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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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三十二話 VS猪王

 アダルはすっと重心を下げ戦闘の構えを取りつつ、猪王を観察するような鋭い目を向ける。全身黒い針を思わせるような鋭利な体毛が全身を覆い尽くし、口の真横には体の三分の一ほどある牙が卑しい光りを放っている。不意に足から微妙な痛みが走り、一瞬だけそこに芽を向けると、仄かに血を流していた。これはきっと先程跳び蹴りしたときに負った傷だろう。別にこれからの戦闘に支障になる程の傷ではなかったため、アダルは再び猪王に目を向ける。

「ギャアアア!!」

 猪王はアダルが一瞬目を離した瞬間を狙っていたのか、雄叫びをあげ、突進を仕掛けてきた。そのスピードは相当早い物で300メートル離れた所から物の数秒でアダルの目の前に移動していた。そのタイミングで、猪王は自身の牙に禍々しい色の渦を巻いた風を纏わせる。それを目していたアダルは舌打ちをしつつ、真横に飛ぶ回避行動に出た。

「危なく触るところだった」

 回避した後も真っ直ぐと進み続ける猪王を目で追い続ける。彼はにじみ出した冷や汗を拭いつつ、言葉を吐き捨てた。彼の中ではある程度戦闘構成を作り上げていたのだ。まずは牙を抑えて、猪王の動きを止める。しして全身を覆い尽くす針のような体毛を全て切り落としそこに再び先程の技をたたき込む。猪王が先程の技に耐えきれたのはあの体毛が全ての光りを弾いているとアダルは見ていた。そのため、猪王の体毛を全て苅れば、奴は全身が急所と化し、そこでとどめを刺すという構想を練っていた。しかし現実はそう甘い物では無かった。彼の考えた妄想に近いそれは猪王が牙に風を纏わせるところを目にしたことによって呆気なく吹き飛ばされた。全身が針と化しているため直接体には触れない。牙も禍々しい風の渦を纏っているために触ることが出来ない。彼の思惑は崩れ去る。彼は冷静に頭を回転させ、再び戦闘構成を練り始める。

「ギュオオオオオ!!!」

 猪王は1キロほど進んだところで方向転換をして、再び此方に駆けてきていた。アダルは再び体の重心を下げ、戦闘態勢に持って行く。物の二十秒ほどで猪王は押し迫ってきていた。その牙には先程と同じように風が纏われていた。しかしアダルは避ける動作を始めようとはしなかった。それどころか体を捻り、猪王にはを全く目が行っていなかった。それを好機と感じた猪王はスピードを上げ、アダルに直撃しようとする。

「ギュオオオ!!・・・ぎゃう!」

 だがしかし、その突進がアダルに当たることはなく、逆に猪王が真横に吹き飛んだ。その際、間の抜けたような声を上げながら、その胴体は「どざぁ」という音を立てながら地面をえぐり取っていく。アダルの方を見ると、何かを蹴り抜いたような態勢になっている。彼は直ぐにその態勢を解き、今上げていた方の足を感覚を確かめるように数回揺らす。

「予想が当たってよかった」

 少し安心したような口ぶりをし、ホッと行きを吐く。

「ぎゅ、ギュガ?」

 猪王は何があったのか今一理解していないようで、変な声を出す。すると強烈が痛みが鼻部に走る。

「ギュウガガガガガ!!」

 その痛みに耐えられずに思わず声を上げる。

「どうだ? 効くだろ。俺の蹴りは」

 空から先程から聞き慣れている声が降ってくる。猪王は思わずその方向に目をやると、翼を広げたアダルが愉快そうに此方を眺めていた。猪王による体当たりが直撃しようとした瞬間、彼は猪王の鼻目がけて渾身の回し蹴りを食らわしていたのだ。それは相当の威力を持っていたようでまさかカウンターを食らうとは予想していない猪王は不意を突かれた形となり、無防備にその攻撃を受けてしまう。

「ギュググ・・・」

 唸り声を上げ、痛みに耐えながらもその巨体を興し上げる猪王は恨めしそうにアダルを睨む。

「さっきのお返しだ。甘んじて受けやがれ」

 吐き捨てるように口にする彼は、少し離れた場所に降り立ち、何かに納得したように頷く。

「鼻には体毛がないから、弱点なんじゃないかと予想していたが。これは良いことを知れた」

 彼は少し余裕が出来たと首を鳴らしながら声に出す。だがアダルのその態度が猪王気に入らなかったらしく直ぐにも攻撃態勢に入り、再び牙に風を纏う。しかし今度は先程とは少し仕様が違うようで、風は渦にはならず牙にの形をなぞって回っている。それはさながら風で出来たチェーンソーのように。少し嫌な予感が頭を過ぎりアダルは直ぐに真横に飛ぶ。彼の予感通り猪王は頭部を勢いよく縦に振る。すると二つの牙に纏っていた風が甲高い音を上げ、此方に迫るのが見える。間一髪でそれを避け彼は先程まで自分がいた場所に目を向ける。そこには猪王の方向から続いてくる二つの大きな裂傷が刻まれていた。一瞬でそれがどこまで続くのかと確認しようと頭を動かすが、直ぐに猪王が此方に突撃してくる気配がしたので直ぐの頭の向きを変えた。

「ギュオオオオ!!」

 気配通り猪王は猛スピードで此方に駆けてきていた。それも先程のチェーンソーのような風を牙に纏わせてだ。これでは先程と同じ手法は使えない。一瞬だけ顔を歪ませ、彼は右手を手刀の形にする。それだけに飽き足らず、件の手に黄金の光りを纏わせ、右手だけ前に突き出し、左手は腹の横に据える。

「ギュゴオオオオオオ!!!」

 アダルとの距離が縮まったのを目視した猪王は雄叫びを上げつつ頭を大きく上に挙げる。それと同時に前足も上げることで勢いがつき、加速した猪王の牙がアダルに襲いかかる。しかし何もしない彼ではなかった。アダルは右手首が方につきそうになるまで曲げ、それを勢い良く横に振る。一閃される過程で、バキンっ!という甲高い音がアダルの耳に響く。その音の正体を確認するため音のした所に目をやるとそこには長かった牙がとても短くなっていることが確認出来た。すなわち彼は光りを纏った手刀で猪王の牙の一本を折ったのだ。彼は追撃のため、直ぐさま左手で猪王の鼻の頂上目がけて正拳突きを繰り出す。しかしそれは猪王が頭部を直感的に動かし、残った右の牙でガードをする。しかしアダルの攻撃はまだ終わっていなかった。彼は直ぐさま自身の右足で猪王の顔目がけ蹴りを入れる。ガードする物が存在しない側だった事に焦りを抱いた猪王は急いで上体を持ち上げた。蹴りの反動で一回転してしまったアダルはその上体から猪王の顎にアッパーを繰り出す。蹴りの反動をそのまま回転力に使った上体でのアッパーであるため、通常の物より威力があるのは当然だ。見事にその攻撃は猪王の顎に直撃し、アダルはさらに再び猪王を飛ばそうと余計力を込める。しかし彼が思い描いていた状況には成らず、猪王はその体勢のまま微動だにしない。不意に足下を見ると猪王はこれ以上態勢を崩さないように長い尻尾を支えにしていたのだ。それが分かったアダルは腕を抜き、その場で軽くジャンプをする。その勢いを逃さないように自身の下半身を回転させ、右足甲で猪王の顔を蹴り抜く。それによって猪王の態勢が僅かに崩れた。アダルは再び攻撃を再開しようと一度着地して拳を突き上げようと試みた。

「ギュウウウアアアア!!」

 しかしそれを為る前に猪王は自身の上体を勢い良く倒し始める。調度上体があった場所まで潜り込んでいたアダルは不味いと判断してその場所からいそいで退避を始める。だが、今回はそれが少し遅かったようで為す術もなくそのまま上体がアダルに覆い被さる。その過程で両肩が猪王の前足に踏み抜かれた。

「ぐぅ!」

 思わず苦悶の声を上げるアダルはその状況のなか、次の一手を思考していた。



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