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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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四十四話

 フラウドの言葉に最初に反応を示したのか、今さっきこの部屋を訪れたばかりのヴィリスだった。

「あ、あの! 何の話しをしているの? 私にも教えて欲しいんだけど・・・」

 彼女は困惑したように表情を曇らせる。それもしかたないことだが、彼女は話しの流れが見えていないのだ。だから彼女はそれを浸りに問うた。

「・・・。後で話す」

 口を開いたのはフラウドだった。彼は彼女が持っていたお盆を無理やり奪うよう様にその手から持ち去り、それをアダルの寝台に備え付けられている台の上に置く。彼の行動はそれだけに終わらず、未だに困惑状態から抜け出せないヴィリスの左手首を握り、それを引っ張るように歩みを始める。

「ちょっ!」

 危うく転びそうになるのを耐えるヴィリスだったが、それでもフラウドの引く力には耐えられず、引きずられるように彼についていく形になった。彼が向った先はこの部屋の扉。行く先を察したヴィリスは必死に抵抗しようとする。しかしそれも虚しく終わり、フラウドは扉の前につくと、無造作にそれを開いて、彼女を外に出した。

「ちょっ! 痛っ!」

 外に出る際に何かにつまずいたのだろう。彼女は床に転んでしまう。すぐに怪我がないか確認し、何もないことが分かると、彼女はフラウドの行動を非難するように、鋭い目を向けながら立ち上がる。

「何をするの?」

 自ずと少し怒ったような声音になるヴィリス。しかし彼女の言葉はフラウドを全く動かせなかった。

「すまん。だが、今は二人で情報を整理させて欲しい」

 最初だけ謝った彼は、その後威圧のような物をその身から発した。それにはヴィリスは驚きを隠せず、思わず一歩下がる。彼女は察した。これがこの国で為政者を成し遂げた彼の姿なのだと。それでも食い下がろうと彼女は言葉を続ける。

「それに私がいたら駄目なことなの?」

「そんなことは無い。だが、お前は一々話しの腰を折ることがあるからな。今はそんな事を気にせずに情報を整理したい・・・・」

 フラウドはその事実をただ淡々と口にしていく。本人もそれに覚えがあるのか少し気まずそうな顔を見せる。そんな彼女に彼は言葉を投げかける。

「お前はユリハの所にでも行っていてくれ。そう時間は取らないだろうしな。今日中にはお前に伝えたい」

「・・・・・・」

 思わず反抗の言葉が出て来そうになったヴィリスは、寸での所でそれを飲み込んだ。数秒思考するような時間を用いた後、彼女はある言葉を発する。

「・・・・。絶対だからね」

 悔しそうな表情を浮べつつ、それを口にすると、彼女は彼の言葉に従うように食事の間に向い歩き始める。その後ろ姿を確認すると、彼は扉を閉めアダルに近づく。そこには上体を起こして少し辛そうなアダルの姿がある。

「お前。後で謝っとけよ?」

「そのつもりだ。俺が非がある事で謝らなかったことがあるか?」

 無いなと口にして、アダルはからからと笑う。それを少し続けると彼はある物を発見する。それは先程おかれたお盆の上にあった物だった。

「夕食か。あいつこれを持ってきていたのか」

「そのようだな。少し悪い事をしたか?」

「思ってないことを口にするなよ・・・。はあ」

 アダルは不意に何かを諦めた様な息を吐く。

「お前の予想だが、少しは掠っている。あいつにはそんな力もあるだろうしな」

 突如声音が変わり、フラウドの言葉に返答していくアダル。それを耳にして、フラウドは徐ろに口角を上げ、彼の言葉に返答する。

「やっぱり知っていたか。反応を示さなかったから、もしやと思って居たが・・・」

「あいつとは何回も闘っているんだ。それくらいは知っているさ」

 その言葉にフラウドは頷き、先程腰を掛けていた椅子に腰を掛けた。

「で、お前は其奴をどうしたんだ?」

「・・・・・倒した。俺はスコダティを倒した・・・・はずだったんだが」

 最後の方になると、彼の言葉は段々と弱くなっていった。

「どうやら、俺の勘違いだったらしい。あいつは相当な余力を残して逃切ったんだろうな。あいつと闘ってから相当後に成って気付いたが・・・」

 悔しそうに口を曲げつつ、どこか元気はなくなっていく。この雰囲気は彼に取ってよくないと判断したフラウドは意一つ咳払いをし、話題を変えようと、彼自身が抱いていた疑問を口にする。

「思ったんだが、なんで其奴は戦闘後のお前に会ったりなんてしたんだ?」

 訝しげな顔つきをして、フラウドはアダルに問う。それを聞いたアダルはそれを答えようと言葉を返した。

「知らない。なんであいつが俺に会ったかなんて。きっと、気まぐれ・・・・・。っ!」

 言葉を言い終える前にアダルは何かを思い出した様に目を見開く。その様子を間近で見ていたフラウドは不思議そうに首を傾げる。

「何か、思い出したのか?」

 少しおっかなびっくりに成りながらもそれを問うと、アダルは頷き、先程とは違う悔しそうな表情を露にする。

「なんで、こんな重要な事を忘れていたんだ、俺は!」

 自分を恥じる様に頭を抱える。しかし時間が無いと言いたげに無造作にそれを止める。

「お前に言わなきゃいけない事がある」

 声音が変わる。フラウドはそれだけで彼がこれから口にしたいことが重大な事だと悟り、姿勢を正す。

「戦闘後にあったあいつ。スコダティが言っていたんだ。猪王を仕掛けた奴等の存在を・・」

「? 其奴じゃないのか?」

「俺もそうだと思って居たんだが、どうやら違う奴等が仕掛けたらしい」

 そうなのかと顎に手を当てて頷くフラウドにアダルは衝撃な言葉を浴びせる。

「今回、猪王を仕掛けてきたのは全魔皇帝という存在らしい?」

「全魔皇帝。っ! 全魔皇帝だと!」

 その単語を耳にしたフラウドは取り乱したように勢い良く立ち上が、アダルの肩を掴み問いただす。

「それは本当なのか! 悪魔種を束ね、地上に混沌をもたらした存在が仕掛けてきたのか!」

「・・・・・・。あいつの話を信じるのならな」

 静かな声音でそう言うと、彼は力が抜けた様にアダルから手を離す。

「・・・・・。遂に来てしまったのか・・・・・」

 フラウドは事の重大さを理解して、今までより遙かに重い荷を背負ったかのように肩を落とした。それを目にしてアダルは続きを話すかどうか悩んだが、話さなければいけないと判断して、口を開く。

「彼奴らは星冠という存在を探しているらしい。その力を使って地上に戻りたいんだそうだ」

「・・・・。その存在もバレていたのか」

 明らかに疲れた声音になっている。フラウド。しかしアダルは彼の発した言葉が気になった。まるでそれを知っているかのような口ぶりが。そんな事を考えていると、不意にフラウドは顔を上げ観念したかのような息を吐く。

「封印が解けかかっているのか? まだ五百年しか経ってないはずなのに・・・・」

 意味深な言葉を呟きながら、彼は顎に手を添えた。

「彼奴らが無理やり封印を解いたのか? そんなはずは無い。あれは悪魔種には触れることが出来ないと文献では載っていたはずだが・・・」

「興味深いことを呟いているな。俺にも詳しく教えろよ!」

 その言葉を耳にして、フラウドは咄嗟に口に手を宛てて、アダルの方を見る。彼は興味津々と言った風な表情を浮べているが、何故か目は笑っていない。その表情を見て、フラウドは取り返しのつかない事をしたと悟り、溜息を吐く。

「俺は話したんだ。お前も教えてくれるよな? 黙っていることを・・・」

 アダルはフッと口角を上げつつそれを口にする。フラウドにはその顔つきが悪魔のように見えていた。

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