四十二話
「それは、本当か!」
驚く程彼の話に食い付いたフラウドの言葉にアダルは頷く。すると彼は考え込む様な仕草をして、おもむろに呟き出す。
「つまり其奴には巨獣を生み出す力があると言うことか・・」
「それだけじゃないだろうがな。・・・・話しを戻そう」
アダルが修正すると、フラウドは彼の言葉に耳を傾けた。
「俺の目の前でそれを見せ付けた、スコダティは、おもむろに俺に話掛けてきた『この様な術を見るのは初めてか? 我が半身』ってな」
「半身? お前と関わりがあるのか?」
「知らない」
フラウドの言葉をアダルは両断して続きを口にしていく。
「当時、俺は目の前で何が起こったのか理解出来なくてな。ただ、呆然と巨獣と化した猿に目を向けていた記憶がある」
鮮明に当時のことを思い出している彼は自身でも気付かぬ位、強く拳を握りしめていた。そのことに気付いたフラウドは静かな声で訪ねた。
「そのことがお前が今怒りを抑えられないでいる理由か?」
「?」
問いかけられた言葉の意味が理解出来なかったアダルはその怒りを忘れたようみ一瞬呆けた顔をして、フラウドに顔を向ける。そのフラウドはおもむろに自身の手を見るように進める。それに従うように目にした拳には今にも血がにじみ出し様な位強く握られた拳があった。そこで漸く彼が言いたいことを察したアダルは悲しげな表情で拳を見つつ頷いた。
「ああ、そうだな」
それを口にすると、アダルはその拳をおもむろに開いた。その様子を眺めるフラウドは呆れた様に息を吐いた。
「お前は、そのスコダティって奴が無理やりその猿を巨大化させたことに怒っているのか?」
「・・・・。そうだな」
彼の質問にアダルは少し考えた後に肯定し、自分の憤りを覚えた事を口にした。
「俺はな、そん時に聞いたんだよ。その猿が悲鳴を上げてその巨大化に抗おうとしる声をな。それに対してあいつはそれを楽しむかのような顔をして、それがまるで無駄なことのように無理やりそれを続け、結果その猿はあらがい切れなかったんだいあいつは生物をなんとも思って居ない。それを目にして、俺はそう思ったね」
吐き捨てるように言うアダルの言葉。それを耳にしていたフラウドもある言葉が頭に浮かんでいた。
「クズだな、其奴」
「ああ、相当のな。その後にあいつは俺を試すかのようにこう言いやがった。『今までは無害な畜生だったこの獣。しかし秩序の害にしか成らないこの獣。貴様に倒せるか?』だぞ。あの時の顔、今思い出してもむかつく!」
そう言うと彼は徐ろに寝台を叩いた。
「お前は・・・・.どうしたんだ?」
少し聞きづらそうにしながらもフラウドは申し訳ない都は思いつつそれを口にする。するとアダルはそっぽを向くように顔を背けた。
「殺したよ。速攻にな」
どこか吹っ切れた様にも聞えるアダルの声音。しかし彼の声音とは別に苦虫をかみ砕いた様な表情を浮べている。その表情をしたまま、アダルは口を開き始める。
「あいつの言葉にむかついて、頭に血が上ったんだろうな。気がついたときには猿の心臓を貫いていた。時間も経っていなかったから咄嗟にやった事なんだろうな。だがな、俺は何で猿の心臓を貫いたのか。それだけは今でも分からない。正直その数秒間の記憶が無いんだ」
自嘲的に言葉を口にする彼は右手に目を向ける。
「本能的にあいつを危険だと判断して、自発的にやったのか。それともスコダティを狙って放った一撃を、あの猿が庇ったのか。数秒の事だからそのどっちかなんだろうな」
彼はつかれたような声音でそれを言い、溜息を吐く。
「まあ、どっちでも今は同じだろうな。俺はあの猿を救えず、結局はこの手で殺した。それは変らない事実だからな」
どこか諦めめいた事を言いのけて、アダルは窓の外に目を向ける。
「それでも、助けようとはしたんだな」
「ああ、そうだな」
それを言い終えると、彼は一拍おいた後に事を続けた。
「後で知ったことだが、あいつによって無理やり巨獣となった者達は救えない事が分かった」
「救えない?」
彼の言葉にアダルは「ああ」と言い返し、言葉を続けた。
「あいつの。スコダティの力によって巨獣と化した獣たちは、その瞬間に理性を失い破壊の権化と化す。そうなった者達はどの様な方法を用いても救えない。喩え、あいつの力を浄化して元のサイズに戻すことに成功したとしても、今度は自身の力でそれをやってのける。一度進化した細胞は退化を受けつけず無理やりに進化をするというわけだ」
「それは厄介だな。ん? 浄化が通用するのか?」
浄化というのは、病やウィルスを人体から取り除く際に用いる医療魔法の一種だ。彼の言葉が気になったフラウドは思わず聞き返す。
「一応はな。元のサイズに戻す事は出来るらしい。だが、すぐにまた進化をするからな。しても意味が無い。それに一度浄化した個体は二度目の巨大化でほとんどの者が余計に凶暴になる」
だから、なるべく浄化はしない方が良い。アダルはそう言うと、フラウドは驚いた様な声で小さく呟く。
「だが、効果はあるのか・・・・」
それを呟くと、彼は考え込む様な仕草をする。何を思考しているのかと興味を抱いたアダルは思わず彼に問いかける。
「何を考えているんだ?」
「・・・・・・・・・・」
その声ははっきりとフラウドに届いていたのだろう。彼はその仕草をしながら「ちょっと待ってくれ」といい、思考を続ける。そう言われてしまってはアダルは待つしか無い。彼は暇を持て余したように外を眺め始める。そんな時だった。扉が開く音がしたのは。
「明鳥くん、起きた?」
扉の隙間から顔を覗かせたのは恐る恐ると言った表情のヴィリス。俺は起き上がろうとしたが、体の痛みがひどかったため、断念しその体勢のまま返答を返す。
「ああ、なんとかな」
俺の声を聞き、安心したような表情をするヴィリスはお盆を手に持って中に入ってくると、フラウドの近くまで足を進めた。
「あれ? まだいたんだ。何しているの?」
まだいることに不思議そうにしている彼女は彼に指を指して尋ねてくる。
「さあな。俺の話を聞いてたらなんか考え始めたんだ」
あったことをそのまま口にすると彼女は呆れた様な顔をする。俺もそれにならい、肩をすくめさせる。そんな事を為ているとフラウドはおもむろにその体勢を崩す。そのタイミングでヴィリスがこの部屋にいることに気付いた様子のフラウドの体は驚いた様に軽く跳ねた。
「急に現われるから、驚いたぞ」
心底そう思っているのか、彼の息は少し荒い。ヴィリスは彼の言い分に呆れた顔つきを崩さなかった。アダルはこのままでは話しが進まないと思い、彼に問いかける。
「で、何を考え込んでいたんだ?」
その問いかけを耳にした、フラウドは少しの時間悩み、漸く口を開く。
「その前に聞かせてくれ。お前はそれをどこで知ったんだ?」
全く話しについて行けない、ヴィリスは頭に?マークを浮べている。しょうが無い事Dが、この手の話しは最初から話さないとついて行けない物なのだ。しかしそんな彼女に構ってやる時間は今はない。
「その後も其奴らと闘う機会があったからな。試したんだよ。結果は散々だったし、危うく負ける所だった」
忌々しげに言葉を吐き捨てる。そんな様子のアダルにフラウドは再び問いかける。
「それをして、お前は何か、感じなかったのか?」
その問いかけにアダルは呆けた顔をする。どうやら何も感じなかったと悟ったフラウドは子おT場を続けた。
「浄化っていう魔法はな、病原菌やウィルスを駆逐する魔法なんだ。それで行って戻ったと言うことはだ」
彼は一度区切りを入れ、言葉を続けた。
「其奴が行ったことは、力の補給ではなく感染だったって事になる」




