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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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六十九話 壊れる結界

ついに二人が活躍する時間になってしまった。それが分かったのは城の上空にあるアダルの作った結界にひびが入ったことで判明する。

「遂に出番ですか・・・・」

「・・・・アダルくん」

 ハティスはやれやれと言った様スで頭を掻き、ヴィリスは少し悲しそうに結界を作った存在の名前を呟く。その皹はやがてキューブ状の結界全体に拡がっていき、皹と皹が繋がって大きな皹になっていく。

『ああ、やっと壊れたよ。・・・・ったく頑丈に作っちゃってさ』

『黙れ。主に俺が壊したようなもんだろ。休んでいた身で文句を言うんじゃ無い』

 皹の隙間から微かに声が聞えた。それはおそらくは二人にしか聞えないものであった。次の瞬間にはキューブは粉々に砕け散り、欠片も光の粒子となって消えていった。

『ああ、疲れた。・・・・まったくてこずらせちゃってさ。この』

 女性の方の声は明らかに苛立っている。それを背後にある何かにぶつけていた。その様子に男性の方の声は呆れた様子で咎めた。

『死体を殴るのは止めろ。手こずった相手には敬意を持てよ』

『うるさいな。・・・えい!』

 女性の方の声は言う事を聞かずにもう一発拳を浴びせる。そのことについて男性の方はもう疲れた様子で息を吐くだけだった。

『だが、ようやくでれたんだ。遊んでないでさっさと自分の使命を果たしてこい』

『ええー! 疲れたよ。今日はもう良いじゃん。・・・・明日。明日ちゃんとやるからさ。今日は休ませて!』

 駄々を捏ねる。が男性の方は毅然とした態度で言葉を返す。

『真祖に正体がばれているというのにか? 暢気だな』

 それには言葉を詰まらせる。

 そんなやり取りを耳にしている時。ハティスとヴィリスはようやく話している二人の姿を拝むことが出来た。今までは散らばっていく結界の欠片によって逆行が生じてしまい、姿を見ることはなかった。だがこのタイミングになってようやくその光も緩和されていったのだ。そして二人は話していた者達の姿を拝んだ。

 一人は言われていたとおりメアリ・マグマブラッドであった。だが違うところもある。彼女の放つオーラと背後に備えている大量の兵隊が存在したのだ。それは皆が皆血の色であった為、おそらくは彼女の能力によって作り出された存在だと思われる。

 そしてもう一人の方。こっちも事前の情報にあったとおり、男性の天使である。だが違うところもあり、その背中に翼は堕天した証拠である漆黒の色に染められていた。

「あの二人が。・・・・魔王種」

 事前に聞いていた情報と合わさる容姿。そして何よりの証拠であるアダルの作った結界の中から出て来た二人。思わず呟くヴィリスの言葉にハティスは反応しない。ただ険しい表情を向けるだけであった。そんな彼であるが何かを発見した様子で目を見開く。

「ヴィリスさん。アレを見てください」

 彼が指す方に目を向けると彼女も驚いて目を開いてしまう。彼が指した物。それは先程魔王種の女性が殴っていたものである。それはなんなのか。ご想像の通り意識を失っているアダルの体であった。体の彼方此方に傷を負い、血が噴き出している。そして何よりも問題なのは彼が意識を失っていると言う事。それが何を示しているのか見えている二人には分かってしまった。

「あっ! ああ。・・・・・・あ」

 開いた口が塞がらないヴィリスは彼の無残な姿を見てしまい、自然と瞳から涙が出てしまう。そしてその感情は徐々に悲しみから怒りへと変容しつつあった。

「落ち着いてください。まだ時間ではないんです。もう少し。もう少しだけ我慢してください!」

 彼女の異常に即座に気付いたハティスは直ちに彼女を諭すように引き留める。彼の言い分は尤もであるだからこそ納得したい自分も彼女の中には存在する。だがそれ以上に怒りが彼女の中にあったのもまた事実である。

「・・・・・・そうだよね。ごめん。・・・・もう大丈夫だから・・・」

 明らかに大丈夫ではないと判断したが、彼女の圧に押されてしまい、ハティスは渋々惹いた感じであった。

「おいなんだあれは?」

「なんか空に人が立っているぞ?」

「それにさっきの光はなんだったんだ?」

 住人達もそこでようやく異変に気付いた様子であり、空にいる二人にめをむけていた。そしてある者が二人の内の一人の正体に気付いたのだった。

「おい! あれ、メアリ様じゃないか?」

「えっ?」

「本当だ。メアリ様だ」

「じゃあ、もう一人の方は誰だ?」

「さあ」

「誰なんだろうな」

「背中に翼が生えているって事は天使種か?」

「天使種がそうそう地上に降りてくるわけがないだろ」

「それもそうか」

 などといった様子で住民達は一気に騒がしくなる。だがその異常性に気付く物がようやく現れた。

「・・・・そもそもなんで空の上に立っているんだ? いくら真祖の血を引き継ぐからってそんな能力は吸血種には存在しないだろ」

 気付いた者の勇気ある一言によって周りにいた住民達もその異常性にようやく気がつき始めた。

『ああ、うるさいなぁ』

 町中から飛び交う声に、メアリは明らかにうっとしそうに耳を塞ぐ。そしておもむろに手を上げる。それを見ていた民衆達は一気に疑問符が頭を過ぎった。だが彼女の行動が何を示すのかその手を下ろされた瞬間に分かった。彼女の背後から血の矢が放たれるそれも一本や十本などではない。一気に千本近くも放たれた。

「うぎゃぁ!」

「なんだこれは!」

「メアリさま!」

「これはどういう」

「なんで!」

「いたいいたい!」

 彼方此方で矢に当った者達の悲鳴が聞える。それを聞くと愉悦に浸ったような表情を浮かべるメアリは高らかと民衆へ声を投げかける。

『聞け! 民衆達よ!』

 その声は町中に聞え、誰もがその声に耳を傾ける。聞けば彼女の強行の理由が知れるかも知れないと思ったからだ。

『これよりこの国はこの私。メアリ・マグマブラッドが統治する! そしてここに宣言しよう! 我ら吸血種はこれより絶滅する!』

 聞いた誰もがその発言の意味を理解出来なかった。そしてそれはヴィリスとハティスも同じであった。

『これより私はこの国を囲む火山の全てを噴火させるんだけどさ。お前達にはここに流れ混む溶岩に呑み込まれ。或いは生じたガスによって死んで欲しいんだよね』

 全く意味の分からない提案に誰もが黙り混む。それが分かっていても彼女は止まらない。何せ彼女には全く罪悪感などないのだから。

『そしてその魂を全て私が全魔皇帝へと捧げる。全く役に立たないお前達は偉大なる皇帝陛下の復活のために贄になる事が出来る。良いことずくめだね』

 圧倒的に民衆の意思などは無視。彼女の行なっている事は暴虐の一言である。勿論それに従いたい者などはいなく。

「巫山戯るな!」

「いくら王女様だって言っていいことと悪いことがあるだろ!」

「こんなことは認められない!」

「そんな命令従えるか!」

 反発の声が勿論各所で上がる。だがそれを鬱陶しそうな表情を浮かべつつ、再び彼女は手を上げる。それを見た民衆達は思わず黙らずにはいられなかった。先程の惨状があるからだ。

『選ばせてあげよう。今苦しんで死ぬか。この後楽しく死ぬか。貴方達はどちらを選ぶかな?』

「どちらもお断り致したいところです!」

 突如として魔王種の前に二つの人影が出現する。その正体はハティスとヴィリス。ハティス魔王種の前に出るやいなや指を鳴らす。何をするのか警戒したメアリとエアトスは瞬時に二人に攻撃するが、すぐにその姿を消した。

『なんだったんだろう。今の』

『・・・・・・後ろを見てみろ。それで分かる』

 エアトスの指示通りに後ろを向くと軽く驚く。

『あれ? 無いや』

『持って行かれたな』


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