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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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五十七話 鷹堂小鳥

鷹堂小鳥。彼女は鷹堂明鳥の一歳下の妹である。彼からすればすぐに生れた妹であった為、物心が付いた時にはいた存在であった。小さい頃は一緒に育てられた。一歳差なんてそんなものだろう。彼女の物心が付く頃からはお互いに近すぎず離れすぎず。依存するような関係でもなく、普通の仲の良い兄妹といった様子であった。小さい頃から外で遊ぶことが好きだった明鳥とは違い、彼女は内の中でテレビというものから離れずに、ずっと訳の分からないであろうニュースを見ていた。勿論ニュースだけを見ていたわけでも無い。バラエティや子供向けのアニメにも目を向けていた。だがテレビの前から離れない子であったことには変わりが無かった。

 さてそんな彼女の特徴。それは異様なまでに性格が悪いと言う事と異常なほどに口が立つ事であった。幼い頃からテレビをみて育ってきた性と言ってしまえばいいのか。性格の悪い芸人をみて真似しだしたのが彼女の性格の悪さの最初だった。何を憧れて真似しだしたのかは今でも謎である。だがそこから小鳥は周りにその振る舞いをし出した。最初は幼稚園で同じ組の子を泣かせた。そのときに先生達が慌てていたこと。そして両親が呼び出されていたことをアダルは覚えている。その日は帰るのが遅れた。帰り道の車の中で得よう心が嘆いているのが子供ながらに分かった。その原因が横ですやすやと悪びれもしない妹である事も理解出来た。

 その後も何回か小鳥は騒動を起こした。最初にやった事が問題になったことを反省してなのか。それとも問題になったことが面倒になったのか。どちらかは分からないが、先生に隠れて言い負かすようになった。それでも相手は子供。如何に隠れていたとしても親に泣きつき、結局は先生に知れることになった。その結果。明鳥と小鳥はその幼稚園に入れなくなった。あまりにも問題を起こしすぎたが為、さすがに幼稚園側から退園を促されてしまった。事態の重さを小鳥が知ったのは明鳥が一緒に退園することになったとき。彼女の驚いた様な顔を未だに忘れられない。だが当時の明鳥は特に何も文句などは言わなかった。子供ながらに退園理由に納得していたからであった。問題のある子供の兄もおそらくは問題がある。其れまで大人しくしていたとしても結局は同じ親から生れた血を分けた兄妹。その根本は同じであるとみられたのであろう。当時明鳥は大人しい子であった。何の主張もしない子供でもあった。だから今回の事も何の主張もしなかった。アダルも今思えば何でこんな大人びたことを考えていられたのかが謎であった。だが思考的にも性格的にも。明鳥はこの頃は大人のような考え方をするような子供であった。だから退園する原因であった小鳥も責めるような言葉を言うことはなかった。何も分からなかったら言うことも出来ないだろう。だが当時の明鳥は分かっていながら責めることはしなかったのだ。それは子供としては異常であるだろう。アダルからしても今思えば自分も小さい頃は異常なほどに自制心があったと思える。だが当時はただ起こってしまったことをただただ受け入れていた。

 その後。明鳥と小鳥の兄妹は母親の実家の方の幼稚園に通うことになった。さすがにそのまま近くの幼稚園に通うには悪評が立っていたし、入れなかったから。だったら理由を作って田舎の幼稚園に通った方が良いという両親の考えでそうすることになった。

 そしてその新しい幼稚園に通うことになってから、妹も己の口を他人には向けることは無くなった。一度関係の無いはずの兄も一緒に退園に促されたのだ。そのことが結構彼女にとって響いたらしい。自分の身勝手のせいで兄にも迷惑を掛けたのだから。響かなかったら心が無いと言われるだろう。性格が悪いとは言うが、その性根は繊細な方なのだ。小さいときは其れが顕著だった。

 先程も言った通り、その後小鳥はその口を他人に向けることはなかった。向けられる相手というのは一番身近な兄である明鳥。彼に向けられた。彼としては別になんと言われようと良かった。其れで妹の調子が戻るんだったら。明鳥の思惑通り、彼女の調子は戻っていった。しかし如何せん調子に乗りやすいのがそのときの彼女の生けないところ。つい、兄に向かって、その悪い口を使ってしまった。そのときだ。その時初めて明鳥は妹を叱った。その口を使うのは基本的には悪い事であると言うこと。そして瞬時に出る言葉が一定のラインを越えると怖い目に遭うと言う事を教えた。そしてそのラインを越えたときの怖い目というのも彼は不本意ながら見せてしまった。アダルはその時の事をそうとう反省している。生れてからと言うもの、初めて怒ったと言っても良い。そして怒られた小鳥の怯えた様な表情を。あれを見てやり過ぎたと言う事をそこで彼は初めて知った。今まで怒り慣れていなかったことから、過剰にしてしまったんだろう。初めてだったというのは言い訳にもならない。

 だがここで怒りをぶつけてしまったことで彼女はあることを得た。人にはあらゆる事で一定のラインがあり、其れを越えれば相手は起こると言うこと。つまりはそのラインを見定めなければならないと言う事である。今までの小鳥はそのラインというものを知らずにそこに土足で踏み入れたことによって怒られ、口が達者な彼女はそれでも言い負かして問題になっていた。だがここでそのラインと言う存在を知れたことでこれからは性格が悪いながらも怒られずに生きていけることになったのだ。実際それからの彼女は変わった。性格はそのままであったが生き方は変えられた。性格はもう染みついて変えられなくなってしまっていたが、それでも人をただ傷つけるだけの彼女ではなくなった。元々頭が良くて模倣することが得意だった彼女はドラマで見た優等生の振る舞いというものを模倣し出した。其れを行ったのは小学生になったときから。その一年前。つまりは明鳥が小学校に入学するタイミングで居住区を完全に母親の実家の方に移したていた。父親の仕事もそっちの方に移すことに成功したことが大きいだろう。母親の実家の方もこれは助かったと思って居ただろう。

 話を戻すがそっちの方の小学校に通い始めた時の小鳥の振る舞いは完璧な優等生になっていた。何というか見ていて気持ち悪くなるくらいに。そのとき明鳥は口にこそ出さないが、顔には出ていた。その表情だけで小鳥は何が言いたいのか分かっていたが、その場ではぼろを出さずに家で小言をちくちくとはき出す様になった。相変わらず彼女の口は兄には向いていた。だが彼のラインを超える様な言葉は言わなかったため明鳥も其れを受け流すような生活になっていった。

 そのような生活が八年ほど続いたときだった。新しい妹。綾鳥が生まれのは。そのときの小鳥の様子は今でも思い出す。珍しくはしゃいでいた。まさか妹が出来るなんて思って居なかったのだから。其れは明鳥だって当然同じ事であった。だが絶賛思春期中の彼ら兄妹からしたら少し複雑な想いもあった。

 だが生れてきた妹は何も悪く無い。だからこそ二人は綾鳥をかわいがった。彼女が妹に向ける笑顔は明鳥も見たことがないような自然な笑みだった。初めて自分が守らなければならない存在という者を目にして心境の変化でもあったのだろう。明鳥はそう想っていた。彼もそこで今までは無自覚だったある事を自覚することが出来た。一番上の兄としての責任を。


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