六十五話 キシュラ一派
アダルとシュラヒメは血だまりではない場所へ着地する。
「申し訳ありません。主人様。不甲斐ない結果になってしまいました・・・」
彼女が最初にしたことは片膝を突いて頭を下げる謝罪の行為。だが其れは仕方が無い事だとアダルは判断できる。何せ彼女はこの世界の住人である。そのためメアリが作り出した兵隊の持つ武器のことなど分かっていないのだから。
「・・・・気にするな。まだ戦いは終わってない。反省は終わってからでも出来るだろ」
「畏まりました・・・」
立ち上がると同時にシュラヒメはアダルから一歩引いた。アダルはアダルでメアリに目を向けている。
「・・・・・・反則過ぎるだろ。前世の武器の再現は」
その主張に矛盾があるのはアダルとて感じている。当然ながら半笑いな感じで返答が返ってくる。
『貴方がそれを言うか。チート使って居るのはそっちも一緒でしょ。文句を言われるいわれはありません』
言い終わると指を鳴らす。そして再び、血だまりから大量の兵隊が出現してくる。其れも今度は一種類ではなく、いろいろな重火器を持って。
「・・・・随分といろんな重火器を知っているんだな」
アサルトライフルは勿論のことマシンガンとサブマシンガン。果てにはロケットランチャーまで持っている個体も存在していた。
「・・・・・吸血種の王族の体を狙ったのはこれをしたかったからか・・・」
『・・・・・そう。折角の前世の記憶。使わなきゃもったいないでしょ。それにこっちの世界ではどうしようも出来ないみたいだしね・・・』
悪びれもしないメアリの目にはアダルの後ろにいるシュラヒメが映っていた。
「・・・・ああいう武装だ。原理は理解出来なくていい。ただ其れを対処して欲しい」
アダルとしても無茶ぶりを言っているのは重々承知。何せ向こうには弾切れはないというのが予想出来る。無限に浴びせられる銃弾の雨。其れを対処して欲しいなど無茶ではなく無理であろう。
「・・・・・難しい事を仰いますね、主人様。・・・・・ではあの方を倒す方が早いと思いますが・・・・」
「ああ、そのつまりだ。・・・だが向こうはこういう風に増援を呼べちまう。だから俺とあいつの戦いを邪魔しないようにしたい。そのためにお前を呼んだんだ」
其れが出来る個体として彼女を呼んだ。しかしアダルの判断は間違いではないとおもっている。まさかこの様な大軍と接するとは思わなかったが、それでも彼女にはこれらと対抗出来ると信じて疑わない。
「・・・・・・その期待。答えて見せましょう」
曖昧な笑みを見せながらも彼女は断言した。シュラヒメもアダルが要求していくル事が無茶ぶりだと言う事はしかりと理解している。だが、無理なことではないと判断して返答した。
「手段はどのようにしても?」
「構わない。自由にやれ。ここは結界の中だからな」
「承知いたしました」
アダルの一歩前に出ると彼女は音を響かせる拍手を三回する。
「おいでませおいでませ。我に従う百鬼の魑魅よ」
突如発せられる呪詞。其れによって彼女の背後の空間が歪んだ。
「おいでませおいでませ。我に命を預けた百鬼の魍魎よ」
続く呪詞によってその歪みが増えていく。一つだった物が十に。十だったものが百に増えていった。
「命知らずの勇なる者どもよ。キシュラ一派総頭領が命ずる」
彼女の角と髪。そして瞳がアダルの翼と同じように虹色の輝きを放つ。
「これより百鬼夜行を敢行し、目の前の命亡き者共を屠りたもれ」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
歪みから雄叫びが響き、其れに続いてそこから明らかな異形の者達が姿を現した。人型の者もいれば獣のように四つ足であるくもの。果ては一本足の者もいる。その姿はまるで妖怪のようであった。
「相変わらず凄いな。こいつらは・・・・」
いつの間にか空に上がって、眼下の光景に目をやる。異形の軍勢。それらは迷い無く血だまりの中に入っていき、兵隊達と交戦に入っていく。武器の差は歴然で向こうの方が最新のものを使っており、その弾丸の雨に曝される事になる。だが彼らには何故か弾丸が当らない。まるで透明の存在のように通り過ぎていくのだ。それはほとんどの個体に見られた。
『なんじゃあれ!』
そしてシュラヒメの呼び出した軍勢の勢いに危機を感じてアダルと同じ高度にまで批難してきた。
「キシュラ一派。この大陸中で盗賊行為をしてきた連中だ。過去には一国と戦争に到ったそうだが、それでも負けなかったらしいな」
淡々と目下の軍勢鋸とを説明するとメアリの鋭い視線が飛んできた。
『あなた。なんでこんな連中を従えているのよ。・・・・っていうかあの鬼はなんなのよ!』
指されたのは当然ながらシュラヒメ。
「・・・・あの軍勢は別に従えていないさ。従えているのはキシュラ一派の上層部だけ。あいつはその中で一派を率いる総頭領だよ」
アダルは現代に到る百五十年ほど洞窟潜んでいた。そしてその洞窟の中には沢山の財宝があった。その理由は正しく彼が彼女を率いている事にあった。
いきさつは簡単である。かつて大陸中に猛威を振っていたキシュラ一派。アダルはその本拠地に乗り込んで上層部の連中を殺していった。さすがの彼らもアダル相手では手も足も出なかった。そして死体を粒子化して取り込み、眷属として新たに命を吹き込んだのだ。その剣があってシュラヒメからは主人と呼ばれている。その後どこかに隠れると言うときに案内されたのがあの財宝が眠っている洞窟であった。正直困ったものの、あの大きさに慣れることが魅力的で結局はそこに決めた。一派側もアダルがそこ似てくれた方が良いという判断もあったのだろう。あの場所は凶悪な魔物達が住まう森である。だがそんな場所に来る命知らずのものは少なからず存在している。其れがかつて大陸中を脅かした大盗賊団の財宝が狙っていると言う事が分かれば其れを狙う命知らずも多くなるもの。だからこそシュラヒメはアダルをそこに案内した。敬っているとは思えない様な行為。利用しているとしか思えないことだが、一度命を奪った相手。そのくらいの嫌がらせはしたかったのだ。閉じこもるのならば財宝を守って欲しい。別にアダルも文句を言うわけも無く、そこに住みだした。
その後上層部たちが軒並みアダルの眷属になった為、一切の盗賊行為がなくなっていった。勿論下部の組織の者達は離反していく者もいたが、去る者は追わず。とは行かない。被害が出るため眷属にした上層部の者達が制圧していった。
「お前の兵隊どもの相手をしているのは総頭領が呼び出した盗賊達だよ」
そこまで説明してもメアリの視線は刺さり続ける。
『・・・・・どこの世界に怪異種の盗賊がいるって言うんだよ』
「あそこにいるだろ? 知らなかったのはお前の勉強不足だ」
明らかにメアリの知識は不足している。魔王種の情報収集能力はとにかく高いはずである。であるならばキシュラ一派の構成員のほとんどが怪異種であるという情報は向こうには渡っているはず。だと言うのにメアリはその情報を有していない。必要無いと思って頭の中に入れていなかったのだろう。その結果彼女の裏を取ることに成功したから正直言って感謝である。
『・・・・クソクソ! もっと勉強しておけば良かったよ!』
目下に拡がるのは彼女の兵隊共が徐々に数を減らしている光景。今はまだ攻勢に出ている。だが正直言ってあの血だまりがある限り、このまま行けばジリ貧になるのは此方であるのは明白であった。




