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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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三十七話 条件

「世界を征服するだと?」

 それを耳にしたアダルは目を見開いて驚愕する。彼の口から出た話がそこまで大きな物だとは思わなかったのだ。その驚いた様子を目にしたスコダティは気分をよくしたのか、その反応を楽しむように微笑む。

「ああ、そうだ。そして我はその手伝いをしている」

 スコダティの言葉にアダルの目つきが一気に鋭い物になった。しかしその様子に気付き、彼にある質問を問いかける

「貴様は悪魔という種族を知っているか?」

「ああ!」

 秒も待たずにアダルは返答を返しそのまま口を開き始める。

「欲望に忠実な種族で、自身の欲望を満たすためだったらどんな手段でも用いる種族。そのほとんどが戦闘を好み、他種族の血肉を生きたまま摂取するという残忍な性格。今から五百年前に地下に封印された種族だろ」

 それを口にしていて彼は胸が気持ち悪くなる感覚に陥る。

「そうだ。彼らは五百年前、人間の王が所持していた星冠の力によって地下に閉じこめられた」

「星冠?」

 彼の発した言葉が気になりアダルは思わずそれを口にした。するとスコダティは懇切丁寧にそのことについて話し始める。

「星冠っていうのはだな。この星が生れたときに発現した王冠の事だ。この星冠は所有者にあらゆる事象を操る力を与えると言われている。例の一つとして我が古き友のウリガスがこの大陸を作った際。奴の角には星冠があった」

 その言葉にアダルは思わず声を上げる。彼は口にすることに嘘がないと言うことを知っている。それは昔、戦った時に嫌と言うほど思い知らされた。彼は真実しか語らない。その故彼の口にしたことが信じられなかった。

「それは《次元竜 ウリガス》自身の力でやった訳じゃなかったのか」

 彼の言葉にスコダティは肯定の頷きを返す。

「無論そうすることも出来たであろうな。彼奴なら。しかし星冠の恩恵は少しはあったであろう。そうでなければ短期間にここまで巨大な大陸など作れはせんだろうしな」

 愉快そうに笑う彼の表情はまるで昔を懐かしむ様にも見えなくもない。そんな事を思いながらもアダルは彼の言葉に耳を傾け続ける。

「さて、話の続きだがな。五百年前、悪魔種は地上で悪逆の限りを働いた。無意味な殺生。欲望のままに行われる強姦。自己満足の為に行われる略奪。その被害はこの星全体に広がりを見せた。そしてそれが行われて行く内にこの星は悪魔種が住みやすいように汚染されていった」

 彼の言っている一言一言がまるで見たように口にしている。多分彼のことだから本当に見ていたのだろう。

「星の汚染はどんどん広がりを見せたとき。さすがにそれを感化出来なかったこの星は人間の王に星冠を与え、他種族と手を取り合い悪魔種に抗うように命じた」

 何故今彼の口から英雄譚が紡がれているのかと疑問を感じながらも口出しはしなかった。

「人間の王は星の言いつけ通り他種族の協力を得て、見事悪魔種を地下に封印することに成功した。めでたしめでたし」

「・・・・・・」

 突如として終わった彼の語り。その終わり方が気になってしょうが無い彼は怪訝そうな表情をした。

「それで終わりか?」

 表情のまま、声からも彼が訝しがっている事は分かる。そんな彼の問いかけにスコダティはは否定の声を上げる。

「いや、本題はここからなのだ」

 今までニヤケ付いていた表情が一変し、唐突に彼の声は低くなる。

「この話は実はまだ終わっていないのだ」

「どういうことだ?」

 その発言にアダルは眉を顰める。今までの語りから言って、彼が口にしていたのはどう考えても昔に決着をつけられたこと。それなのにまだ話が終わっていない。その言い方からして、今もその話は続いていると言いたげだ。

「貴様の考えるとおりだ。天輝鳥。未だに決着はついていない。この話はある条件を満たさないと完全には終わらないのだ」

 条件という言葉が気になる。しかし、どちらにしろ彼は話すつもりなのだろうから彼は何も反応を示さなかった。

「ん? 気にならないのか?」

「どっちにしろ言うんだろ? お前は知っていること全部話すつもりだと口にしていたよな」

 呆れながら口に出すとスコダティはふてくされた顔をする。

「しかし反応を示してくれないのでは、些か話す気分にもなれないのだがな」

「こっちはお前が仕掛けてきた獣との戦闘後なんだ。それくらいは勘弁して欲しいな。それに本当なら今にも披露で寝そうな上体なのに、態々聞いてやっているんだ。感謝はされても文句をされる謂われはないぞ?」

 アダルの言い分にスコダティは溜息を吐いて、哀れ物を見る目を向ける。アダルはそんな目を向けられるも気に為る様子は見せず、早く次をいえと言う目を向ける。

「話の続きを為るとしよう」

 最早アダルからの反応は期待できないと悟り、渋々と言った様子で口を開きだす。

「この話を終わらせる条件。それは二つの視点から存在する」

「悪魔種側か、俺たち側か」

 その問いかけに彼は頷き、口を開く。

「正解だ。そこまでは考えていたのだな」

 少し意外そうな顔つきをするスコダティ。しかしすぐにその顔をやめる。

「条件というのは結局どちらの側も単純な物だ。貴様らの条件は我が友の殺害。つまり全魔皇帝を完全に消滅させること。そして悪魔種側の条件は星冠をその手に為ること」

 その条件というのを言い終えるとスコダティは空に目をやる。

「全魔皇帝は星冠を用いて何をしようとしている!」

 そんな彼に吠えるような声で問い詰めると、スコダティは無表情な顔を見せ付ける。

「さあな。我にも分からぬ。我は手伝えと言われたから手伝っているに過ぎない。そもそも我は悪魔種ではない者だからな。完全には彼奴の考えを理解している訳じゃない」

 彼はそういうと、遠くを眺める。

「ただ分かることはあるな。彼奴はきっと地上に住まう全ての生物を憎んでいるのだろう。そしてもし星冠をその手にしたとき。いの一番でやりそうなことなど容易に想像がつく」

 どこか諦めめいた様に口にした言葉を耳にして、アダルは彼の言動に疑問を感じた。

「お前の目的と全魔皇帝の目的は合致していないのか?」

 不思議そうな声がアダルの口からでる。為るとスコダティは遠くを見つめたまま一回頷く。

「我の目的はあくまで別だ。別に好んで奴に与している訳ではない。そのためだが、我はあまり今回のような事はせぬよ。安心しろ」

「じゃあ、なんで今回はしたんだよ」

 疲れた笑みを受け手アダルは呆れながら溜息をする。するとからからと笑い出すスコダティ。

「久方ぶりに引きこもっていた仇敵の強さが衰えておらぬか知りたいではないか。そのため今回はあの獣を利用したまで」

「相変わらず命を軽んじているお前だから出来る事だな」

 呆れ口調になっていながらも鋭い視線でスコダティを見据える。そんな様子を気にしない彼は笑い続ける。

「だが、安心したぞ。貴様はあの時以上に強くなっていることにな」

 仇敵といっている相手が強くなっているが相当嬉しいことなのと思うくらい彼は楽しそうに笑っている。その考えが理解出来ない彼は内心で溜息を吐いている。

「しかし。その程度の強さではまだ我が友には届かぬがな。精々鍛えを忘れぬ事だ」

 その言葉を言い終えると彼は徐ろに足を進める。きっとどこかに向うのだろう。しかしその前にアダルはどうしても聞きたい事があった。

「おい、待て、最後に俺個人が聞きたい事を教えやがれ」

 彼の言葉を耳にしたからはその場で足を止めた。振り返りはしなかったが。

「何故、俺におしえた」

 少し感情的に成りながらも彼はその場に響くような声で彼に問いかける。するとスコダティは首だけ振り返り、その答えを呟く。

「我が友の願いを叶えられると我の目的が果たされぬのでな。その妨害を行って貰おうと思っただけだ」

 彼はそれを言うと再び向きを変える。

「ついでに言っておこう。これは一応依頼でな。何、もう報酬は支払った」

 何を言っているのか理解してないアダルは追求しようとする。しかし今は体が動かないことを忘れていたため、無理に動かし、体に激痛が走り思わず悶絶する。そんな様子を眺め彼は愉快そうに口角を上げる。

「それではな。我が半身よ。近いうちにまた逢うとしよう」

 方向を変え彼は再び足を進める。者の数歩歩いた後彼は霞の様に消えていく。アダルは激痛に耐えつつ、その後ろ姿を恨めしい顔で見送った。


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