三話 会場の隅っこで
壁際にて会場の用数を眺めているアダル。その喧噪の中でも幾つかの嫌悪の目が向けられている事を気付かないほど彼は鈍感ではなかった。それでも彼は気にする様子も見せずに静かに壁に体を預けていた。
「・・・・・見つけた」
そんな彼の元に呆れなた様な声を出しながらヴィリスが近づいてきた。
「探したよ。・・・・どこに行ったんだって」
「・・・・見つからないような所にいたつもりだったんだけどな・・・・」
少し驚いた表情になるアダル。だがヴィリスの方はあきれながらに答えた。
「だから探したって言ったじゃん。・・・・本当にどこに行ったんだって思っちゃったよ」
「・・・・・悪かったよ。・・・・あんな喧嘩腰のママの状態でいなくなったりしてさ・・・」
「・・・・あれは姉様も悪いからさ。別に気にしていないよ」
「・・・・・それでもあんな態度は取りべきじゃなかったのは事実だからな。・・・・今さらながら反省しているよ」
少し顔を下に向けると彼は内心で反省をし始めた。
「・・・・・それよりさ。中心の方で見なくても良いの?・・・もうすぐ始まりそうな雰囲気だけど・・・」
「・・・・俺はここで良いよ。・・・・今回は完全に見学者って立場だからな。中央の方にいっても、あんな目を向けられるだけだし・・・」
アダルの言う目線という物をヴィリスも感じていたから少し悲しそうな表情になった。
「・・・・大丈夫なの?」
「問題は無いさ。成れているからな」
一切表情を変えないことから彼女もそれ程気にしていない物だと一瞬だけ思ってしまった。だがすぐに思い直す。本当に気にしていないのならば彼は言葉にはしないはずである。だが口にしたと言うことは少しには気にしていると言う事なのだろう。
「・・・・兄姉達がご免ね」
「お前が謝ることでもないさ。・・・気折れは俺が行ってしまった罪なんだからな・・・・」
どのような理由があろうとも彼が行なった事はあまり褒められたことでは無い。何せ流の王族の者達を傷つけたことには変わりないのだから。あのような嫌悪の目で見られているだけまだ優しい方であろう。
「・・・まあ、とにかくだ。今回俺はただの見学者としてここに居るよ」
「・・・・そうなんだね」
そう口にすると彼女は少し悩んでいるように見えた。
「・・・・・俺はここから動く事は無いと思うからさ。お前は母親に挨拶して来たらどうだ?」
「・・・・良いの?」
「変に気を遣わなくてもいい。その後もでってこなかったとしても別に攻めたりもしない。そもそも俺にそんな権限はないからな」
言葉の通り彼にはヴィリスをここに束縛する権利など存在していないだからどのように交互王為るのかは彼女に委ねる。それしか出来ないのだから。
「・・・・・うん分かった。・・・・・じゃあここで待っててね。出来るだけすぐに戻ってくるからさ」
「別に戻ってこなくても良いって言ってるだろ」
ヴィリスの言葉に少し困惑しながらも彼女は彼の口にした物に首を振る。
「戻ってくるよ。アダルくんは目を話しとすぐ荷厄介なことに巻き込まれるからさ。だから見張ってないと」
いくらか言いたいことはあるのだが変に圧のある言葉がアダルを無慈悲に刺さってしまった。だから言い返すことが出来なかった。
「・・・・・だからちゃんと待っててね。私は戻ってくるからさ」
「・・・・ああ、分かったよ」
子供扱いに少しは呆れながらもその事に対して思って居ても口に出さなかった。
「・・・・じゃあ、いってくるね」
「いってらっしゃい」
彼女はそれだけいって軽く手を振ってから少し駆け足でその場から離れていった。
「・・・・どっちが子供か分からないな・・・」
その無邪気な反応に思わず言わなくていいことを口にしてしまった自覚はあった。だが誰も聞いていないだろうという甘さがあったのは事実である。事実彼の周りには誰一人近づいてこなかったのだから。
「・・・・・・静かに。気配を消しているのが吉だな・・・」
そんな事を呟きながらアダルは壁に体重を預けて腕を組んだ。そしてそれと同時にある事を考え出し始めている。
「・・・・・何なんだ。この嫌な予感は・・・」
眠りから覚めてからにというものずっとあるこの予感。それが一体何を刺すのかは彼には分からない。だが確実に言える事もある。
「・・・・・この予感はおそらくはずれない。・・・・・何か俺に取って悪い事が起る」
自分個人による物だったら別に良いのだ。それが他の人物にまで悪い事が拡がるのだったら見逃せない。その監視のために訪れたと言ってもいい。
「・・・・・それになんだ? この胸騒ぎは・・・」
悪い予感とは他に抱いている者も遭った。それは妙に心がざわついているのだ。悪い予感が心を重くする物だとしたらこの胸騒ぎはこころを。かくるするもの全く相反する物が彼の中で同時に存在している。
「・・・・この胸騒ぎは興奮による物か? ・・・・そして何故か体は今すぐここから離れたいような反応をしている」
本能で体がここに居ることを拒否しているような感覚もあるのだ。そんな中で冷静にこの場所にいる自分を俯瞰から見てもおかしいと自分でも思ってしまう。
「・・・・・なにが起ったとしても大丈夫だろ・・・」
口にしながらも本当に大丈夫かと首を傾げたくなった。だが最早言葉にしてしまった物だ。ならばその言葉には責任を持たなければという考えに到る。
『これより召喚の儀を行なうものとする』
そんな事で頭を動かしていると会場に大母竜の声が響いた。それによって会場は一気に静寂になった。誰もがその声を聞き逃す物かという念を抱いているからなのか本当に音が無くなってしまったのではないかと錯覚する程に。
『だがその前に皆の物に説明を入れたいと思う』
彼女の言葉に反論する物はいなかった。それを確認為ると大母竜は言葉を紡ぎ出したのだ。
『これはある者が星の意思様から承った情報によって行なうものである。私自身も偉大なる星の意思様からこの詳細を聞かされています』
星の意思は大母竜には詳細を伝えていたんだなとなんとなく思ってしまった。ならば何故自分には新たに召喚する者がいるとしか言わなかった野田折るか。そもそも大母竜に言うのだったらなぜ自分にそんな事を伝えてきたのかまったくもって謎である。
『しかしそれは私が知っているだけである。・・・そしてこの会場似る者達はそれを知る権利がある』
その言葉に各自が少し戸惑いながら頷くのだった。
『だから私の方から今回何故聖女を召喚するのかと言う事を理由を事前にこの会場にいる者達全てに伝えて起きたいと思う』
その理由も教えてくれるというのは正直嬉しいと思った。今回集まった大母竜の子供達も聖女を召喚すると言う事は聞いているはずだが何故と王にはだれもしらない。だからそれをこれから説明為るための時間でもあるのだろう。
『今我々は悪魔種との戦いに突入している』
これは間違い無くこの会場にいる者達全員が自覚している事であろう。
『先日の殻割りの儀にて侵入し、あろう事か我が子にして貴方達の兄弟であるヴァールの体を奪っていたあの者。あれは魔王種と呼ばれる今悪魔種を全ている将の一人である』
その言葉によって会場は少しざわつく。だがそれも直ぐさま大母竜が言葉の続きを紡ぎ出したことによって収まった。
『あのような存在を倒す為に星の意思様は新たな種族を生み出した。・・・・その名前は神獣種』
大母竜はそこで一度言葉を意図的に句切った。
『あの儀にて来賓として招かれ、そしてこの城を巨人達より守ってくれた獣たちの名称です』




