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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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五十六話 綾鳥の瞳

 鷹堂綾鳥の瞳は両方とも生れたときから特別だった。あまりに特別であったが故にその場にいた看護師と産婦人科の先生。そして両親も驚いた。なにせ開かれた目は虹色のように角度によって色を変えていったのだから。そしてその目に驚いたその病院の先生によって生れてから数日後に検査された。結果はアースアイと呼ばれるもの機能的には普通の目と変わらないというものであったが。結局はその瞳の特別製は科学的には何の証明も出来なかったのだ。

だがこの目が普通なものだと言う事は結果を知ったからと言って納得出来るものでもなかった。なにせ綾鳥はその目を見た者から異常なほど好かれたのだ。最初はその目の希少性からだと思って居た。だが見れば分かった。この目はただのアースアイで有るわけが無いと。だから両親が贔屓にしていた神社を頼ったのだ。そこは創建されてから五百年と戦国時代に作られた由緒正しい神社であった。そこの神主に綾鳥の目を見せると彼は笑ったという。

神主が言うにはその目は珍しいものではあるのだそうだ。だが他に発現する者がいないのかと言えばそうではないらしい。日本人。いや、日本の血を引くものであるならばその目が現れるという。病院で言われたアースアイと同じ様なものだとも。だが明鳥が感じたとおり、彼女の目には魅了のまじないが宿ってもいると言う。まじない。呪いと書いてまじないである。生れながらにその目は呪われてしまった。或いは何者かに祝福されてその力になってしまったのか。当時も。そして今もわからない。だがその目で厄介な事になったことが数回ほどあった。おそらく明鳥が死んだ後も数十階では聞かないくらいその目で厄介な事になったとであろう。そしてメアリの前世に気づかれたのもその一つであった。

『綾ちゃんの目。アースアイって本人は言っていたけど。あれを見たら誰でも一目惚れしちゃうよね。私も見せて貰ったことがあったけど。・・・うん。あれはずるいよ・・・』

 見てしまったらそれはもう誰もが目を離せない。其れが綾鳥が持っていた魅了の目。どんな相手であっても彼女に好意を抱いてしまう。

「・・・・其れがお前を歪めたのか・・・」

 妹にも悪い所はあった。あんなに見せるなと言われていたであろうアースアイを友人とは言え、他人に見せてしまったのだから。幾ら痛い目に遭っても人を信じるここエロは忘れないのは良いところではあるのだが。人には善意だけではなく悪意もあると言う事をその都度忘れてしまうのは頂けないものである。

『・・・・そう。あの目を見て・・・・私は歪んだ。狂ってしまった。最初に会った時の願望が顔を出してしまった。・・・・そして思ってしまった。この子を。誰の目にも触れずに。私だけのものにしたいって』

 アダルは彼女の目を見た。その目には光が見えない。彼女の魔力がそうさせているのか、ヘドロのような濁ったものが彼女の目に纏わり付いていた。

『だけどこの願望は叶わない。誰の目にも触れずにいるとこなんて出来る訳が無い。だけどそこで思いついた。この子を壊してしまえば。意思を壊してしまえば。・・・そしてその上で私に従順になるような教育をすれば。綾ちゃんは・・・私だけのものになる』

 聞いていて胸焼けしそうになるほど歪んでしまった。その責任は綾鳥にもあった。だがそれでもそのはけ口を妹に向けたことは許せるはずがない。

「そのために妹をいじめ始めたって訳か・・・」

『・・・・そう。綾ちゃんの人格を壊すためには周りに群がっている屑達は邪魔だった。だから最初にやった事はその屑達を彼女から引き離す。・・・そして私の仲間にすることだった』

 その者達が彼女のいじめに手を貸していた者達。聞いていても腹立たしい。仲良くしていた相手をいじめ始めると言う事も。其れに手を貸した者達も。

『綾ちゃんの周りから人を減らすことは簡単だった。何せ前にいじめの対象になっていたから。だから私はクズ共に嗾けた』

 今まで話を聞いている時も思ったが、こいつは口が上手いのではと思うときがしばしばあった。綾鳥が如何にして悪いことをしたのかと言うところでは彼女に同情してしまうようなところもあったのだから。だが妹は何も悪い子とはしていない。ただ迂闊なだけだったのだ。

『私の口車に周りにいたクズたちはすぐに乗った。彼奴らは密かに馬鹿な男のことを好いていたみたいだったからそのことが気に入らなかったみたいだった。・・・だけどすぐにいじめは収束したためそのはけ口に困っていたみたい。本当に思考する事も出来ないような駒が出来て私は内心でほくそ笑んだ』

 おそらくここで前世のメアリは自分の口のうまさに気づいたのであろう。

『その馬鹿達は本当に私の言う事をじっ恋してくれた。最初は綾ちゃんから少しづつ離れて。その次に省くように唆した。そこまではまだ小さな事だった。だから悪意に鈍感な綾ちゃんは除け者にされて言っている状況に気付くことも出来なかった』

 聞いているだけど気分が悪くなりそうなことである。だがアダルはそのまま感情をジッと抑えつけて耳を傾ける。

『完全に除け者にされた時にようやく自分がハブられているという事に気付き始めた。・・・だけど綾ちゃんは気付くのが遅すぎた。・・・・だってそのときにはもう壊す準備が終わっていたから』

 準備を要することと言う事はその仕打ちは計画的に行われたと言う事。人一人壊すのにそこまで為るのかとも思ったが。次の瞬間には納得してしまう。其れは何故か。彼女の目的はおそらく誰の目に触れないところに彼女を連れて行くこと。そのための準備であり、人格の破壊はあくまで前段階でしか無い。本当の目的は洗脳という名の教育なのだから。

『そこからは本当に面白いくらいに上手く嵌まった。私が言うまでも無く、彼女達は勝手に動き始めて。私が思った通りに過激に。そして執拗にいじめてくれた。其れを私が見て助けるところまでが一回のセット』

 助ける事によってその人物への信用が生れる。其れと同時に罪悪感も。これがいじめが起こる度に行われる事になればループする。ループによって綾鳥の精神が自分への不甲斐なさと友人への罪悪感によって壊れ始める。

「お前の中にはもう罪悪感はなくなっていたのか・・・」

『・・・・無い訳でも無かったかな? ・・・・もう覚えてないから多分無かったんじゃないかな? だってそのときにはもうこの状況が楽しくなっていたからさ』

 他人を虐げる事に悦を覚えていく。其れは一種の全能感と言っても良い。自分の思い通りに動く駒。思い通りに縋ってくるとも。そして頼られている私。ここまで上手く事が寸進んでいったら頭に過ぎってしまう。この世界は自分中心にうごいているのではないかといういかにも自己中心的な考えが。だがそのような全能感に陥っているときにこそアクシデントというものが訪れるものである。

『其れが半年続いたある日。もうすぐ綾ちゃんの精神が完全に壊れそうなときに。気付かれた。今後私の行動を邪魔してくる相手に』

 言葉からして其れが誰かと言う事はすぐに分かった。前世明鳥だったときの一つ下の妹。そして綾鳥からしたら唯一の姉妹で頼りになる存在。鷹堂小鳥であろう。

「忠告しておこう。残念ながらお前のしていた事を小鳥はずっと分かっていたと思うぞ。あいつがここまで手遅れになる状況まで追い詰められている綾鳥のことを放っておくわけがないからな」


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