四十九話 異空間
異空間へと突入したアダルは魔王種二人を地面へと投げ捨てる。当然ながら投げつけたとしても上手く着地させられた。
『・・・・・ここは・・・』
『うわぁ。綺麗な場所だぁ!』
着地してすぐにエアトスとメアリは周りを観察し、素直な感想を述べる。二人の言う通り、アダルが導いた異空間は綺麗な場所であった。空は太陽があり、色は青色でありながら星が見えた。地には色とりどりな植物や木々が芽吹いており、所々手入れされたような砂利の区間が存在した。その景色は魔王種であっても魅了する。事実はアダルも少しホットした様な感情を芽生えた。彼らの人間性は微かに残っていることを。だが其れは微かであることをアダルは分かっている。何せ二人は魔王種であるから。そして人間性というものがあってもそれが破綻していることを。
『今からこれを壊せるんだ。たのしみなんですけどぉ!』
メアリの発言を耳にしてもがっかりなどしない。むしろ予想通りの言葉であった。
「・・・・期待していたとおりの言葉をありがとう」
思わず感謝の言葉を贈ってしまい、メアリは呆けてしまった。
『・・・・・ねえ。なんでありがとうなんていっちゃってんの? 馬鹿なんじゃないの?』
『馬鹿はお前だろう。あれは感謝の言葉でも何でも無い。ただの煽りだ。お前は馬鹿にされたんだよ』
呆れながら口にするエアトス。アダルの思考を読んで口にした事だが、それは正解だった。
「正解だ。・・・・・まさかそこも読まれるとはな。・・・はあ。嫌な相手だ」
ため息交じりの声を思わず出してしまう。アダルとしても戦いたくない相手というのは先程の問答でわかりきっていた。なにせかれは感性が似ているのだ。だからこそアダルがどのような意図で其れを口に出したのか。それが分かってしまう。其れはつまり相手に思考が読まれているのと動議だ。思考を読まれてしまうのは彼に取って尤も厄介な事である。なにせ彼は考えながら戦う戦闘スタイルを取っている。本能で直感的に戦うタイプではないのだ。だからこそ思考を読まれたら簡単に対応出来てしまう。
『・・・・・こんな綺麗な場所で戦うのか?』
「文句でもあるのか?」
怪訝そうな顔を向けてくるエアトスにアダルは真顔でそう答える。その返答が意外だったのが彼の顔に出ていた。
『・・・・そうか。あんたの心理も。・・・・・我々と変わらないんだな』
少し残念そうだった。だがアダルには響かない。
「そうかもな。だが、俺が理由もなく綺麗な場所を選んだ訳じゃないのは察する事は出来るだろ」
彼が言ったとおり理由が無い訳が無い。何せここに連れてきたのはアダルなのだ。彼がただ綺麗な場所に連れてくるわけがない。
「さあ、やるぞ」
開戦の言葉を口にするといの一番にメアリが動いた。彼女は真っ先に地面に生い茂る芝生に血を垂らした。瞬時に芝生は腐った。そしてどういう理論かは分からないが、腐った芝生から血のような紅い液体が噴き出す。
『そっちの都合のいいところに来たんだ。このくらいは許してよね!』
『・・・・・・そうだな。わざわざこの環境で闘う事は無い。こっちの都合の言い様に変えるか。・・・・・お前にしては頭を使ったな』
エアトスは珍しく褒めているのだが、其れは一種の悔しさから出たものであった。なにせ彼はここに来たときから自分好みの環境にしようと試みていたからである。
『ふふん! 青も真似して良いよ! ・・・・あっ! ごめんね。其れは難しいんだった』
メアリの煽るような言葉に、エアトスはこめかみの血管が浮き出ていた。彼女の言葉が地雷を踏み抜いたからであろう。アダルとしてはこのまま仲間同士で戦ってほしいものである。だがアダルとしてもそこは不思議だった。彼ならばすぐにでも自分好みの環境に作り替えれるだろうと思って居た。
『・・・・お前が異常なだけだ。・・・・よくこんな適応するだけでも面倒な場所でそんな力押しが出来るな』
『・・・・・なんで出来るだろうね。・・・・・才能かな?』
其れはさすがにアダルでもむかつくような発言だったため種明かしの為に口を開く。
「俺がエアトス相手に適応させないようにそっちに出力を上げているだけだ」
エアトスの干渉されるとアダルは確実に負ける。瞬時に敗北する。生物が活動。いや、生きていく中で必要なのは呼吸である。其れがなくなったら生物の括りであるアダルは手も足も出せないで負ける。だからこそ彼に干渉されないようにそっちに対しての対策をしたのだ。その結果メアリの干渉を防げなかった。これはただそう言う話しである。
「まさかメアリも干渉してくるとは思わなかった。・・・・いや、考えが甘かったよ」
実際その可能性は考えた。だがそのときの思考はどこかバグを起こしていたのだろう。そうでなければメアリも干渉するという考えを放棄することはなかった。・・・・・実際問題。環境干渉されたとしても今のようにエアトスに100%のリソースを使っているため対処する術はなかったのだが。
『・・・とのことだ。残念だったな』
『むうっ! 鳥のくせに私を侮るとか生意気!』
確かに生意気と捉えて貰っても構わない。侮られていると感じても仕方が無い事だ。だが実際はその逆である。
「ははっ! 頭が足りねえのか?」
最初に出た言葉は挑発するような口調であった。アダルからしても意外だったが、だしてしまったものは仕方が無い。そのままの口調で続きを口に出した。
「侮っている? そんなわけがあるか。もし本当に侮っていたとしたら、俺はお前もこの空間には連れてきていない。・・・・危険だと思ったから。あっちの世界に残したら災害をもたらすと判断したからこっちに連れてきたんだぜ?」
口に出していることは本心である。実際危険だと判断したから連れてきた。そしてその判断が間違っていなかったと今は思って居る。
「・・・・やはり魔王種。環境を弄ぶのは簡単か。・・・・本当に連れてきて良かったよ」
先程メアリの部屋での言葉。を思い出した。彼らは何か時間に追われていた様子だった。其れは何をするのか。想像は出来るがしたくないことだ。
「この異空間は俺が作り出した。そういえば少しは危機感を持ってくれるか?」
アダルの事場に二人の顔が少しだが強ばった。想定はしていただろう。先程から其れっぽいことは口にしていたのだから。
『想定していた中では悪い方だな。・・・・だが干渉出来るくらいには作りは甘いらしい』
「正解。だがそこはわざと甘く作っているんだ。・・・・じゃなかったら俺も干渉出来ないからな!」
言い終わると同時に一度足を上げて地面を踏みつける。すると周りの植物から光りの粒子が生み出されていく。
「生命とは輝き。輝きとは光り。そしておれは光りの鳥。つまりは光りは俺の力。この空間内では俺の力は尽きることはない。・・・・お前らを迎え入れる為に急ピッチでくくったものだが。退屈させないことは約束しよう」
光りの粒子はアダルの体に集まっていく。その影響で光りの膜が出来、いつも以上に神々しく見えたいた。
『・・・・たしかに。・・・これは面白そうじゃん。この体でどのくらいの力が出せるのか不安だけど。その試運転には丁度良いかも!』
『あんまり侮るなよ。・・・・下手を撃ったらまた器を探すところから始めるようかも知れないんだからな』
あくまで余裕たっぷりの態度。だがアダルはそこで感情的になったりはしない。なにせ二対一。それも向こうは二体ともアダルよりも格上である。ここで余裕にならない方がおかしい。そうエアトスはおかしいのだ。
「・・・・その余裕。たたき壊してやるよ」
だからこそアダルはそれを壊したくなった。




