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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
六章 召喚される二人の聖女
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五話 大母竜の言葉

 大母竜の一言で幾つか目がアダルへと向けられる。正直居心地悪いとしか言いようが無い。何せあの戦いにおいて彼は全くと言って良いほど役に立てなかったのだから。

『神獣種はその身に宿る力によって悪魔種とこれまで戦ってきました。・・・・皆も聞いた事があるでしょう』

 すると天井にいきなり映像が流れ始める。音はないがカラーの映像だ。それは数分割もされていて、それぞれで神獣種が戦っている映像が見られる。その中ではアダルも見たことがない白銀の獅子や黄金の大猿の姿があった。どの個体も悪魔種の手先である巨獣を退治している映像である。

「・・・・・彼奴らだけじゃなかったんだな・・・・」

 ハティスの言葉からそうなのは知っていたが実際に映像で見るまでは実感がなかった。

『この様に彼らはこの星のために戦ってくれています。ですから私達は彼らに強力をしなければ成りません』

 言葉にされて大竜種達は少しだけ不満に思ってしまった。そして疑問を抱いたのだ。勿論それを理解している大母竜は先にそれらを口にした。

『皆の心の内にある想いは分かっているつもりです』

 その言葉によって会場は少しざわめいた。

『悪魔種と戦うのならば自分達だけで良いのではないか。彼らに強力など無くても打ち破れるのではないか。・・・・・そう想っていることでしょう・・・』

 言い当てられた若い竜達のざわめきは収まる事はなかった。

『・・・・・ですがここは少し言葉を強く言わせていただきますが・・・・』

 次の瞬間。その身の寒気が襲いかかった。

『舐めるな!!』

 そして会場中に響いたのは珍しく声を荒げた大母竜の声であった。それに続くようにその声のままに矢継ぎ早に口にしていった。

『貴方方は分かっていない。悪魔種という種族の恐ろしさと残虐性という物を』

 彼女の言葉はそれだけでは終わらない。

『そしてうぬぼれすぎです。貴方達は自身のことを過信しすぎている』

 その言葉に言い返せる物はその場にはいなかった。

『・・・・・・過去の戦いの話をしましょう』

 そこでようやく落ち着きを取り戻した大母竜はトーンを落として少し寂しげになった。

『過去。品も知っての通り。悪魔種との戦争がありました』

 誰もが知っている過去であり、今やおとぎ話として語られる物語。だがいまやそれを信じる方が馬鹿だと言われるような話しである。

『そして私たち竜の者もその戦争に参加していました』

 その声からは余計に悲哀の念がにじみ出ていた。

『当然わたくしも。わたくしの百を超える弟妹もそれに参戦いたしました』

 その結果が如何なのかは今の現状を見れば分かる。

『生き残ったのはわたくしを含めた五体のみ。命を落とした弟妹は全員悪魔種によって殺されました』

 命を落とした物が弱かったのでは無い。悪魔種の力が竜にも及んだ結果。競り負けて死んでいったのだ。

『わたくしの弟妹達。実力で言えば貴方達よりも上な者ばかりでした』

 何を言いたいのかはほとんどの物が分かってしまった。

『そんなものたちも生き残れなかった。・・・・・貴方方がどうして生き残れるというのですか・・・・』

 その声は悲しさが宿っている。

『・・・・・・話が逸れてしまいましたね。・・・すいません。続きを口にするとしましょうか』

 さすがに子供達の叱責にこれ以上時間を費やす事は出来ないと判断した大母竜は話を戻すことにした。

『さて。では何故神獣種がいるのに新たに聖女を召喚するのか。誰もが思ったことでしょう』

 さすがに今度はざわつくこともなかった。今さっき叱責されたばかりなのだから誰も出来なかったというのが正しいだろう。

『聖女は戦いの為に召喚するのではありません』

 誰もが驚いたことだった。

『聖女はこの戦いによって傷付いた土地を癒やすために召喚するのです』

 騒然とした会場内。だが大母竜は気にする事無くそのまま言葉をつづけた。

『悪魔種との戦いにおいて。その戦場になった場所はとてつもない被害がでてしまいます。それこそその後は何も実りをつける事の無い無毛の大地にへと変貌してしまいます』

 それは強力過ぎる力がその土地の全ての栄養を消し去ってしまうためである。それにより無毛の大地へと変わってしまうのだ。

『悪魔種の力によるものです。世界樹の周りの木々が枯れていってしまったのが論より証拠です。・・・・皆もそれを見ていたでしょう』

 彼女の言う通り。今世界樹の周りの景色は変わってしまった。巨人との戦いでの被害が大きく、木々が生い茂っていた周辺納土地は徐々にその機器が枯れていっているのだ。

『向こうからしたら戦えば戦うほど、勝手に自滅していくのを待つだけで良いという状況になってしまいます』

 全く笑えない話しであり、重い話しである。このままだとその影響が世界樹にまであるかも知れないという考えはすぐに誰もが頭を過ぎった。

『このまま指を喰わせて現状を何もせずに過ごすと言う事は。種族として絶滅するのを眺めているだけに過ぎません』

 ここまで来ると誰もひそひそ話しを為る余裕など無くなっていた。

『だからこそ星の意思様はその対応策として聖女様を呼んでくださったのです』

 希望の見える話しを耳にした喪乗った威は一気に歓声を上げた。

『聖女の力はその場に存在するだけで澱んだ悪魔種の力を浄化すると伝え聞いています』

 それだけで悪魔種にとっては危険な存在であろう。

『・・・・そして今回わたくし達、大竜種がその聖女の召喚の儀を行う事になりました』

 歓声はより大きくなった。それは星の意思が大竜種に期待していると言う風に受け取ったのだ。

『・・・・・我が種族は一度過ちを犯してしまいました』

 それは身内から魔王種に体を奪われた者が出たこと。

『これ以上の失態は許されません』

 失態。失敗は許されない。これ以上は。だから身内で争っている場合でもないのだ。

『よくないことを考えている者も当然ながらいることでしょう』

 誰もが押し黙る。それは図星だったのか。それともその者を知っているのか。余計な事を口に出さないための処置であった。

『ですがここは聖女の召喚を手伝ってくださると助かります』

 そう言って彼女が頭を下げる。そこからは一気に歓声が大母竜へとあふれ出していた。当然ながら好意的なものばかりである。

『・・・・感謝します』

 好意的な言葉を耳にして大母竜は微笑みながら感謝の言葉を口にしたのだった。

「母様。そろそろ時間になります」

 側にいたミリヴァが時計を確認し、そのことを伝えると大母竜が頷いた。

『それでは皆の者。これより召喚の儀を始めるとする』

 その一言で会場は統制されたように静かになる。そんな事は気にせずに大母竜は少し後方に下がると、周りにいた側近の者達は少し離れた所に移動するのであった。彼女が止まるとその下は仄かに光を放った。輝いたことでようやくそれが召喚陣だと言う事が判断できたのであった。

『偉大なる星よ。栄光ある星様よ。我が名は今代の大母竜なり。我が魔力をもって、異界寄りの扉を開き賜え』

 静かに呟くと彼女の体から大量のオーラが噴出した。だがそれは天井に昇る事無く全て召喚陣に吸収されていく。それによって召喚陣の輝きが増していき、最終的には直視できないくらいにまでなっていった。その状態になると彼女はその陣の外へと移動すると最後の最後の仕上げとして腕に纏った魔方陣をその中に投げ込んだ。瞬間にその輝きが爆発したのだった。

『・・・・ようこそ仰いで成されました聖女よ』

 爆発の噴煙と光の粒子が腫れていくとそこには人影があった。それに対して大母竜は恭しく頭を下げるのであった。


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