは口を開く。
「あんなにはヴィリスがやってくれるだろう。あいつはあいつでそれなりに長く王都に住んでいるからな。案内役としては申し分ないだろう?」
彼の問いかけにアダルは納得したように頷く。
「そうしてくれるとありがたい。道に迷ったら全てがおじゃんだ」
彼の言葉に返すようにフラウドは言葉を紡ぐ。
「それは俺から言っておく。今はとりあえず体を休めろ」
そう言いながら、彼は先程ヴィリスが持ってきたお盆を手に取り、中身を溢さないよう丁寧にアダルに渡す。
「さて、大体話しは終わったな? じゃあ、俺は戻るが、何か言いたいことはあるか?」
もうすでにスプーンで夕食をすくいかけていたアダルはその言葉で動きを止める。
「謝っておけよ?」
「ふっ、分かっている」
そういうと、彼は扉の方向に体を向け、歩みを始める。アダルはすぐにスプーンを動かして、夕食を口に運ぼうとする。その時フラウドは扉の前で達黙った。彼は何かを思い出したかのように振り返って、彼に声をかけた。
「そういえば・・。」
「あっ?」
もうスプーンを口の前まで持ってきていたアダルはそれを器に戻した。
「何かあったのか?」
深刻そうにアダルが聞くとフラウドは微笑み首を横に振る。
「いや、違う。エドールからの伝言を頼まれていたんだ」
彼が自分にどんなことを言ったのだろ。アダルはそう考えながらフラウドの言葉を待った。
「体力が回復したら謁見の間にて、会食でもしましょう。とのことだ」
フラウドはそういうと、アダルは未だ、エドールとの謁見をしていないことを思い出す。そのことを思いだした際に、彼の口から呆けた様な小さな声が漏れた。それを辛うじて聞こえたフラウドは呆れた様な声を出す。
「正式な謁見だ。会うのはエドールとカトレアだけだと思うが、他の王族が同席している可能性は十分ある。気を付けておけよ?」
彼はそう言うと、部屋から出て行った。残されたアダルはまた王族関係で面倒事になりそうな気配を察して、溜息を吐く。気分転換に窓の外を眺めると、空には輝ける星が王都の夜に光りを与えてくれるのが見える。
「まだまだ、これからって事か」
彼は呟くと、まずは体力の回復に勤しもうと夕食に手を付けた。
これにて暴嵐の猪王篇。完
 




