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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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三十四話 牙の秘密

猪王の動向から目を離さずにアダルは先程牙に貫かれた方の肩を軽く回す。

「っ!」

 回すと同時にそこから相当な痛みが走り、表情には出さなかったがそれはすぐに脳から警告が出される。これ以上負傷を負った肩を酷使為るなと。しかし未だに戦闘は続いている。そんな事は出来ない。もしこの怪我が重症だと猪王に露見したらそれは、弱点を教えるような物だ。先頭に置いて優位の状況である今。そんな愚行、晒すわけにはいかない。そう考え、アダルは痛みを無視して構えを取る。

「お前の攻撃なんて痛くないんだよ!」

 本心とは全く別のことを口にしつつ、彼は先程と同じように生え替わったばかりの牙鋸とを思考する。猪王最大の武器はなんと言ってもその牙だ。あの牙がを中心として、猪王はこれまで闘ってきた。もしそれが戦闘中に折れた場合の為の生え替わりがあるのだろう。

「だが、そう簡単に出来る物でも無いだろ?」

 アダルが挑発口調でそのことを叩き付ける。それに対する猪王の怪盗は無い。そもそも猪王には言語を理解する力など無いのでそれは仕方の無い話なのだが。しばらく時間が経った後、猪王は小さく唸り声を口にする。それと同時に後ろ足で地面を抉り出す。それは最古程から嫌と言うほど見せ付けられた突進の構えだ。

「来いよ」

 アダルが余裕そうな言葉使いで口にしつつ、そっと重心を下げる。それは猪王の突進を真正面から受けて立つというアダルの心を表している。正直彼はこの行為をしたくは無い。それによって猪王に傷の子余が露見してしまう可能性があるからだ。だが、今此方から近づき攻撃をしようとしてもそれは肩を庇った単調な物になる可能性があり、それによって猪王にこの傷がバレてしまっては本末転倒だ。折角向こうが突進のい構えを取っているのだ。それを利用しない手は無い。アダルは猪王の突進に乗してその二つの牙を二つとも折る算段を取ることにしている。その際牙に纏わり付く暴風の刃が厄介だが、その対策はも居してある、アダルは突進を今か今かとその目を動かさないで居る。

「ギュオオオオ!!」

 遂に準備が整ったのか大きく声を上げ、それは突進を始める。轟音と共に向ってくるのは間違い無くアダルの方向。牙にはそれまで以上に鋭利な形に形成された暴風が纏われていた。それはこの攻撃によってアダルを仕留める為に使った物だと判断できる。その暴風を目にして、アダルは一瞬だけ、自身の体に目をやり、何かを確認するとすぐに猪王へと目を戻した。その隙に猪王都の距離はどんと縮まっていた。このタイミングで彼は上半身を光りで包む。その光りはすぐに消え去ったが、それが包んだ場所には黄金色の鎧を着込んでいた。その状態でアダルはそっと両手を前に出し、突撃を阻むような態勢を取る。それを目にしても猪王は突進を止めない。むしろスピードは上がってきている。その光景にアダルも顔には出さずただそれに備えていた。

「ギュオウウ!」

 そこで余計に勢いを挙げるため、猪王はさらにその場に響く声を上げる。アダルが眼前まで見える所でそれをやったため、彼は少しその声に驚いた様な顔をしている。それを好機を踏んだ猪王は自身の牙を勢い良く突き刺す。

「・・・・ギャ?」

 しかし当たった感触は感じられなかった。疑問に思い目を上げると、衝撃の光景が目に入った。

「今までで一番マシな攻撃だったな」

 猪王が目にした光景。それは自身の鋭利な暴風を纏っていたはずの牙がアダルの両手に掴まれているという物だった。牙に目をやってみると未だに暴風は纏われている状態。それなのにアダルに二つの牙を取り押さえられていた。

「だが、威力は足りてなかった。この鎧を吹き飛ばす事は出来なかったからな?」

 挑発めいた笑い声がアダルの口から発せられる。目の前の現実が受け入れられない猪王は錯乱し、頭部を震えさせている。

「現実って言うのは厳しいな。俺は今それを身をもって経験している。何せ、俺は使う予定の無かった切り札を使用してしまったんだからな」

 やれやれといった様子首を振りつつ、アダルは牙を引き抜こうと握る握力を上げ始める。

「ギュアッ!」

 その行為によって、猪王はようやく錯乱状態から回復した。牙の根元から引っこ抜かれる感覚がそうさせたのだ。それは人間で言うなら、歯を無理矢理引き抜かれるような感覚。猪王の場合はそれが二本同時に襲いかかってきている。

「ギュアアアアアッッ!!!」

 その痛みに耐えかねて、猪王は遂に悲鳴の様な甲高い声を上げ始める。それはまるで黒板を爪でひっかいた様な耳が劈く様な奇声。しかしアダルはそれを間近に食らっても顔色一つ変えずに行い続ける。むしろ、その声を上げていくほど、アダルの握力は徐々に上がっていって居るのだ。

「お前の弱点。二つ目はまさか牙だったとはな」

 奇声が周りの音をかき消す中、アダルは感心めいた声を自分の耳にだけ聞えるように呟く。彼はそこで得ある疑問が生じた。先程の攻撃で牙を折ったときは微塵もそんな気配を見せなかった。それなのに今回は何故、このような奇声を上げているのか。その疑問が頭に過ぎった。しかしその答えはある条件を埋めたことを案外すぐに頭の中に提示された。

「二本同時が弱点なのか」

 先程アダルは一本しか折っていない。その時は全くといって良いほど猪王は痛がる反応を見せなかった。それは彼に向って牙を射出した時も同じだ。それなのに今回は奇声を上げてまで痛がっている。そんな姿を目にしたら、誰でも分かるような答えだった。猪王の牙には再生機能が備わっている。それは自己を守るために進化した結果だと言える。猪王にとって牙とは武器で梨、強さの象徴だ。それが破損、または欠損した時。それは武器を失ったも同然だ。それでは狩りも出来ないし、やがて餓死してしまう可能性だってある。そこで猪王はある進化を遂げた。それは牙の内どっちかが残っていた場合、その牙を元に新たな牙が形成されると言う物だった。残った牙はいわば予備用の保存データのような物だ。そしてそれが終われば、残っていた牙はあっという間にもろくなる。それは蓄積したデータが全て新たに形成される牙に全ても持って行かれるためだ。残っていた破損又は欠損した牙は未だ形を保っている牙と共に抜け去る。その跡に新たら牙が瞬時に生えてくるのだ。しかし今回猪王を苦しめているのはまさにそれによってだった。猪王の牙とは情報蓄積装置だ。そのうちの一本は損失しても良いようになっているのだああ。しかし今回アダルが引き抜こうとしているのは二本とも。それは情報を失おうとして居るも同然。それを察した本能が牙にある情報の全てを猪王の頭に無理詰め込もうとしているのだ。しかし猪王の頭ではそれを処理することなど出来ない。それは相当の痛みを伴って拒否反応を起こし、猪王は奇声を上げているのだ。

「ギュウアアアアアアアッ!!」

 その痛みは時間を増すごとに強まっていき、それに比例して奇声も大きくなる。その間もアダルは決して握力を込め続ける。

「いい加減、耳が可笑しくなりそうだな」

 口ではそう言いつつも、その声から発せられた声尾は半笑い気味だったことからアダルはまだこれに耐えられるだろう。しかし、耳が可笑しくなりそうというのは事実だったようだ。それを終わらせるために、彼は牙を引き抜こうと引っ張り始める。

「ギュオオオオオ!!!」

 アダルの行動に猪王は抵抗できない。それをする気力など最早残っていない。今の猪王に出来るのはただ、悲鳴を上げ続けることだけだった。


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