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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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四十話 ユギルの衝撃

「嬉しいのか分からないけどな。いい加減、離してくれないか?」

 手を握る続けるヴィリスにアダルは苦笑いしながら口にする。その言葉を耳に為て彼女は一瞬悲しそうな表情を浮べたが、ここに居るのが自分だけではないということに気付いて、恥ずかしそうに顔を俯けながら言葉に従う。その様子を目にして、アダルは一度息を吐き、もう一人の方に顔を向け、愉快そうに口角を上げる。

「久しぶりだな、ユギル。中々逢いに来てくれないから、俺の存在を忘れているんじゃないかと思ったぞ?」

 半笑いでからかうそうにそれを口にすると、彼は青ざめたような顔をしてすぐに頭を下げる。

「申し訳ありません。決してそのような事はありません」

 焦った様に彼の口は開き続ける。

「私も早々に挨拶に行かねばならないと思っては居たのですが、これでもこの国の第二王子の身の上でありまして、当然公務という物が私にも発生いたします。それを処理しようと身を粉にして行って、漸く落ち着きを見せたところで今度は猪王の対策の為に働いておりまして、どうにもコチラに赴けなかったのです」

 彼は頭を上げると未だ青ざめた顔を為ていた。

「猪王の討伐が終わり、後処理が済んで漸くお暇を戴いたので今日来た所存なのです。猪王討伐の疲れで休養を取っていると聞いて、これを持ってきたのですが・・・・」

 ユギルは手にしたかごを見せそれを口に為た後、どうにも気まずい様な顔をする。何かと思い観察を続けると、彼の目線はヴィリスに向いていた。

「私が何か?」

 未だに少し恥ずかしそうに顔を赤らめている彼女は必死に繕った笑みを向ける。その笑みにユギルはすぐに目線をそらす。

「いえ、その・・・。まさか、ここでヴィリス様とお会い出来るとは思って居ませんでしたから、驚いてしまって・・・・」

 急ぎでそれを口にするユギルの姿を目にして、アダルは彼に可哀想な目を向ける。

「まあ、いいさ。とりあえずそこに座れ」

「は、はい!」

 彼の言葉に従い、ユギルは寝台の側にあった椅子に腰掛けた。すると、もう一つの椅子に座っていたヴィリスが突然腰を上げる。訝しげに彼女に目をやると、ヴィリスはいつもの笑みを浮べて口を開く。

「客人が来たのですからお茶を持ってきますね?」

 そう言って、彼女はそそくさと部屋から出て行った。彼女が部屋から出て、足音が聞えなくなったノを確認すると、ユギルは漸くその口を開いた。

「あの、アダル様。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 興味津々と言ったような顔つきでそれを聞いてくるユギルにアダルは疲労感を覚えながらもただ頷き了承する。

「先程より見ていた時より思っておりましたが、アダル様とヴィリス様は中がよろしいご様子です。以前より面識があったのでしょうか?」

 矢継ぎ早な口調で放たれる言葉はアダルの予想通りの物だった。そのことにどう説明すると悩み、アダルは溜息を吐く。

「王都に来る道中話したことがあっただろ? 俺が以前この世界を飛び回っていたときの話しを」

「はい、覚えております。確か貴方様と同じ前世持ちを探して行った事と」

 コチラからふっておいて何だが、よく覚えていたなと内心で感心しつつアダルは言葉を口にする。

「そうだ。その時俺は誰一人として見つけられなかった。まあ、あの旅は今は良い思い出だがな」

 そう口に為てアダルはからからと笑いつつ、言葉を続ける。

「さて、お前は言ったな? 俺とあいつは以前から面識があったのかと」

「はい!」

 ユギルは食い付くようにアダルを見つめる。

「答えは是。つまり面識はあった。だが、この世界であったのは俺がお前にここに連れられたその日だ」 アダルの言葉に一瞬不思議そうな顔をするユギル。しかしすぐに彼言葉を反芻して、ある事に気付き、思わず呆けた様に口を開く。 

「それは、つまり・・」

 躊躇為たように口籠もるユギルの求める答えをアダルは口に為た。

「あいつは俺と同じ日にあのバスの中で死んだ前世持ちだ」

 彼の言葉を耳に為て、ユギルは目を見開き声にもならない声を出す。

「まあ、驚くだろうな」

 その表情にアダルは苦笑いを浮べる。数瞬為て、ユギルは必死に動揺を声にでない様に頑張りつつ、言葉を紡いだ。

「話しを聞かせてください。そもそもどのようにして聖女様と会ったのですか?」

「お前の先々代の王様に紹介された」

「フラウド祖父様とも面識があったのですか?」

 その質問にアダルは軽く頷き軽快な口調で口を動かす。

「あいつには少し世話になったことがあってな。その縁で今ここに住まわせて貰ってる」

 彼の口からは嘘は言ってない。実際アダルは前世にてフラウド。王来に助けて貰ったことがある。しかし彼が今何故この様な回りくどいことを為ているのか。それはこれ以上聞かせるときっと彼の体が持たないだろうと判断してのことだ。正直、アダルはフラウドも自身と同じ前世持ちだということを言ってもいいと思って居た。しかし先程のヴィリスのことを耳に為てあれだったのだ。フラウドのことを口に為たら今度は倒れるかも知れない。彼はそう直感し、あえてこの様な言い回しを為ているのだ。

 そんな事とは露も知らずユギルは勝手に納得したように頷く。

「確かに、あのフラウド祖父様とアダル様だったら面識があってもおかしくない・・」

 そんな事を呟いているユギルを眺めて、問題はなさそうだと確信を持ったアダルは内心ホッとしていた。何故なら先程吐いたアダルの言葉はこの世界ではあり得ない事だったからだ。アダルがあの洞窟に引きこもったのは今から百四十年前ほど。フラウドがこの世界に生れたのは本人が言うには百五十年前。時期的には会えるかもしれないが、当時のアダルは中々自身と同じ前世持ちの者を見つけることが出来ない事に自棄になっていた時期。その当時を思い返してみて、自主的に人と関わりを持っていなかったと彼は記憶している。それに本来の姿の星もあるせいか、その当時に関わりを持っていた人など片手で数えるくらいしか関わっていない。その中に当然ながらフラウドの存在は入っていない。アダルはそんな事を考えつつ、ユギルがフラウドの年齢を知らなくてよかったと安心を為ている。

「では何故、フラウド祖父様はアダル様に聖女様を紹介したのでしょうか?」

「・・・・。お前と同じ事を嘗てフラウドにも話したことがあったんだ。そしたら俺に恩が売れると言ってな、どうやら探してくれたらしい」

 不思議そうな声で質問したユギルにアダルは出来るだけ矛盾点がないように言葉を紡ぐ。

「そうなのですか。ですが不思議です。まさかあの現実主義者のフラウド祖父様がアダル様の言葉を信じたなんて・・」

「ッ! まあ、突拍子もない話しだとは思うがな。あいつにも考えがあったから俺の言葉を信じたんだろうぜ」

 少し腑に落ちないながらもユギルはなんとか納得してくれたようだ。しかし彼の言葉にアダルは小さく息を詰まらせてしまった。もちろんその反応はユギルは気付いた様子はないため、安心出来る物だったが一瞬でも気を抜いてしまったことをアダルは後悔した。

「さて、この話しはこれで終わりで良いだろうな」

 疲れた様な口調でアダルはその話しを無理矢理終わらせた。この話しでアダルの体は何故か疲労感を覚えた。未だに戦闘によって残っているそれに加えての物だ。相当な物なのだろう。しかしアダルの体の調子など全く知らないユギルは憎たらしく感じるほど無邪気な顔をしている。その表情を見るとアダルはただ溜息を吐くしかないのだ。

「大丈夫ですか?」

 そんな言葉を掛けられたアダルはさすがにその疲労には耐えきれなかったのか、その口からある言葉を紡ぎ出す。

「まだ本調子じゃないみたいだ。もうちょっと休む」

 そう言って、アダルは彼の返答を聞かずに横になり、すぐに目を閉じたのだった。

 

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