四十一話 城内をゆく
城内を進む三人。この城の構造は余所の城と同じ様な物だからこそ、どこに何があるのかなどは分かりやすいものである。逆に変わった構造の方が珍しいとさえ言えるだろう。「・・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・」
歩み続ける三人は基本的に無言で進む。先程までは結界を張っていた部屋の中にいたから話せただけで、敵地である事には変わりない。それに向こうには空気を操る敵がいる。そのため不用意な発言は出来なかった。
「あの絵は。・・・・・・綺麗だな」
だが不自然に黙っているだけだと周りから怪しまれるから、偶に城内の装飾品に興味がある振りをする。今回其れを選んだのは大広間になっているところに飾られていた美女が画かれている絵画であった。
「ええ、それはそうですとも。あれは私達から三代前の王妹。ライラ様ですわ。その時の大陸無いでは三本の指にはいると言われる程の美貌の持ち主と言われていましたのよ」
「そうなのか・・・・」
ライラという名前にアダルは反応した。過去にこの国に訪れたとき。街の者達がそのような名前を言っていたような気がする。最低でも百六十年よりも前の話し。そのときも綺麗だと言われていたのが聞こえた。吸血種の寿命は人に比べれば当然の事ながら長い。三代前の話しが百六十年前であっても何にも可笑しく無いことである。
「ライラか・・・・久しぶりに聞く名だ」
何千年と生きている真祖にとって、百数十年前の人物の名前を聞いて数年聞かなかった程度の感覚であろう。
「絵の方はまだご存命で?」
生きていても可笑しく無いだろうという思いで聞くと彼女は無言で首を振った。
「百四十年ほど前になくなったと聞きますわ」
「・・・・・短命な方だったんだな。聞いて悪かった」
美人薄命。その言葉をこの世界でも実感させられるとは思わなかった。
「元々体が弱い方ではあったのです。其れに加えてその体に合わないほどの力も持ち合わせていたらしく。・・・・・その力のせいで寿命を削ってしまわれたのだとお父様は仰っておられましたわ・・・」
どういう風に今の王が王位に就いたのかはアダルは知らない。だが普通に考えれば叔母に当る関係なのだろうと言う事はすぐに分かる。
「力のせいでか」
器が十分でないと内包した力に耐えきれない。それは生物であっても同じ事なのかということを考えさせられた。それは神獣種も無視出来ないことであったのだから。そう想うとこの体を頑丈に作ってくれた星の意思には感謝の念が出て来た。
「ん? 器が弱い?」
そこで有る疑問が脳裏を過ぎった。魔王種の力は測定が出来ないくらい強い。其れは神獣種一体よりも強いだろう。だからこそ星の意思は数を揃える事にしたと言っていたくらいだ。そんな強い存在が幾ら真祖の直系の血筋であるとはいえ、現世の者を器にして能力を十分に発揮出来るのだろうかと言うもの。知っている中で他の器になった者は天使種と大竜種。どちらもその肉体は頑丈である。加えてその肉体は他の種族と違う。だからこそ魔王種の器となっても耐えることが出来る。あくまで一時的であろうが。吸血種はどうであろうか。先程言ったとおり真祖直系の血筋では有る。だがその器は真祖ではない。いくら長寿であっても吸血種には寿命がある。そう不死ではないのだ。その体に見合わない強力な力が入ってしまえば自滅するくらいには脆い。先程聞いたライラがまさにそうであろう。そう考えると何故メアリの肉体を選んだのかが疑問で仕方が無い。彼女の血を操る能力を得る為だけの使い捨てにするためだけに奪ったのか。どうもそれだけじゃない気がする。ならば他に何か目的があるのだろうか。おそらくはそうなのだろうが。
「・・・・・・」
「考え事ですか?」
「ああ、済まない。迷惑を掛けてしまった」
その場で立ち止まって考え事をしていたため、アリスは先に進めなくなっていた。そのことに気づかないほどアダルは考えにふけってしまっていた事から謝罪を入れる。
「・・・・それでは」
少し不服そうな表情が見える。それはそうだろう。何せ相手のことを何も考えずに、ただ黙って。そして周りの音を遮断して自身の世界に入り込んでしまったのだから。周りの者からしたら先に進みたいのに進めずに迷惑している。
「・・・・・」
足を進め始めるといろんなところに目が行く。さすがは王族が住居する城だけあって珍しい物が歩いているだけで見れる。クリト王国の城も何回か城内を見て回ったが、そことは基本構造は同じであっても、飾ってある装飾品が違う。これもこの環境が産んだ文化なのであろう。そう暢気に耽った後、思い直した。そう。ここは最早敵地なのである。このように暢気にいるわけにはいかない。今はまだ仕掛けてこないであろう。だがもうすぐ対面することになる。なのに何故緊張の糸を緩めてしまったのか。思わず嫌になり、一度ため息を吐いた。
「ため息など吐いて如何したのだ?」
その一連の流れを横目で見ていた真祖は思わず問い掛けていた。
「気を引き締めなおすためについただけだ。気にするな」
そう言うとアダルは体中の関節をならして、体をいつでも動かせるようにした。
「何事もほどほどにやれ。気を抜きすぎても負いすぎても、物事上手くはいかない者だからな」
叱責とも励ましとも取れる言葉を口にして真祖は前を向いた。彼の言葉はアダルの心に深く響いた。
「それもそうだ」
響いたことで不意に声が漏れた。
「あぁあ。まったく。こういう性格だから嫌になる」
物事に真っ直ぐ向かいすぎる。其れも彼の欠陥。いや、其れこそが彼がいつもしている自己嫌悪の正体なのかも知れない。だからこそ真祖の言葉が響いている。確かに今まで戦いでは気負いすぎていたため、過剰な戦力を出していたのかも知れない。其れも格下と分かると行ってきた傾向がある。だが今回の戦いは明らかに格上。死ぬことが当然の戦い。そのことが彼の感情にフタをした。数分前。アリスに言われた言葉が脳内に流れる。死ぬ事への恐怖という質問にアダルは曖昧にしか答えられなかった。其れはまさに感情に蓋をしていたからであろう。だからこそ曖昧にしか返答が出来なかった。
決意をしたはずなのに。覚悟を決めたはずなのに。如何してもその恐怖が感情にフタをする。死への今日は完全には拭えていなかった。なにせ彼は覚えているのだ。死ぬ事への恐怖を。前世での死の体験を。
「・・・・・・ははっ」
思い出しただけでも背筋が凍る。死ぬ瞬間の記憶。周りには炎に焼かれていく同級生。そして酸素がなくなっていき、意識が遠のく感覚。最後に見たのは意識を失った天梨の顔だった。完全に意識がなくなる数秒間。最後に思った事。それは。
「・・・・ああ。そうだな。・・・・そうだったよな」
思い出した。あの時望んだものを。おもむろに己の手に目をやる。
「・・・・・やってやるか」
怖がってやる必要なんて無い。あの時願ったものはこの手の中にある。死ぬ気で役目を果たす。だが簡単に死んでやるつもりはない。命を散らすにしても抵抗は止めない。相手を消耗させる。情報を。攻略の糸口をつかみ取る。気負いすぎ。欲張りすぎているとアダルは自分でも思う。だが折角やるのだから、それくらいは行っても良いだろうと内心で楽しげに笑う。そんな事を脳内で考えているとアリスは足を止めた。
「ここが。目的の場所ですわ」
立ち止まったのはいかにも豪華な装飾がされた扉であった。手前には二人の武装をしている騎士が二人扉を守るように立っている。




