二十六話 情報
三人は急ぐ足で本宮内を駆けていた。アダルはあまり本宮には来ない為、正直どこに向っているか検討が付かない。そのため、彼はただ、フラウドの後を付いていくしかないのだ。しかし、状況が状況なだけに、それを聞き出す時間が惜しい。どうせ、もうすぐ分かることでもある。彼はそんな事を考えながら、フラウドの後を付いていく。
「着いた」
フラウドは質素な作りの大きめの扉を目にして焦燥を抑えながらそれを口にする。ここまで離宮を出てから約十分。大分急いだとはいえ、少し時間が掛かりすぎたことを気にしているのだろう。目的の物を目にしても、彼は一切スピードを緩めなかった。
「状況はどうなってる!」
扉に衝突する寸前。彼は今まで駆けてきた勢いを全てぶつけるように力強く扉を開け、中に入る。その際、相当な音がその部屋に響いていた。しかし、フラウドはそのことに気にする余裕もなく、焦りを見せる声で確認をする。
「フラウド様!」
その部屋にいた全員が、扉が開く音と、フラウドの声によって、一瞬呆然とするが、皆すぐに至高を回復させた。部屋の中は、二階構造で大きな扉があったのは二階に当たる。そこはバルコニーのような作りになっていて一階を見渡せる。一階部分大体サッカーコートと同じくらいあり、その中で何十という人達が同じ方向を向いてパソコンのような物を忙しなく弄っている。彼らが向いている方向には四個ほどの大きい映像版があり、そこには、今現在中継中と思われる映像が移し出されていた。
「・・・・・・・・」
この光景を初めて目にしたアダルは眼下で忙しなく働いている人達に目を向ける。皆が目を充血させている事がすぐに分かり、それが連日徹夜続きだった事をすぐに悟った。しかし、すぐに、彼は大きな映像版の一つを見ると、思わず目を見開いた。そこにはすでに破壊去れ尽くされ、壊滅した街が映し出されていた。
「おい、猪王は何時、どこに姿を現した!」
フラウドが怒号に似た声で、近くにいた眼鏡を掛けた壮年の男性に問いかける。すると、彼は悲痛そうな顔をして、彼に返答をする。
「およそ、三十分ほど前。クリト王国の南部の海に面した平野に姿を現しました」
その声もどこか悔しがるような物であった。それを耳にしたフラウドは一瞬顔を歪ませる。しかしすぐに冷静になり、彼に次の質問を投げかける。
「兆候はなかったのか?」
その質問には、代わりにその男の近くにいた新人らしき若い青年が声を震わせながら答えた。
「何も、確認出来ませんでした」
体も震えがら彼は言葉を続ける。
「突然。突然現われたんです。まるで何かに召喚されてきたように。そんな事、あるわけ無いのに」
「そうか。状況は分かった」
フラウドはそれを耳にして、男の表情が移ったのか、悲痛そうな顔をする。
「避難命令は出したな!」
「はい、出しました!」
フラウドは眼下に厳しい顔を見せ、それを問うと、その中に一人が即答をする。彼はそれを耳にして、言葉を続ける。
「今分かっている状況をすぐに報告しろ。死傷者の数。被害にあった街やこれから被害に遭いそうな街。そして、奴の予測進行路。そして進行速度。至急に全て教えろ」
彼は眼下の部下達に命令を飛ばすと、彼らはすぐにそれに従うように、余計忙しなく動いていく。程なくして、フラウドの前に要求した物が並んでいく。その間、アダルはその映像から一切目を離さなかった。
「ちょっと、話が違うじゃないですか!」
フラウドの隣で、厳しい言葉が彼に飛んでくる。それを飛ばしたのは怒った顔をしているヴィリスだった。彼女はその表情のまま言葉を続ける。
「猪王は足が遅いはずじゃなかったんですか! それなのにもう被害に遭って、壊滅した街があるなんて」
「俺だって、驚いている! どうやら、俺たちは奴の認識を誤っていたようだ」
言葉を吐き捨てると彼は歯ぎしりをした。すうrと、フラウドの部下の一人が彼の側に近づき、姿勢を正す。
「フラウド様! 先程言われた物がご準備出来ました」
「資料を全てここに置け。半島の地図はあるか」
「此方に!」
別の者が両手で抱えたそれを持って来る。
「すぐに広げろ。そして、今現在分かっていることを口にしろ」
「はっ!」
目の前の大きい目のテーブルに地図を広げると、部下の一人が状況を説明していく。
「猪王が現われたのは、半島時間、八時七分。出現場所は王国南部の海に面するクリト王国最大の平地。クリト平地の海より五キロほど離れた場所にて、突如姿を現しました」
それを耳にしながら、フラウドはその位置に目を向け、おもむろにペンを取り出す。彼は猪追うが現われた場所に×印を地図に刻む。
「猪王はそれ以降、海岸線を舐めるように進行を始めました。その速度。およそですが、時速にして、二十キロ程かと。猪王によって、被害を受けた街との連絡は無く。おそらく、全滅したかと」
少し言いにくそうに部下の意男は口籠もる。しかしフラウドはそんな事など構いもしないと急かす様な口ぶりをする。
「その他の事は!」
「未だ、確証のない情報ですが。猪王は現在、壊滅させた街より西に七キロほど先で動きを呈しさせているという情報もあります」
それを耳にして、フラウドは部下の男に鋭い視線を向ける。
「停止だと?」
「は、はい。未だ確定情報ではありませんが」
彼の視線に男は射止められ、その足が震え出す。しかし緊急事態という事を理解しているのか、それを顔には全く見せなかった。
「それを早く言っておいて貰いたかった」
フラウドは苦い顔をして、そっとテーブルに備え付けられている椅子に腰を掛ける。
「すいません。何分、今は情報が錯綜している状況でして」
震えを誤魔化しながらその男は頭を下げた。
「分かっている。謝るな。その情報が正しいかどうか、すぐに調べろ」
「はい。失礼します」
それを口にして、男は一階の部分に戻っていく。しかしその行動はすぐに停止させる。一階部分から来た他の者がに駆け足で彼に報告しに来たのだ。その者は部下の男を見つけるや否や、彼に駆け寄り耳元に口を近づける。それを耳にして、部下の男は驚愕した顔をした。男はすぐに反転し、その者を引き連れてそれを報告しに来た。
「今しがた、新たな情報が入りました。壊滅した街より、連絡があった模様です!」
その声がその場に響き、皆が驚愕した顔つきになる。
「本当か!」
フラウドは勢いよく立ち上がり、その部下に駆け寄った。
「そのようです。詳しくは此方の者に」
男はそういうと、その者に話をするように促した。その者は促されたまま、口を開く
「今より、約六十秒前ほどに例の被害に遭った街より報告が入りました。内容は住人達の安否と、猪王の現在の意場所についてでした」
その言葉がその場にいた誰もがいき飲む報告だった。そして、部下によってそれは語られる。
「住人は全滅。報告してくれた者も、通信のの終わり頃、いきを引き取ったと思われます」
口にしていくその部下は悔しそうに言葉にしていく。その言葉によって、その場の空気が一気に重くなった。しかしそんな彼は通信してきた者の時間を無駄にせぬようにと、次の報告を上げた。
「通信をしてきた方は息を絶え絶え二させながら力を振り絞って、自分たちに最後の情報を残していってくれました」
彼は今にも泣きそうな声で、その場にいた皆にのみ身に届くように声を上げる。
「猪王は現在、襲撃を受けた街より、西に五キロほどの所にて、進行を完全に停止しているとのことです」
その言葉がその場に響く。誰の耳にも届いた。それはもちろんずっと映像版に目を向けていながら耳を傾けていたアダルにも。彼は不快そうに顔を歪め、拳に力を込める。アダルは憤りを滾らせ、映像版から向きを変えフラウドに近づいていく。
「詳しい場所を教えろ」
その怒りに満ちた声がその場に響いていた。




