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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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四十話 無理矢理な納得

 アダルの言葉にアリスは明らかに悲しそうな表情をしている。其れは分からなくもない。今さっきでいきなりいろいろと混乱する様な情報を投げつけられているのだ。そして其れが虚偽という可能性も今はない。無くなってしまった。吸血種の祖である真祖が語ったことを嘘とは幾ら彼女でも言えない物である。

「・・・・・・」

 次に紡ぐべき言葉が見つからずにただ呆けるしかない。覚悟を促したアダルも何も言わずにただ待っている。彼からしたら次の言葉は予想が出来る。罵倒の類いの者がその口から紡がれるのだろうと。それを言う資格が彼女にはあるのだから。

「・・・・・貴方は・・・・・其れが・・・。あるというのですか」

「・・・・。其れって言うのは?」

 彼女の言うそれとは何を指すのか。思わず聞いてしまった。

「わたくしの妹。メアリの命を奪う事への覚悟です」

 目を真っ直ぐ見て紡がれた言葉にアダルは一瞬目を見開くが、その後優しく微笑んだ後に顔を引き締めた。

「無かったらここには来ていない。・・・・勿論殺すつもりでは来ていないさ。ただその可能性もあるというのは分かっている。・・・・・そして引きはがせないと言う事が分かったのなら」

 今度はアダルがアリスの目を射貫いた。

「俺は迷わずメアリを倒す。そしてその罪を一生背負って生きていくつもりだ」

 言葉が。目が。そしてオーラが。全てがアリスを圧倒して思わず数歩後退りして、息を飲んだ。

「・・・・まあ。話しはそんな簡単にいくわけがない。何せ相手は魔王種。俺一体で何が出来るというわけではない。・・・・俺の覚悟は分かって欲しい」

 おもむろに右手の親指を立て、それで胸を突いた。

「今回俺はこの命を落とすことを覚悟してきた」

 はにかみながら言う言葉に最早言葉を失うしかない。清々しさも感じられるその態度には最早恐怖すら感じられる。

「・・・・・本当にその覚悟が・・・」

「疑うのか?」

 再び絞まった顔に戻る。

「まあ。冗談だと言いたいが。・・・・・残念ながら俺が死ぬことは確定でな」

 やれやれと言った様に首を振り、ついでにため息も吐く。

「まあ、魔王種相手に死ぬだけだったらまだ良い方だよな・・・・」

「怖くないんですの」

 アリスの言葉からはおびえが見えていた。そしてそれにはさすがにアダルも考えた。

「怖くないのか、か。・・・・うぅん。・・・・如何なんだろうな」

 真剣に悩んでしまう。

「まあ、怖くないわけじゃないんだよ。・・・・・死ぬのは正直怖いし嫌だ。俺はまだ何かを成し遂げたわけじゃないからな。其れを成さずに死ぬのは正直言って嫌だ」

 どこか曖昧に感じる返答。まるで自分の事を語っていないような他人事のように喋る。

「・・・・・。貴方はそう言う方なのですね・・・」

 だがどうやらアリスはアダルの事が少しだが分かった様子だった。

「・・・・・分かりました。・・・・正直今の回答に悩みましたが。・・・・貴方の策を手伝いますわ。そうでなければこの国が滅んでしまうのでしょうから」

 妹か国か。王族であると言う事が国を選択させた。

「ですからお願いしますね。妹のことは」

「ははは。任せろとは簡単に言えないんだよな・・・・」

 そう簡単なことではない。そのことをまず言わなくてはならない。そのためアダルは真祖に目配せをした。彼の方も其れに反応し頷く。

「アリス。協力を感謝しよう」

 そう言うと真祖は彼女に右手を差し出した。これを握ったら彼女は完全に協力者になる。そのことは真祖がこの行動に移したときになんとなく察せられた。何故そのような事を察せられたのか、アリスも不思議でならない。

「ええ、協力いたしますよ。始祖様」

 そう言って彼女は真祖の手を握った。即答こそしたが、正直な話し。一瞬だけ彼女も少しは悩んだ。本当にこの手を取って良いものなのか。だがすぐに思い直した。今握らなかったら、この国は滅んでしまう。メアリの中にいるという魔王種の目的はそれなのだから。

「妹の中にいる存在の目的なんか果たしてやるものですか」

「・・・・。ふむ。良い心がけだ」

 口から出た言葉に真祖も思わず微笑んだ。王族として。家族として。その覚悟は妹への想いだろう。ここで引いていたら敵対することもなかった。だが彼女は知ってしまった。メアリがメアリではなく、他の存在だと言うこと。最早黙ってなどいられない。

「・・・・さて。ではまず此方の情報を引き渡すとしようか」

 そう言うと真祖はアリスの手を強く握った。一見はそう見えるだろう。だが実際は違う。掌から任意で血を大概に噴き出させ、其れを彼女の掌に突き刺す。

「っ!」

 少し驚いた様だが、彼女はこれが何か知っている。吸血種同士が行う血を媒介としたコミュニケーションである。主に話せないときにこれを行う。その血には与えたい情報が詰まっており、相手の体内に送り込むことで言いたい事が伝わると言う代物である。其れを行ったと言う事は口では言えない情報であるということだ。

「っ! これは・・・」

 流れてきた情報はどれも聞きたくないものであった。其れを知ってしまい、思わず顔が青くなる。

「・・・・ああ。・・・なんということ・・・」

 絶望したくなるが、其れは許されない。先程協力すると誓ってしまったのだから。最早知らなかったではすまされない。今さら前言を撤回したところで、詳細な事を知ってしまっているアリスは命すら危うい。

「・・・・・。知りたくなかったですわ」

 冷や汗を垂らしながらようやく口にしたのは後悔の言葉だった。

「それでも知りたかった事ではないか。今さら後悔しても何もかも遅いぞ」

 叱責する真祖の表情は呆れていた。其れを見たアリスは手を握る直前の彼の表情を思い出していた。確かに微笑んでいた。其れと同時に思い出してようやく気づいたことがあった。其れは真祖の目だ。それは警告していたように見えた。本当に今さらそれに気付いた。何故其れも分からず安易に手を握ってしまったのか。今さら後悔したって、彼女に時間は巻き戻せない。

「・・・・・はあ。まあ、いいですわ。嘆いたところで時間の無駄でしょうし」

 未だに頭は混乱しているし、もっと時間を掛けて感情を整理したい。だが其れを許してくれないということは情報として流れてきた。そのため一度感情の整理を無理矢理止めた。

「これから如何するつもりですの?」

 先程把握まで情報を伝えただけ。だからこれから何をするのかというのは伝えていなかった。

「まずはこの部屋から出る。・・・そしてメアリたちの前に姿を現すことからだ」

 何をするにしてもまずはメアリたちの前に姿を見せなければ始まらない。そうでなければ向こうも何もしないし、出来ない。天使種の体を奪った魔王種ならば今この時点でも何かしら攻撃できる。だがしない。此方には真祖がついているのだから。

「いま攻撃を仕掛けてきたら頭が足りないことの証拠だ。さすがにそんな馬鹿は魔王種の中にはいないと考えたいな」

 勿論そんな物など存在するわけがない。もし存在するのだったらそっちの方がありがたい。頭の足りない奴ほど、扱いやすい存在はいないのだから。

「奴等は狡猾だ。其れに見合った力もある。だからこそ俺たちが侵入したことも、向こうは把握しているだろう」

 最早これは確信している。何せ空間にトンネルを空けてこの城内に来たのだ。その際に発せられる力を感じとれない奴等ではない。

「狡猾だからこそ真祖が一緒にいる今、何も攻撃が出来ない」

 自信ありげにアダルは口にする。


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