三十三話 弱点
思考している途中でも、そんな事お構い無しに猪王は両肩にどんどん体重を掛けてくる。その際に鈍く尖った猪王の蹄が方に突き刺さりアダルに激痛を与えていく。そんな中でも彼は次の一手を考えるのを止めていない。むしろ、激痛のを伴っている子の状況で葉厄ここから抜け出す事を思考しているため頭はいつも以上に加速している。
「ギュウフォオオオ!」
為ると彼の耳に今までとは違う猪王の声が入ってくる。何かと思い猪王の顔に目を向けると、そこにあったのは口角を卑しく上げた猪王の顔面だった。目には勝ちを確信した時に現われる奢りが宿っており、その卑しい目で此方を見据えている。それを目にしたとき、アダルは何をしたか。
「へっ!」
彼は猪追うに釣られるように笑い声を上げる。それも余裕そうに表情を浮べつつ。それを目にしたことにより、猪王の中にあった奢りの様な物はすぐに霧散した。なぜだかは猪王自身分からない。しかしすぐに自分を恥じる。子の相手は決して
油断を許してはいけない相手なのだ。そうイモに命じ、猪王は余計に体重をかけ始める。
「ぐぅぅ!」
先程より強い圧力が掛かったことにより、アダルは苦悶の声を上げる。しかしそれ以上は声を上げることも無く、ただひたすら思考を続けている。続けているのだが、一向に良い考えが浮かんでこない。いや、浮かんではいるのだ。しかしそれはあまりにも賭けの要素が高すぎるため、迂闊に行動為ることが出来ないのだ。そんな歯痒い自分が少し嫌になった彼は想わず舌打ちをする。そんな状況の中で何故か何時か誰かに言われた言葉が頭に響く。
『君は少し考えすぎの様だ。もう少しだけ楽観的に考えた方が人生は楽しいよ?』
何時言われた言葉だっただろうと、アダルは不意にこの状況を打開するための思考を止め、その記憶を探る。
「確か、100年前。いや、それ以上前か」
猪王にも聞えない声で呟きながら、記憶を整理していく。ならば150年前に言われたことかと聞かれれば、それも否だろう。それを言った人物がどうしてもお思い出せない。そレガアダるンオ頭をよけい混乱させる。そんな中でも今の状況は全く変わらない。むしろ先程より悪くなっている。猪王は先程折られなかった方の牙に渦を巻く風を纏い、それをアダルに突きつけているのだ。アダルは全くその事に気付いては居なく、記憶の整理に集中している。
「そうか。誰かと思ったら・・」
ようやく記憶の整理から戻ってきたアダルは目の前の状況を目にし、少し抱け焦りを見せる。だが、そんな事構いはしない猪王は大きく牙を振ろうとする。
「させるかよ!」
牙を古助走の為、大きく頭を上げている隙に、アダルか猪王の腹部に両足で蹴りを入れる。
「ギョエィ!」
この状況から反撃されると思っていなかった猪王は素っ頓狂な声を上げながら蹴りの威力に負け、吹き飛んでいく。
「ん? どういうことだ」
そこでアダルは違和感を感じた。猪王は妙にあっさりと吹き飛んだなと。今まで闘ってきたアダルには分かる。猪王は決して容易に吹き飛ばせるような個体では無いということを。アダルの攻撃によって何回かそれをしたことはあったが、それは全て猪王が此方に意識を持っていなかった上体での不意打ちによって成っている。それなのに今回の苦し紛れの攻撃によって猪王は吹き飛んだ。大して威力をつけた気はしなかったにも関わらずだ。これまでの攻撃と何が違うのかと思い、アダルは猪王ほ方に目を向ける。そこには蹲りながら、悶えるような声を上げている猪王の姿があった。ここでアダルは明確な確信を持ち、。
「そこか。お前の」
口にはしなかったが、彼はこう言ったのだ。弱点は、と。そこからのアダルの行動は早かった。彼は直ぐさまそこから駆けだし、猪王の下に向う。ここで翼を使っての飛行を選択しなかったのは、単に面倒だったからでは無い。いつも飛行して攻撃を仕掛けると思わせないためである。もちろん猪王では無い。今の猪王にそれを考えるだけの理性は存在しない。あるのは本能だけだ。アダルがそれを見せ付けたかったのはどこかからこの戦闘を眺めて居るであろう、黒幕達にだ。
物の数秒で猪王の下に辿りつくと、彼は駆けてきた時に生じる足に溜まる力を残さず込めて、蹲っている猪王の腹部目がけて蹴りを入れる。それはさながらボールを蹴るような要領で。
「ギュエィ!」
うめき声を上げつつ、猪王は蹴りの威力に負け、その場よりほんの少し離れた場所に飛ばされる。その際に背中から着地したため、猪王を象ったようなクレーターができあがる。そこでアダルは猪王の弱点たる腹部に目をやり、納得した。
「成るほどな。痛がるわけだ」
猪王の腹部。そこには明らかに他の場所とは毛の色が違い、白く柔らかそうな毛質をしていた。これほど明確に違うのに、何故気付くことが出来なかったのかとアダルは頭を抱えたくなる。そんな事をしている内に、猪王は態勢を立て直し、必死に立ち上がろうと試みる。アダルは何故かその様子をじっと眺めていた。
「グウゥルルル!」
どこか責め立てるような声を上げる猪王に、アダルは鼻で笑う。それはまるで猪王の言いたいことが分かっているように言葉を返す。
「立てよ。まだ戦えるだろ?」
怒りを滲ませた声が彼の口から漏れ出る。言葉にしつつ、アダルは指を鳴らし体を戦闘態勢に持って行く。それを目にした猪王も一本しか残っていない自身の牙に風を纏わせる。
「いくぞ?」
アダルも腕に光りを纏わせつつ猪王に向け拳を放つ。しかし、猪王は瞬時に横に飛び退くことによって、回避しそのまま突進を仕掛けてくる。アダルは軽く体の軸を外して、直撃を防ぐ。彼の真横を通過する途中にアダルは猪王の腹にキックを繰り出そうと試みる。しかし、想いの他猪王の突進のスピードは早かったらしく、足を踏みつぶされると考え直しアダルはその攻撃を断念する。代わりに体全体に光りを纏わせ、通過途中の猪王に体当たりを食らわす。さすがに吹き飛ばすことは不可能だっただ、後退させるのには成功した。猪王は再び突進を仕掛けようと地面をならす動作を始める。しかしその前に俺が猪王に向け駆け始める。一秒もしないうちに、接近し、お出を上に掲げる。すると腕に纏った光りが大きな拳を形成し始める。
「光鎚撃」
それを振り下ろすと、猪王は態勢を崩し、地面に体を預ける。アダルはそれを目にして、もう一度同じ腕を振り上げ、同じ行程で攻撃を食らわす。
「ギュガガア!」
「っ!」
完全にアダルの攻撃に潰れてしまったと思われた猪王はいきなり叫び声を上げ、残った牙を者砲為る。それには対応出来なかったアダルは左肩にそのう攻撃を受けてしまい、後方に倒れる。彼は顔だけ動かし、猪王に視線を向けると、ゆっくりであったが、よろよろになったア足で立ち上がるのが見えた。
「な、にっ!」
アダルはあまりにも驚愕した物を目にして、声を引きつらせた。それは猪王が立ち上がるのを見たせいじゃない。アダルを驚愕させた物。それは無くなったはずの二本の牙が新しく形成されていく様だった。物の十秒ほどで形成は完了し、完全に元逢った物と同じ物が猪王の口元に存在していた。
「ギュウフィ!」
猪王は軽く頭を上げながら朝雨初為るように鳴いた。それを目にして、アダルは乾いた笑い声を溢したゆっくりとだが立ち上がり、肩に突き刺さる牙に手を掛ける。案外あっさりと抜けたそれはアダルの血液がべったりとついていた。彼はそれをぬ音の前に持ってくると力を込め、粉々にし戦闘態勢をとる。




