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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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五十話 二つ目の

アダルの中にある衝動が思わず出てしまった。それは明らかな破壊のものであり、破滅を望むものでもあった。其れは誰に対してか。言わずもがな魔王種に対してである。其れを向けるべきなのかという疑問すら起きない。そもそもなんでこの様な感情が出てしまうのかと言う事は不思議ではあった。これは本当に自分の物なのか。そのような思考が一瞬ではあったが過ぎった。

『・・・・・此方の株を奪うようなことを口にするんだな』

『うわっ! 最低。人に向かってそんな言葉使っちゃいけないんだ!』

 そしてすぐに思考が纏まった。

「環境を制御下に置かない代わりに俺の感情を煽ったのか」

 不思議と頭が回ってくれたお陰でエアトスが仕掛けたことと言う判断が出来た。実際に彼の表情は驚きで少し口が開いている。

『・・・・バレるのか。・・・・・いや、バレてしまうんだったな。俺とあんたは感性が似ている。・・・・そのせいで分かってしまうのか』

「そうかもな。・・・・だが、今のは直感が働いただけだ。冷静さを失わずに動いてくれた俺の頭脳には感謝しかない」

 悪びれもしない。今の出来事は彼の中には決して罪悪感という物が無いのだろう。実際アダルとて同じように対策されたら精神的に揺さぶりを掛けるであろう。だが問題なのは今の出来事で判明したエアトスが行った事であった。

「・・・・・ああ。最悪だよ。想定していた中でも尤も最悪なことだよ」

 泣きたいよと付け加えたかったが、其れは辛うじて我慢した。そのような悲観した態度に当然ながら二人は疑問に思う。アダルは一体何を悲観して今のような言葉を呟いているのかと。

「はははっ! 4対1とか」

 何の数字なのかというのをメアリは首を傾げた。大してエアトスは一瞬目を見開いて、舌打ちを鳴らす。

『軽率だった』

「ああそうだ。軽率だったよ。・・・・だが効果も覿面だ。実際に俺は今心が折れかけているんだからな」

 アダルもまた空笑いするしかなかった。それくらい余裕がないのだ。

『・・・・・それでも折れないか・・・・』

 何を持って折れていないと判断するのかと言う話しであろう。じっさいアダルの中では挫けている。木っ端微塵に砕けてしまっている。だがそれでも折れていないとみられているその理由は何なのか。不思議と分からなかった。

「何を持ってそれを言っているのかが理解に苦しむよ」

『・・・・・・それでも我らの前に立ち阻む。あんたの目はそう訴えている。・・・・全く怖い存在を敵に回してしまったよ』

 エアトスの言う通りアダルは立ちはだかる。喩え魔王種の実力差を前に折れていたとしても関係無く。その精神性を恐れている。

『本当に面倒だよ。・・・・だからさっさとやっちゃおう。立ち直れないくらい滅茶苦茶にすれば生きているのさえ馬鹿らしくなるくらいに。壊しちゃおう』

 嬉々とした表情を浮かべながら、彼女は地面から十体ほどの群れの大熊を出現させた。勿論彼女が出したのだからただの熊ではない。5メートル程の巨体に加え、頭には角が二本生えている。爪も長くそれは剣のよう出会った。其れに加えて背中からも鎌のような形状の鋭利な突起物が出ている。一目見ただけで凶悪だと言う事が分かる。

「なんともまあ。凶悪ですと言うことを全面に押し出した熊をモデルにしたキメラみたいな見た目だな」

 最早呆れるしかない。ここまで詰め込む必要があったのかと言いたくなるような見た目である。

『ふん。いってればいいよ。どうせすぐに何も言えなくしてやるんだから』

 手を軽く振って突撃するように指示を出す。

『私は前世であんたの妹に酷い目に遭わされたんだ。だからその仕返しを受けなさい!』

「いってろ。いじめていたのはお前だ。前世で何も出来勝った分。今世でお前に罰を受けさせてやるよ!」

 言葉が言い終わった直後。最初の一体がアダルに襲いかかっていた。振り下ろされる凶悪な爪。其れを見てもアダルは冷静に手刀を作り。

「・・・強度がないな」

 逆に爪を切り裂いた。だが当然ながら其れで終わりなどではない。その背後から三体ほどの大熊が前にいる個体のことなど見えないかの如く凄い勢いで迫っていた。

「おっとっ!」

 数歩バックステップするだけで対処した熊はその熊たちに切り裂かれた。見た目だけ作った者だから断末魔も雄叫びも上げない。ただ形成した血を奪うようにその三体は大きくなった。

「そう言う仕組みね」

 その背後にも六体の尾小熊はいるが、互いに食い合っている。最初に一体の惨状を見て、己が強くなることができる分かるやいなやこれである。

「趣味の悪い動物を作るんじゃんぇよ!」

 両手を交差させ、其れを横に開くと、その軌跡を光りの刃が作り出される。大熊を刈り取るために作られたそれは一匹残さずに切り裂いた。

「ちっ!」

 だが当然の如く血液で作られたためすぐに癒着する。

『そんな斬撃が効くと思って居るの!』

「エアトス!」

 今の行動は失念所ではなかった。何故斬撃を放ってしまったのか。煽るメアリのことなど気にせずにアダルは彼に怒号を上げた。

『存在を忘れたあんたが悪い』

「正論を言えば納得為るとでも思ったのかよ」

 するわけがない。其れにこれはアダルの過失などでは決してないのだ。アダルはきちんとエアトスにも意識を向けていた。其れは大熊の群れが作られても。襲われたとしても変わらなかった。だがその後。熊の奇行を見てから意識が変わっていた。其れは何故か。

「きたねえとは言わないが。・・・・・無粋なんじゃないのか?」

 エアトスの精神干渉によるものであった。其れによってアダルはいつの間にか認識齟齬を起こしていたのだ。そしてこれこそがアダルが先程最悪だといった事であり、心が折れてしまった要因であったのだ。

『無粋だろうが。卑怯だろうが。我々は勝たなければならない。戦いに卑怯などない。其れは結果が証明する。勝てば官軍。負ければ賊軍。そういうものだろ?』

「・・・・ふん。ああそうだな。だがな幾ら大義名分を掲げたところであんたらは善ではない」

 魔王種に向かって当たり前の事を口にする。だが其れを耳にしたエアトスは口角をひくつかせた反応をしたのをアダルは見逃さなかった。

「あんたらが野郎としている事は大量虐殺だろう。・・・おそらく周りの火山を噴火させ、逃げることの出来ない民衆の済む街にマグマを流し込み、鏖殺する。大体そんなところか?」

 エアトスは持つ論その言葉には反応しない。だがメアリの方は違った。思わず口を開けてしまっている。

『な、なんでバレてんの!』

『黙れよ』

 そして失言し、覇気の込められた言葉で口を紡いだ。

「・・・・ははっ! やっぱりそうか。・・・あくまで可能性の一つだったが。・・・まさか正解だったとはな」

『なっ! 鎌を掛けたのね』

 まるで卑怯とでも言いたげな怒りと羞恥を会わせた表情である。だが先程エアトスはある事を口にした。

「戦いに卑怯はないんだろ? そっちは意識を操作をするんだ。ならば俺も心理戦をして精神に揺さぶりを掛ける。何か問題でもあるのか?」

 その主張にメアリは何も反論できなかった。その様子に含み笑いをした。

『・・・・なるべく怪しまれないように振る舞っていたって言うのに。・・・どこでその情報が漏れた』

 エアトスは不思議がっていたが無理もない。本来何も情報が無かったらこの街でなにが起こっているのかなど分かるはずもない。

『・・・相当優秀な情報源でもあるのか?』

 其れはつまり裏切り者がいると言う事でもあった。そう考えると彼の頭は余計に痛くなった。


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