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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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三十五話 進化の兆し

 アダルには怖いものがいくつもある。過去のトラウマや其れに関係することを思い出す夢。その原因になった存在。最近は毒も苦手になった。その中でも一番怖いものは考えが分からない存在である。

「楽しい。・・・・・・たのしいなぁぁあああああ!!!!」

「何が楽しいんだよ!」

 そんな考えが分からない存在の一人。真祖に連れられて彼は今、空を超高速で飛び回っている。普段はこの程度の速度では音を上げないアダルだが、今回は珍しく声を荒げている。その答えは次の瞬間、コンマ数秒前まで飛んどいた軌道から爆発音が答えてくれた。

「やはり朝は運動しなければならないな。そうでなければ朝風呂が楽しめん」

「その運動に。態々あの迎撃装置をつかわなくてもいいだろう!!!」

 アダルの叫びは虚しくも襲いかかる爆発でかき消されていく。

「くそがっ!」

 汚い言葉を出しながらも、襲いかかってくるミサイルのようなものを彼は両手の全部の指で迎撃する。いつも使うものだが、今回は出力は抑えずに、むしろ上げて打ち出している。真祖の作ったこのミサイルもどき。残念なことに頑丈に作られており、下手な攻撃では一切寄せ付けずにはね除けて突き進む。厄介この上ない代物である。

「全く。しつこいのは相変わらずかよ!」

 舌打ちを鳴らしつつ、ミサイルもどきを打ち落とすが壊れたのは僅か。ほとんどのものが何もなかったかのように突っ込んでくる。此方が出してる速度に追いつく程のスピードで飛翔してくるミサイルもどきに余裕な対応が出来ないと踏ん切りが付いたアダルは大きさはそのままに変身した。

「ようやくやる気を見せたか。遅いぞ?」

「この姿じゃ無きゃやる気を示せないのかよ!」

 叫びたくなったが、そこは冷静に小さく突っ込むことで収まりをつける。使える時間は一瞬。その一瞬で次に何をするのかを決めた。

「まずはスピードアップしないとな」

 何をするにもまずは余裕を持たなければならない。そのためにはミサイルもどきすらも置き去りにするくらいの速度を出すしかない。そのためには」

「体を弄るか・・・・」

 諦めた様な声を吐きつつ、翼と足を白熱化させる。使える時間は僅かなのですぐにそれは解かれる。すると翼は4枚に増え、足にも鳥の様な物では無く、機械のような質感のものになった。

「始めてやったが形は上手くいったな。問題は性能だが」

 指で迎撃しながらだから、ほんの瞬きでしか見れなかったが、それでも形は彼からしたら完璧のようであった。だがそれは形だけ形作ったもの。その飛行に特化させる事何は成功したがそれで全体的な性能が上がったわけではない問い事をアダル自身も理解していた。この形態は飛行以外のものを捨てて、其れにつぎ込んだ姿と言っていいものであった。だからこそ性能の事は問題だと言ったのだ

「・・・・まあこれは使い方次第だな」

 それでもこの姿になれば飛行速度面では上げられる事は実証された。ならば今度は攻撃面に特化させれば良い。その思いとともに僅かな時間の中で考え、体全体を白熱化させた。その瞬間に迎撃システムのミサイル擬き。およそ二十発がアダルに直撃した。

「・・・・ふむ。・・・・・そう言う趣味でもあるのか」

 煙幕に包まれたアダルを見て真祖は思わず被虐されることが好ましい趣味でもあるのかと考えてしまった。

「そんな趣味はねぇよ」

 返答を期待していなかった言葉に罵倒がかえってきた。徐々に煙幕が晴れてくるとそこにはいつもの姿をしたアダルが居た。

「なんだ。つまらないな。姿を変えるのを楽しみにしてたというのに・・・」

 落胆の息が漏れながら吐枯れた言葉に彼も少し居心地が悪かった。

「・・・・いや、さすがに姿を変えるには時間が足りなかったらしい。だから周りを光で覆って、防御させて貰った。・・・・・だがそれでも足りなかった・・・」

 煙幕が完全に晴れると素のっからだがボロボロになっていた。両腕は肘より先がちぎれ、足それぞれ右が太腿から先が。左はすねより先がなくなっていた。顔も口は裂け、右耳がちぎれていた。翼も打ち抜かれた形跡があったが、すぐに元の形状に治った。

「ああ・・・・。痛い。痛ぇよ」

 痛みを我慢しながら吐いた言葉は抑えられていた。だが其れはやせ我慢であり、本人は滅茶苦茶痛がりたい。しかし其れを人に見せるのが嫌なのであえてこのくらい冷めた言い方をしている。

「慣れる物では無いのか?」

「新しく出来るものは一々痛いぞ。その痛みになれるだけだからな」

 痛み全体になれてしまったら其れこそ生物としての自分は終わりだとも思ってしまう。痛みを感じるからこそ自分はまだ生き物だということを実感できているからだ。

「あんただってそうなんじゃないのか?」

「・・・・はて、如何だっただろうな。・・・痛みなどなど千年も前に忘れてしまった・・・・」

 その表情はどこか懐かしくも悲しさがにじみ出ていた。

「・・・・あんたも血の通った存在なんだな。その顔を見たらなんか安心した」

 大母竜と同じでどこか感情を残していることに安心を覚える。今まで接してきた真祖という存在からは一切感情が感じとれなかったから。正確には偽りの表情や態度を常に出してはいた。だが本心に関することは一切見せていないのは彼でも分かっていた。アダルも別に彼の本心に興味が無いわけではない。だが無理やり引き出すのは違うし、真祖の感情をどう扱うかは本人だけが決めて良いことだと言う事は理解している為、深入りはしなかった。他の者達にもアダルはそのような態度を取ってきていない。だからこそ驚いてしまったのだ。ここで真祖がそのような表情を浮かべたことに。

「此方は血液を操る事が出来る吸血種の祖である真祖だ。もちろん血は通っているとも」

 その言葉と表情でまた感情が見えなくなった。其れを耳にしたアダルは「そうだよな」と反省の息を吐いた。さすがに席ほどの発言は真祖の琴線に触れたらしい。自分でも思う。驚きと安心のせいで思わず呟いた言葉が彼の心を傷つけることになってしまったと言う事に。まさに反省しかない。

「・・・・・。先程の形態。あれは使えるが、些か燃費が悪いと見える」

「そうだな。・・・・使うにしてももっと改良が必要だろう。・・・・・・だが俺にも進化の道がやっと見えたよ」

 正直言ってアダルは戦い方に行き詰まっていた。彼の力は光の実体を与えるもの。それだけで応用が利く能力である。ちなみに実体ある者を光に変えて消すことも可能である。これは軟体獣戦で見せた石化光線を破ったのがこれに当る。だがそれ故に難しい物でもある。今までは能力による飛び道具を頼ってきたが、それが効果を現すのは彼より遥かに戦闘力が劣るものに限ってしまう。悪魔種の手先と呼ばれる者達のほとんどは命を削る大技で倒してきた。だからこそ彼は自身の戦闘力をどうにか上げないと行けないと思って居る。だからこそ模索していたのだ。

「其れよかったが。・・・・些か遅すぎるのでは?」

「・・・・・そうだな。俺もそう想うよ。・・・・だが今回は相手が早すぎたのと、俺たちが来たのがいまだったという最悪の偶然の結果だ。まったくもって俺は間が悪いことこの上ない」

 何か嫌な事があるとため息を吐くという最早癖になったことを行い、頭を掻く。

「それでもやることはやるさ」

 今回彼が行うのは囮。他二名の動きがバレないようにするための危険な役目。

「其方。命を落とすかもな」

「覚悟の上だ。・・・・・死んだら生き返らせてくれよ?」

「・・・・善処するとしよう」


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