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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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七十話 消える街

 ハティスが時を止め、アダルの救出に成功した。今は魔王種の目の届かないであろう路地裏でアダルを寝かせている。

「アダルくん。アダルくん! 起きてよ!」

 ヴィリスの問い掛けに答えない。答えられない。ここまでボロボロなのがその理由を語っていた。再生能力が機能していなかった。最早人化する力も残ってはいない。辛うじて心臓は動いている。生きも微かにしている。だが時期にその命が消えようとしているのが現実である。

「・・・・・すごい生命力ですね」

「・・・そうだね。そしてやっぱり馬鹿だよ」

 この様な状態になってまで時間を稼いでくれた事への感謝は勿論ある。だが、それよりもヴィリスにしては珍しく、彼への罵倒が口から出た。

「なんでいつもぼろぼろになってまでやるのかな。そんな事しなくても良いのに。なんでそこまでやってしまうかな。本当に。・・・・本当に。・・・・・アダルくんは馬鹿だよ」

 言葉にしながらその目からは涙が溢れていく。

「・・・・・ですが彼がいなかったら時間稼ぎも出来なかったことは事実です。・・・・・ですから今は労いましょう。・・・そして次に起きたときは精一杯文句を言ってください」

 このままではアダルの体に当るかも知れないと考えてこの提案をした。

「・・・・・うんそうだね・・・・」

 ハティスの意見に同視すると彼女は涙を吹き払って、笑みを浮かべた。

「お帰り。・・・・・そしてお疲れ様。・・・・後は私達に任せてね」

 返答はされなかった。だがそれでもいい。アダルには今は休んで欲しいと思って居るからだ。

「真祖さん。・・・・・・後はよろしくお願いします」

 それだけ言うと立ち上がった。見計ったようにハティスが指を鳴らすと見ている景色が変わった。

『じゃあ、これから楽しいショーを始めまーす!』

 楽しげな魔王種の声が妙に癇に障った。彼らがアダルをあのようにボロボロにしたのだ。それを考えると余計に怒りがこみ上げてくる。

『行け』

 彼女の号令に従うように背後の軍隊が一斉に地上へと降りていった。これから始まるのは虐殺。それを見過ごすわけにはいかない。

「今ですよね」

「ええ。やるなら今です」

 責めるときと言うのは一番油断しているとき。その考えは結構合っていると思う。だからこのときに予想外の動きを見せるべきであろう。ハティスが拍手をすると、辺り一面が草原へと変わった。・・・・いや、辺り一面などとは可愛い表現である。この街全体が草原へと変わってしまった。もうすぐ軍隊が降り立とうとした瞬間。突如として街を消したのだ。

『・・・・・・・えっ?』

『なに!』

 突然変わった景色に魔王種二体は呆気にとられてしまう。メアリの方など、未だにっりかいが追いついていない様子だ。

『・・・・・なにが起っているの?』

 分からなすぎてエアトスに聞く。だがその彼も理解が追いついていない様子だった。だからこそ彼は必死に頭を回転させる分からないままではいられないから。そんな事をしていると突如として草原に現れた人影を発見する。今までそこには誰もいなかったはず尚に、突如として姿を現したのだ。

『・・・・・何者だ』

 冷静に問い掛けると二人は振り返る。当然ながらこの二つの人影はヴィリスとハティスであった。彼らはエアトスの問い掛けにただこう答えた。

「敵ですよ。あなたたちのね」

「・・・・・・許さないから。覚悟為ておいてよ」

 その言葉だけでエアトスは警戒した。

『ちょっと! 折角これから楽しいことをしようとしていたのに。なんで邪魔してくるのよ!』

『・・・・・馬鹿』

 あまりにも頭の悪い発言に彼は頭を抱えたくなった。

「簡単だよ。それをやらせないことが私達の使命なんだから」

『・・・・・折角面倒な相手を倒せたと思って居たのに・・・・』

 拗ねるように頬を膨らませる。そんなメアリとは違い、エアトスは警戒した様子で口にする。

『・・・・・神獣種・・・だな』

 臆測でしかない。未だ、彼らの能力も見ていない。・・・・いや、正確には見たのであろう。この眼下に広がる景色はどちらかの能力であろうとは理解出来た。それ程の力を行使できる存在など限られている。そして彼らはこういった。敵だと。そこから臆測できる種族など限られる。特定できるぐらいに。

『えっ? 嘘・・・・』

 明らかに嫌そうな表情を浮かべている。

『・・・・じゃあ、アレは綾ちゃんのお兄さんと同じ種族って事?』

『・・・・・・そうなんだろうな・・』

 彼女の表情が余計に苦そうだった。

『・・・・それで? どうだんだ?こっちの推測は・・・』

「正解ですと言っておきます」

 にこやかに微笑みハティス。だがヴィリスの方は眉を顰めた。気になる言葉が出て来たためだ。

「・・・・・綾ちゃんの・・・・兄さん?」

 当然引っかかる言葉であった。前世の記憶の中にそれに紐付く物があったから。

「・・・・たしか、二人妹がいるって言ってたっけ。一歳差の小鳥ちゃんと。・・・・・年の離れた綾鳥ちゃんって名前だったかな」

 ひとりで呟く言葉は隣にいたハティスにも聞えていない。

「・・・・・と言う事は彼女は私達よりも未来から来たって事?」

 それっぽい仮説を立てるとヴィリスはメアリに目を向ける。

『せっかく倒したって言うのに、まだ戦わなくちゃ生けない相手がいるなんて聞いてないよ』

『安心しろ。言ってないから。・・・・・おれも今さっき知ったことだ。事前に教えるなんて無理だろ』

 八つ当たり気味に聞くとエアトスの方も困っている様子であった。彼からしてみても神獣種が後二体居たとは想いもしなかったのだ。

『ったく。誰がわかるんだよ。まだ敵対出来る存在がいるなんて』

『・・・・・そうだよぉ! こっちはさっきの戦いでもうへとへと。戦う体力なんて残ってないって』

 魔王種の様子は明らかにげんなりしていた。言葉にしていたとおり、戦う気力が足りていないのであろう。それを聞いてハティスは微笑む。

「・・・・・・アダルさん。きちんと仕事をしてくれたようで」

「当たり前でしょ。アダルくんがあそこまで消耗しているんだから。遊んでいたわけじゃないのは分かるでしょ」

「それもそうですね」

 今この状況はヴィリス側からしたら結構有利な状況である。

「これを逃す手はないよね」

「・・・・・・そうですね。絶好の機会です」

 ヴィリス達の会話は魔王種側には聞えてはいない。だが雰囲気が変わったことでいやな未来を想像することは難しくはなかった。

『・・・・どうする?』

『どうするもなにもだ。戦う以外に選択肢があるとは思えないからな』

 エアトスは疲れがあるが、仕方が無いと判断して諦めた様子だ。

『それじゃあ、やるしか無いか。・・・・・・・さっきの戦いでも本気は見せなかったんだろ?』

『・・・・・・如何だったろ。まだこのからだの感覚がつかみ切れてないからさ。正直わかんないってとこ』

 正直な感想にエアとは苦笑いを浮かべるしかない。だがそれでいいのだろうと判断した。奪った肉体が馴染みきっていないと言う事はまだ成長できる余韻が残っていると言う事でもあるから。

『まあ、頑張れ。死にはしない』

 それだけ言うと眼下の二人に目を向けル。その二人は体をまさに変質させている最中であった。ハティス二足歩行の狼の姿に。そしてヴィリスは下半身が蛇の体で上半身は戦乙女の鎧を着込んだ竜の姿になっていた。大きさは魔王種に合わせて等身大の大きさであった。だがそれを見た瞬間に血の気が引いた感覚に襲われた。瞬時に理解したのだ。この二体は危険だと。


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