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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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七十七話 痛みによる目覚め

「・・・・・・ここは・・・・」

 見覚えのある天井。大樹城の中にあるヴィリスの館でアダルに宛がわれた部屋だというのがすぐに理解出来た。

「・・・・ここに帰ってきたって事か・・・・・」

 其れを理解しただけでなんとなく状況が見えてきた。

「・・・・・彼女には感謝しないとな・・・」

 ヴィリスの事を思い浮べた次の瞬間。体中に痛み走る。

「うっ!」

 思わず苦悶の声を上げてしまうくらいの激痛だ。だが本来は泣き叫ぶくらいノイタミナのであるが、如何せん彼の戦い方は痛みに耐性が付く。そのため彼はそれくらいのリアクションをした。

「・・・ははっ! さすがに無理しすぎたか・・・・」

 全身の痛み加えて、虚脱感。そして其れに伴って頭が全然働かない。・・・・・いや、正確には働いてはいる。だがい脳内がずっと働いている感じがあり、其れによって疲労感と思考が纏まらないのだ。だがそれでも分かっているのは自分が無茶をしすぎたということ。

「・・・・・さすがにキツいな・・・・」

 こんなことならもっと星の意思のところにいるんだったとすら思えてきた。痛みによって体は動かず。おそらく高熱のため頭はまともに働かない。そして時間の経過が異様なほど遅いのだろう。それだけで苦悶の時間が長引くことに思わずため息が付く。

「・・・・仕方が無いよな・・・・」

 幾ら嘆いたところで現実は待ってはくれない。だから彼は諦めてこの現実を受け止めるしかない。其れもこれも無茶をした自分が悪いのだから。

「・・・・どうしようか・・・・」

 暇つぶしなど出来ない。・・・・いや、出来る状態にはない。頭のナカはぐちゃぐちゃだし、時間の経過が遅いことがストレスで敷かないのだから。だから本を読みと言う事も出来ない。そもそも体が痛いため動くことすらままならない。嫌になるほか内。こんな状態出来る事など一つしか無いと言っていいだろう。

「・・・・もう一回寝るか・・・」

 体の調子が悪いときは寝るに限る。だがここである懸念が生れてきた。

「・・・・俺は寝れるのか?」

 全身が痛みで蝕まれたこの状況。睡眠をするには一度その痛みを取り除く必要があるのだが。果たして其れは自分には可能なのか。

「・・・・問題無いな・・・」

 確信して呟くうぃ彼は瞼を閉じる。行をするため尾全身が痛む。だがこの程度は耐えられる。耐えてしまうのがアダルだ。だからもうすぐ寝られそうなところまで維持期が深く沈んでいく。

 そんな時。小さくではあるが、扉が開く音がこの部屋に響いた。

「・・・・・あっ」

 入ってきたヴィリスは驚いて思わず声を上げる。

「・・・・・天梨」

「・・・・明鳥くん・・・」

 彼からの声を耳にしてヴィリスは思わず泣きそうな表情になる。

「・・・・・心配したんだよ・・・」

 涙を流しながらも感情を荒げない彼女所は涙を拭きながら近付いてくる。

「・・・・悪かったな。・・・心配掛けてしまって・・・」

「本当だよ。・・・・・・悪いと思ったら今後は加減してね」

 ヴィリスからのお願い。其れにたいしいてアダルはすぐに返答することが出来なかった。

「・・・・明鳥くん?」

「・・・・・そうだな。これからは自分を大切にしながら戦わないとな・・・」

 折角生き返らせて貰った命だ。其れまで無駄にするのは何かが違う。そう感じてしまうのだ。

「・・・・天梨。・・・俺はどのくらい眠ってた?」

 ふと気になったのは自分がどのくらい目を覚まさなかったのかと言う事。

「二週間。・・・・・・・・二週間だよ」

 その単語を呟くと彼女の目からは再び涙があふれ出してきた。

「・・・・このまま目を覚まさないんじゃないかって・・・・・本当にそう想っちゃったんだから」

 どんなに拭き取ってもあふれ出した涙は床にぽたぽた落ちていった。

「・・・・・本当に心配を掛けて。・・・・・悪かった」

「・・・ううん。・・・・目覚めてくれたからもうそれでいいよ」

 本当に彼女は人格が出来ているんだと言う事を思わされる。

「・・・・・星の意思とあってきた」

「・・・また? ・・・今度は何で?」

 そこで思い出した様にアダルはその話題を出す。ヴィリスの方も今の言葉で涙を流すのを止めた。其れの単語だけで重要な話題だというのが分かって、無い手なんていられなくなったのである。

「・・・・俺を生き返られるから呼んだらしい。その際についでに強化もしてくれたようだ」

 そのタイミングで彼は起き上がる。その際に痛みが走ったが、なんとか耐える。

「・・・・星の意思から聞いたが。・・・・・魔王種は想定よりも強いらしいな」

「・・・・確かに脅威だよね。・・・・・あの二人だけでも世界を滅ぼせそう」

 彼女が確認出来たのはメアリの方の能力だけ。だがそれでも相当厄介だと思ってしまう。

「・・・・お前の方は大丈夫なのか? ・・・・魔王種と戦ったんだ。・・・・どこか怪我でもしたんじゃ・・・」

「・・・・今回は運がよかったよ。・・・・・相性が合っていたんだと思う。・・・・そのお陰で上手く立ち回ることが出来たから大丈夫だよ」

 アダルの問い掛けに対してヴィリスは首を振って答えた。

「・・・・そうか。其れはよかったよ」

 そこで安心したように息を吐く。

「・・・・心配してくれたんだ・・・」

「其れはするだろう。・・・相手は魔王種なんだから。・・・・・対峙するなら命の危険があるんだからな」

 その言葉は重い。現にアダルは命の危険に曝されている。今なお回復しきらないその体が其れを証明しているのだ。

「・・・・再生能力のある明鳥くんでもまだ回復し切れていないから。・・・・・説得力が違うね・・・」

 目の前のアダルの体が其れを物語っている。全身の至る所に刻まれた深い傷。そのどれもが致命傷になり得る。だが彼ならばすぐに治るはずの傷。だがそれらは回復が遅い。それくらいアダルの体が弱り切っていることの証拠でもあった。

「・・・・少し休めば治る傷だ。・・・・・そう思い詰めなくても良いぞ」

そう諭すが、彼女はおもむろに彼の胸に刻まれた傷にそっと触れる。

「っ!」

「・・・・そうやってやせ我慢し・・・」

 彼女は悲しそうに微笑んだ。

「・・・・いまはゆっくり休んで。・・・・それしか出来ないだろうからさ」

 そういうとゆっくりと方を掴まれ、優しくベットへと押しつけられた。

「・・・・・正直言って。こっちに生れてきてから初めての苦痛だ」

 今まで瞬間的な痛みには慣れてきた。だが体質上すぐに痛みは治まってしまう。だから断続的な痛みと言うものをこの世界に来てから初めて体験することでもあった。

「・・・・大丈夫なの?」

「・・・・大丈夫にするしかない。・・・幸い慣れてきたからな」

 起きたときよりも体感的には慣れてきている。麻痺しているとも言えるだろう。

「こればっかりは耐えるしかないからな・・・」

 他に対処法など鎮痛剤を飲むくらいか。安全に処方されたものがこの世界にあるのかどうかは分からないが。

「・・・・薬はあるけどね・・・」

「・・・今は良いよ。必要になったら使わせて貰う」

 麻薬の効能を使って痛みを和らげる事は出来る。だが今は使うほどではないと判断できた。

「・・・・・頭のナカがぐちゃぐちゃだ。・・・・・もう一回眠らせて貰うよ」

「・・・うん。そうして。・・・・その方が無茶しないから安心できるからさ」

 ヴィリスのその言葉を耳にしたタイミングでアダルは瞳を閉じて意識を手放した。


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