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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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六十三話 メアリの仕返し

メアリの口を割らせることに失敗したアダルは次の一手を考える。彼女の目の力こそ知りたいが、成り立ちは想定できる。魔王種の成り立ちを考えれば彼女が魔王眼を持っていても別段不思議でも何でも無いのだから。能力もこの先戦っていれば分かることである。悪まで想定だが、直視するだけで死ぬとか、幻術を見せるとかではないはずである。理由としては魔王眼が発現した状態で何度も目が合ってしまっているから。魔眼の恐ろしいことは目が合ったらアウトなところ。迂闊ではあるが、その目が魔王眼なのかという事を確認為るために何度かその目とあってしまっている。だが今の所そう言う体の変化はない。だからこそそう言う能力ではないと言えるだろう。そもそもの話しだが魔王眼かどうかって言う話しはもう完結した。なにせブラフで言った事に彼女は簡単に答えてしまったのだから。出会って数刻しか経たないが、メアリはとっても口が軽い。其れは魔王種の性格がそうなのだろうと思う。

「さて。・・・・・・如何する?」

 煽るような口ぶりを為るアダル。明らかに挑発している。それは彼女の反応を待っているのだ。

『如何するって? 何が』

「この後は何をするつもりだ?」

 あえて詳細は言わない。広く纏めて問うてみる。其れで彼女がどう解釈するのか試しているのだ。アダルを殺す為の行動に出るのか。或いはその他のことを為るのか。アダルはどっちでも良かった。どちらでも良いのだ。時間稼ぎを悟らせなければ良いのだから。そしてあわよくばを期待していたりする。何故この国に来たのかと言う事を。

『・・・・うざったいなぁ! 時間が無いって言うのにさ!』

 彼女の足元の血だまりが拡大していく。其れは彼女の囲うように半径五十メートルまで拡がる。

『其れをされると困るんだよな!』

 一応はアダルの支配領域の結界である。その中で自由に自分の権能を使う事を許すほどアダルの器は大きくはなかった。だからこそ一端飛んで広げた右手を上に掲げた。その中では光球が出来る。だが今度の其れは徐々に大きくなっていき、アダルを簡単に呑み込んでしまう大きさも超えて、彼女の展開する血だまりと同じくらいになるまで肥大化していった。そこまで来ると最早目を閉じたくなるほどの輝きを放っている。だがメアリはその魔王眼は決して閉じられることはなかった。

『そんなんありかよ』

「普通はしない。だがここは俺の結界だ。何をしようと俺の勝手」

 最早周りは光に負けて色を失っている。見えるのは彼女の陰のみ。

『・・・・そう。ならこっちも勝手にやるね』

 口角を上げるその表情は笑って見える。だがその笑みは明らかに凶悪なものであった。

「させねえよ!」

 その笑みに恐怖を感じてしまったアダルはすぐに行動した。その巨大な光球を彼女目がけて投げたのだ。その光景は太陽を投げたのかと思わせる。それは誰がどう見てもメアリに当ると思われる。

『・・・・・今。恐怖に負けたね』

 しかしそうはならなかった。足下の大きな血だまりから其れを阻む物が現れたためである。何が阻んでいるのか。光球越しだが、その圧倒的優れた視力は捉えていた。

「お前の力は俺に似ている。だからもしかしたら出来るかも知れないと思っていたがな・・・」

 思わず笑いたくなった。彼女が出したのは巨大な腕。そして腕があると言う事は手も存在していた。血液だけで形成為れた手が巨大光球の行く手を阻んでいた。

『お手本を見せて貰ったからさ。・・・・お返ししないと』

 お返しする。その言葉通り、その巨大な手。そして腕によって光球は投げ返される。勿論アダルはすぐにその光球を掌握し、受け止めた。しかし彼女のお返しはどうもそれだけではなかったようだった。光球の中から無数の血の棘は飛んできて、アダルの体をかすめていった。

「さっきのお返しまでくれるなんて。優しい奴だ」

『そう? 今までいろいろと教えてくれたからこれくらいやらないと失礼でしょ?』

 皮肉に対して同じ皮肉が返ってきた。かすめたところはすぐに治っていく。これくらいの傷なんてどうとでもないのだ。

『・・・・もう時間が無いからそろそろ本気でいくかぁ』

 魔王眼が怪しく光る。其れに同調為るように巨大な手が血だまりを叩いた。飛沫が上がると同時にもう一本腕が出現し、其れも同じように血だまりに手のひらを置く。そして腕が曲り、筋肉のような物が隆起すると園生で当での間から巨大な頭が出現した。いや、出て来たのは頭だけではなく胴体も出会った。髪の長い女の巨人。巨人種と同じくらいの大きさであろう事はすぐに分かった。

「・・・・まあ、出来るだろうな・・」

 そのくらいの認識である。何せ今までみたメアリの戦い方は血液で出来た体の獣を出すという召喚術に近いものであった。正確には召喚術ではなく生物錬成と言った方が良いのだろう。其れが出来るのだから巨人くらいは出せて当然である。だから全く驚く事なんて無かったのだ。

『・・・どうだ。きみも手こずった巨人だ』

 勝ち誇るように口角が上がる。アダルと残念なことに彼女も情報をきちんと頭に入れているようであった。

「知っていたか。・・・まあ、そうだよな」

 だが其れは当たり前の事である。其れをやらなかったら愚か者や馬鹿だと思われてしまう。

『この巨人には最初にきみが遭遇した巨人と同じ様な施しがされている。・・・・だからもう光線技は効かないよ』

「・・・・・・・ああ、そう」

 したり顔をするメアリに対してアダルは淡泊な返しだった。そこには彼女の期待した反応は返ってこなかった。

『・・・なにそのつまんない反応は』

 あまりの淡泊な反応。それが疑問だった。何故彼は焦っていないのか。過去に自分を苦しめた相手と同じ性能を持つ敵を作ったのだ。焦らないまでも他Y層は嫌がるはずである。だがそれに対して彼は無反応に近い物だった。其れが不思議でならない。

「・・・いや。別にそんな事は無い。確かに数週間前に遭遇した巨人と同じ性能の奴を作り出したんなら面倒だなとは思った。・・・・だが其れに対してどう対処するのか。お前は明確な答えを教えてくれたからな。その迂闊さが作戦なのかどうかって言うのを考えてしまって、反応が遅れてしまった」

 淡々と事実を口にしていく。それに対してメアリは思わず首を傾げた。

『其れってどういう意味?』

「その反応。・・・・・本気で分かってないみたいだな・・・」

 飽きたといいたげに肩を竦める。

「お前はな。今俺に教えてくれたんだよ。戦いたくない相手。それに対して如何すれば良いの勝手な」

 アダルは再び巨大な光球を投げた。しかし今度はメアリに目がけてではない。真下の地面に対して優しく。投げたというよりも放ったようだった。

「別に俺が戦わなくてもいい。別の戦える存在を呼べば良いんだってな」

地面に近付くにつれてその光球は徐々に圧縮していった。そしてその形も変わっていく。

「俺に対処が難しい相手。だったら俺じゃない誰かに押しつける事にした」

 光は人に近い形を取り始める。だが其れは明らかに人では無いことが見て取れた。細身ながらも人よりも大きな体。額には巨大な角。そして長い髪。その外見の特徴は正しく鬼である。姿の完成するとその体の白熱化が解けていった。金髪の誰もが一目で目が奪われてしまう美貌を持つ女の鬼神がそこにはいたのだった。

「お久しゅうございますわ。主人様」

 現れるやいなや彼女はアダルに向けて態々膝を折って挨拶をした。


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