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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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三十話 災厄出現

 全速力のスピードの果て、アダルは目的の猪王が活動を停止させている場所までもうすぐという所まで来ていた。彼は王都からここまでの距離は大体40キロはある。しかし彼がここまで来る事に費やした飛行時間は五分も満たない位短い物だった。それくらい全速力で飛行してきたのだ。

「もうすぐだな」

 彼は呟きながら少しだけ自身の纏ったスピードを緩めた。あまりスピードが早すぎると、その場を素通りしてしまう可能性を案じた事を配慮して、それを行う。

「着いたな。さて・・・」

 猪王が活動を停止した辺りの上空に着くと、彼はその周辺を旋回しながらまわる。その間に力のこもった瞳を地上に向け、猪王の発見に勤まる。

「どこにいやがる?」

 旋回するスピードを少し緩め、より広い範囲に目を向ける。その目はまるで得物を求める狩人のように鋭い物だった。しかしそれらしき姿は確認出来なかった。その事実に彼は自分の耳に抱け聞えるように舌打ちを鳴らす。

「少し遅かったか」

 忌々しげに呟くと、彼は地上に降り立つ為、自身に纏ったスピードを完全に殺し、翼を羽ばたかせる速度を緩める。

「っと」

 数秒もしないうちに彼は地上五メートルまで降下し、そのタイミングで翼を折りたたむ。その後は重力に任せた自由落下で地上に降り立った。

「さて、どっちの方向に行ったのか。手がかりがあれば良いんだが・・・」

 猪王がどこに向ったか分かるような手がかりがないかと探り、辺り一面を見渡す。そこは上空から眺めた様子とほぼ変わりないような荒野だった。そこでアダルは何かを思い出す。

「映像で見たとき。ここら辺は草原だったよな?」

 彼が思い出していたのはフラウドに案内された部屋で見た、崩壊した街の周辺の映像だった。その映像では崩壊した街の周辺には綺麗な草原が存在していた。猪王が通った後はさすがに踏み荒らされたような形跡があったが、その周りは芝生が残っていた。決して辺り一面の土肌が露出しているような状態ではなかったのだ。今目にしているこの状況にアダルは困惑を覚えた。

「何があったんだ?」

 不気味な物を目にしたような顔つきでそっと屈み、土に手を触れる。それはもう草などが気安く生えられるような物では無いとすぐに分かった。どういうことだ。つい先程まで自然豊かな景色だったはずが、たった数分でここまで変わることなどあり得るのか。そう考えるアダルの頭に過去にあった出来事が過ぎる。

「関わっていやがる」

 苦い顔をして彼は崩壊した町の方に目を向ける。それが彼が過去見た景色と自然と重なった。

「早々に倒す必要があるな。あいつに力を供給された猪王を。じゃないと・・・・」

 そこから先はあえて言葉にしなかった。彼は知っているのだ。発した言葉は現実になるという事を。アダルはその決意を口にすると、土から手を離して、軽く払う。そしてその手をコートのポケットの中に突っ込む。

「少し当たりを探るか」

 彼はそっと瞼を閉じて足を進め出す。彼は自身の鋭い感覚を頼りにして猪王の意場所を割り出そうと試しているのだ。

「・・・・・・・・」

 何物にもつまずかないその姿は、目を開けているときと何ら変わらないように見える。しかしその姿をよく観察してみると、彼は少しだけ腰の重心を下げていた。彼は何かが襲ってきた時すぐに回避が出来るような体勢を保ちながら歩いているのだ。

「・・・・。どういうことだ?」

 しばらくしてアダルの足は止まった。彼は困惑したような声を上げ、瞼を開ける。

「周辺三十キロに猪王の気配が全く感じない」

 悔しげに口にするアダルは首を傾げる。彼は歩きながら自身の感覚で半径三十キロ周辺の全ての気配を探っていた。しかしそれでも猪王の物と思われる気配を全く感じなかった。この場合考えられる可能性は二つ。猪王が猛スピードでどこかに逃亡を図ったか。それとも

「猪王が猛スピードで進軍をしているか」

 アダルの中で前者は完全に否定をした。猪王には現在天敵と言える存在がいないのだ。逃亡を図る意味が無い。だが、後者とも言いがたい。少なくともアダル飛行してここまでに来る間もそれらしき気配は感じられなかった。

「どこにいやがる」

 彼はまた瞼を閉じ気配を探る。今度はより正確に気配を計るため、その場から微動もしなかった。

「半径六十キロで猪王らしき気配は無しか」

 少し落胆したような声音で呟き、彼は溜息を吐く。これで後者の意見も消える。しかし彼の中で何かが引っかかる感覚があった。その感覚が気になり胸をそっと撫でる。

「何が引っかかるんだ?」

 彼自身その違和感に気付き顔を顰める。ふと彼はフラウドの部下が言っていたことを思い出す。何の前触れもなく、猪王はここに現われたということを。

「そういうことか」

 その引っかかりが取れると同時に彼は焦る様に言葉を吐き捨てる。

「奴は転移能力も持っているかも知れない。それが本当だとすると不味い!」

 慌てて翼を広げようとするアダル。するといきなり地面が揺れ始める。そのことにすぐに怪訝に顔を顰める。

「地震か?」

 その言葉を呟くと、徐々にその揺れは大きくなっていく。やはり地震なのかと思い、再び翼を広げようとする。しかし、それを自主的に中止する。

「こんな非常時に起きるかよ。タイミング悪すぎだろ」

 そもそもこの半島はプレートの境目にあるわけでは無いから地震自体少ない土地だ。それでも起きないというわけではないのだが、それにしてもタイミングが良すぎる気がする。何故今日に限ってと思い、アダルは揺れの続く中、大地に目をやる。すると自身の真下に亀裂が入っていることを確認為る。その亀裂は徐々に大きくなり、少しずつ隆起を始める。それを目にして何かが可笑しいと頭が警鐘を鳴らす。

「んっ? どういうことだ。猪王の気配がするぞ」

 感覚も猪王の存在を確認する。その気配は徐々に此方に近づいてきているのは分かる。しかし目に見える場所ではそれを確認出来なかった。

「おいおい!」

 そこでアダルは悟った。猪王を少し侮っていたと言うことを。彼は直ぐさま翼を広げ、その場を飛び立つ。地上から五メートル程離れたところまで上昇して、隆起している亀裂に目をやる。それは揺れと共により隆起する早さが増していることが分かる。彼はそれを見届けると彼はより高い場所を目指して上昇を始める。それと同じタイミングで隆起していた大地から鋭い牙が突き出て、上昇途中のアダルに襲いかかる。襲いかかる牙を彼は難なく避け、スピードを上げる。地上から五十メートル離れた所まで来てそれを止め眼下を見下ろすと、鋭利な二本の牙を筆頭に巨大な何かが地中から音を立てながら出現する。まず最初に豚のような黒い鼻が出現し、その次に真っ赤な目が此方を見据えた。顔を左右に動かしながら徐々にその全貌が明らかになっていく。

「どこにいるかと思ったら。地中で待ち伏せしてやがったな。あいつの入れ慈恵か?」

 忌々しげに言葉を吐き捨て、憎らしい目を眼下に向ける。

「ギュウオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」

 地中から巨体を起こすと、何かは半径獣キロには届くであろう方向をその場に響かせる。

「今の地震。登場演出が凝ってたぞ、猪王!」

 眼下に広がる漆黒の塊。全長四十メートル近くあるその生物に、アダルは自分にだけ聞えるような言葉で呟く。彼はその目でみて、分かった事がある。猪王は現在力に溺れ理性を失っているという事。そしてそれによって強大な力を振り回せるということを。そのことを思い出すアダルは冷静に猪王を見据え、戦闘の準備を始めるのだった。

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