七十六話 白い空間へ
『・・・・・ここは・・・』
気が付くと何度か見たことがある白い空間にいた。
『まったく。君は使うなって言っておきながら性懲りも無くまた使ったね・・・』
呆れた声と共に正面から発光した存在が現れる。
『・・・・星の意思』
『そうだよ。馬鹿野郎が・・・』
ため息を吐かれた後、その存在から額にデコピンを受けた。そこで自分が何故ここに居るのかの経緯を思い出す。
『・・・・俺は死んだのか・・・・』
自分の体を粒子化して分身にエネルギーを送り、その二体がそれぞれの魔王種に光神兵器を使用した。光神兵器を使うこと自体が命を削る行為だというのに二回分も使ったのだ。それだけで相当消耗してもおかしくはない。その上で放った光神兵器も聞きはしたが倒すまでには行かなかった。その事実を目にした瞬間で意識が途切れたのだ。
『そうだよ。・・・・・・全く君も懲りないね』
呆れた様子で軽く手を空に振る。すると映像が展開された。
『・・・ほら。君が無茶するから彼女泣いているじゃん・・・』
『・・・天梨』
映っている映像にはベットで寝ているアダルの横で涙を流しているヴィリスの姿であった。それを見てしまい、思わず彼は前世の名前を呟いてしまう。
『時間稼ぎをするのは良いけどさ。もう少し方法はあったでしょ。・・・・・命を無駄にするなんてナンセンスだよ』
呆れながらも割と起っている様子で言ってくる星の意思の言葉に明鳥も思わず反省してしまう。
『・・・・・たしかに。・・・・・・命がけで戦うのと命を投げ出すのは違うよな・・・・』
『そうだよ。・・・・全く。蘇生だってただじゃないんだから。・・・・・それなりの面倒が存在するからあんまりしたくはないんだよ』
本気で怒っているようで最後の方は声を荒げていた。そう言いながらも彼の存在は黙々と手を動かしている。すると彼の前にアダルとしての体のモデリングが出現した。
『・・・・生き返らせてもらえるのか・・・・』
驚きながら星の意思の方に顔を向けると舌打ちを鳴らしながらも頷いてくれた。
『本当はしたくないけどさ。・・・・・魔王種と対抗するには手数を減らすわけにはいかないからね。・・・・・折角だから強くもしてあげるよ』
『・・・・そんな事まで。・・・良いのか?』
『いいよ』
手を動かし、モデリングを操作していきながらもその問い掛けに答えてくれた。
『戦ってみて分かったでしょ。今のままでは単独では魔王種とは戦えないってさ』
言われたことに明鳥は頷く。
『こっちは連携を想定して君たちの体を作っていたからさ。・・・・・だけど其れも上手くいっていない。それはわかるよね』
責められるような口調で言いまくられ、最早頷くしかない。
『だから復活したら君にはやって貰いたいことがある』
『・・・・それは?』
『神獣種を集めること』
そうだろうなとは思ってしまった。
『今のままじゃこっちは勝てないからさ。・・・・・全魔皇帝の目的を阻止するためには。魔王種の進撃を防ぐためにはそれくらいしないと行けない』
・・・・どこか苦しそうな声を出しながらも彼の存在はそう口に出していた。
『・・・・大丈夫なのか?』
『・・・・・そう見えのかい?』
問い返されると明鳥は首を振る。
『・・・・・僕はこの世界その者だからね。・・・・正直痛いよ。・・・・・悪魔種によって体内を傷つけられているみたいなものだ。・・・・・・その痛みがどれほど辛いのか。・・・・・君には想像出来るかな?』
難しい質問だと思った。何せ明鳥にはそのような経験があったのか分からないからだ。記憶を思い出してみても戦い以外ではそんな事は無かった。前世でもそのような事は無く。・・・・そもそも風邪すら引いたこともない子供だったから分からないのが正直な話しである。
『体内で生み出してしまった異常な細胞によって苦しめられる病気。っていったら分かるかな?』
『・・・・ガン?』
「そう。ガンであったり、白血病であったり。まあ、そんなところかな。それに僕が蝕まれているっていった所かな。・・・・今の僕の状況は」
『・・・・それは・・・』
あまりにも大変な状況なのではないかとすら思える。・いや、実際問題大変なのだ。
『・・・・・死ぬこともあると? ・・・あんたが・・』
『あり得るね』
其れは必死になって悪魔種をどうにかしたいと思うだろう。
『・・・・・だからこうやって君たちを造った。・・・・君たちはいわば免疫なんだよ』
だからしっかりしてねと言いたげに流し目で彼の方に向いた。
『・・・・・・結構上手くやっている方だとは思うが?』
『・・・・・そうだね。・・・・君は上手くやっているよ。・・・・・・やり過ぎな時があるけどね・・・』
ため息を吐かれてしまう。彼としてもやり過ぎたとは思うときがあるから否定出来ない。
『・・・・・だけどこれからはもっと上手くやって欲しいかな。・・・・あっち側も肉体を手に入れてしまったからさ。・・・・これまでとは侵略する頻度が桁違いに多くなると思うよ。・・・・そして魔王種と闘う事も格段に。・・・・だからこそ集めて欲しい。神獣種を集めて対抗して欲しいんだよね」
無茶ぶりを言われていると言う意識がある。とても難しい事でもある。だが生み出されたからにはやらなければならないのであろう。そうでなければ星の意思だけではなく、他の種族にまで害が及ぶからだ。
『・・・・・善処するよ』
だからこれしか返せなかった。無責任なことは言えない。彼に出来る事はその場その場で最善を尽くすだけ。
『・・・・まあ、其れしか言えないよね』
『・・・・分かっているなら嫌な返しをしないでくれよ・・・』
明鳥の方は見透かされた言葉を浴びせられてため息をする。
『・・・・・頑張りますよ。・・・・今も蘇生されているからな。それなりの恩もあるし』
『頑張ってくれたまえ。・・・・・と言ってもね。さすがに無茶を言っている自覚はあるからさ』
なんやかんやで優しいところも出始めてしまい、彼の存在も苦笑い気味の声を上げた。
『・・・・だからさ。異世界から増員を補充しようかとも思って居るんだ』
『・・・・はっ?』
内容をすぐに理解した明鳥は一気に混乱する。
『・・・・俺達に見切りをつけたのか?』
『そうじゃないよ』
黙々と作業続けながら彼の存在は続きを口に出す。
『見切りをつけたんだったらその瞬間に君たちを消すことも出来るんだ。・・・・だけどしていない。・・・・それどころか今君の蘇生に強化まで施しているんだ。そこは信用して欲しいかな』
少し含みのある言い方からして何かを画策しているのは間違い無い。だが其れとしても彼の存在の言葉からは嘘などは感じれない。
『・・・・・信じて良いのか?』
『さっきも言ったでしょ。君たちが消えていないから信じて欲しいな』
少しへらへらしていることから疑わしいところはあるが今は信じるしかない。
『・・・・・。今回の増員で君たちに与えた役割を奪うつもりはないんだよ。・・・・ただほかにやることが出来たからさ。そのために呼ぶことにしたんだ』
神獣種の役割は魔王種の討伐と悪魔種の復活を阻止すること。それ以外の役割を持った人物が新たに召喚される。いささか疑問が残るというのが明鳥の感想だ。
『・・・・その役割っていうのは?』
『それは僕が呼んだ人物から聞くと良いよ。・・・・というか今は話せる事が出来ないって状態かな』
彼の存在はどこか焦っている様な口ぶりである。それは明鳥に図星をつかれたからではない。単純に忙しさから来るものだ。それは声の出し方で察することが出来た。
『見て分かると思うけどさ。いますごく忙しいんだよね』




