五十四話 綾鳥との関係
エアトスとの戦闘と同時にアダルにはまだやることがある。其れはメアリとの戦いである。
『はははっ! そんな面白い事出来るんだ。・・・すごい。興味津々』
彼女の目の前にいるのは分身の方である。其れが喋るかどうかも分からないというのに彼女は言葉通りに目を爛々と輝かせて興味を抱いていた。
「・・・・それはどうも。・・・お前に言われても何も嬉しくないがな」
それに対して分身である彼は応答する。別に可笑しな事ではない。なにせ彼は完璧に復元できる再生能力を持っている。そう最早復元と言うべきものであるのだ。其れを使えば完全にアダルと同じ事を思考できる分身を作り出せるのだ。
『・・・・・その減らず口も一緒に付いてくるのは聞いてないかな? 其れさえなければ遊べる人形だったのに』
先程の目の輝きは消えていき、蔑むようなものに変わっていった。
「そうさせないためにこれをつけた。あっちで遊んでいるのにはただ闘う事しかプログラムして無いぞ」
彼が指したのは自分の頭と彼女の人形と戦っている分身。
『・・・へえ、そんな事も出来るんだ。・・・・だけど良いのかな。そんな事教えちゃって・・・』
「問題無いから話しているんだよ。・・・・別にこの程度秘密でもなければ知られて困ることもないしな」
その点を突かれてもアダルは全く動揺しなかった。言葉通りに知られて不味いことではなかったから。
「そんな事よりもお前には聞きたい事があるんだよ」
今までの会話をどうでも良いように切り捨てるアダルは真っ直ぐに刺しそうな目をメアリに向けた。
「・・・・・・お前は俺の妹をかわいがってくれたようだな。・・・・・執拗に。ねちっこく。・・・・自殺に追い込もうとするほどに」
口にして悲しくなってくる。自分が見れなかった。生れてきたばかりの可愛い妹が成長した姿。結局は想像でしか彼女が成長した姿を思い描けないのが彼の心をちくりと刺した。
「・・・・・・その理由は何だ? 俺の妹が。・・・・綾鳥が何かしたのか?」
何故彼女がいじめられなければならなかったのか。その理由は如何しても分からない。それもそうだろう。其れは結局実行していた彼女にしか分からないことであるのだから。其れを他人が考えても其れは本質を捕らえたとは言えないであろう。だからこそ問うたのだ。何を考えて彼女は妹を殺そうとしていたのかを。
『・・・・本当にあやちゃんのお兄ちゃんなんだ・・・』
当のメアリはアダルの言葉を耳にしてからというもの呆けていた。そしてしみじみと納得したようすでその言葉を発した。其れには思わず眉を顰める。
「・・・・其れは・・・どういうことだ?」
言葉の真意を掴みきれない何故今その言葉を発したのかが分からない。
『どこまでもお人好しで誰よりも優しい。それがわたしが知る鷹堂綾鳥という少女の性格』
淡々と語られた妹の知らない側面。
『・・・・そう。彼女も。君と同じようにわたしの本質を理解しようとした』
その後彼女は突如として小さく笑った。
『あはははは。本当に。可笑しいよ。・・・まさかそこまで似てるとは思わなかった』
メアリからしたら相当のツボ出会ったのだろう。言葉を紡いでいる間でも笑いが吹き出してしまう始末である。
『あっー、おっかしい! 本当に世の中なにが起こるか分からないよ』
いつまでもツボが続いている彼女の事が少し気味が悪くなっていく。
『それで? ・・・えーと。・・・・あっ! そうそう。なんで私が綾ちゃんのことを追い詰めたかって事だったね。・・・うん、いいよ。その理由を答えてあげる』
その後彼女は突如として活き活きし出す。
『其れは簡単だよ』
満面の笑みがウガベラレ、その口が動いた。
『彼女が壊れたらをするのかが興味があったから。ただ、それだけ』
答えられた答えはアダルの想像と違わなかった。そう言う手合いであると言う事を分かっていた。だが理解するために。彼女の口から聞きたかった。
『綾ちゃんは大切な友達だったんだ』
たが続けられる言葉には思わず耳を疑った。
『・・・過去話はあんま好きじゃないけどさ。君には教えて上げよう。・・・・・私と親友である綾ちゃんとの関係を』
ついには親友という言葉まで使い出し、アダルの脳内は混乱しだしてきた。なぜ親友とまで言える程の中の相手を壊したいのかが分からなかったからだ。だがそのことは彼女が語ってくれることで解決するだろうという思いで耳を傾けた。
『あれは忘れもしない。高校入学の日。綾ちゃんと私は出会った。席が隣同士だったからすぐに話かけてくれんだ。そのときに思ったね。この子は優しい子なんだって』
初めての印象が優しいというのがどこか誇らしくもある。
『なにせそのときの私は根暗で陰キャ。黒の長い髪で顔が見えないように前髪を長くしていた。そして話かけられないようなオーラを纏いながら本を読んでいた。そんないかにも話し掛けづらい相手に対しても何の偏見もなく声を掛けてくれた。ああ、思ったねこの子はきっと周りに優しくされて生きてきたんだろうなって』
明鳥の時でさえ、そのような相手に話しかけれたかどうか怪しいところである。だが喋る掛けた綾鳥の考えは何だか分かった。彼女としては折角同じクラスになったんだから全員と仲が良くなりたいみたいなことを考えていたのだろう。そんな事を思える様に育ったことはある意味奇跡だろう。家族は勿論のこと友達に恵まれたからそんな事が考えられた。
「・・・・・・よくそんな良い子に育った」
思わず声に出てしまった。前世の彼はそのような考えを持てるような生活をしていなかった。嫉妬に駆られた存在に襲われる。そんな生活だったからだ。だからこそ関心してしまった。両親は勿論のこと。あの性格が悪い小鳥が綾鳥には一切その毒を見せなかったのかと。もし彼女が妹をおもちゃのように接していたらそんな心優しい性格になるのだろう。答えは否。そんな事は無い。もし彼女が常日頃から彼女の悪辣な言葉を浴びせられたら、捻くれた自罰的な性格になってしまい。今のアダルのように。
『綾ちゃんと話し終わったとき。正しく其れを感じた。なんて良い子なんだろうって』
その時の事を思い出して彼女は思わず笑みがこぼれた。
『そこでふとある事が頭よぎってしまった。・・・・この子を壊したらどうなるんだろう。・・・何をするんだろうって』
語られるのは先程と同じ内容。しかし先程よりも邪悪さを感じてしまう。それはただ妹と出会った時の事を聞いていたというのに、その考えに到ってしまったことが理解出来なかったから。
『勿論そのときは頭に過ぎっただけ。実行為るつもりもなかった。ただ興味を引かれただけだった』
彼女のなかでも其れが割ることであるという認識があったから、自制が効いたのであろう。
『・・・・・その後わたしと綾ちゃんは仲良くなることが出来た。隣同士で自然と話す機会が多かったから』
そこまで聞いていると普通の話しのように聞える。・・・訂正しよう。これは正しく普通の話しである。何の変哲も無い平穏。其れが魔王種の口から語られていて頭の中でバグが発生しそうなだけ。つまりは今アダルの脳内は混乱していたのだ。
『あの時は楽しかった。彼女と一緒にいるだけで何だか明るくなれたような気がしたから。何より私は彼女の隣にいることが好きだった。綾ちゃんと楽しく過ごせることがそのときの生きがいだった』
ここまで聞いていると何か違和感が募ってきた。そして其れはすぐになんなのかが分かってしまう。




