二十五話 神獣種の情報
ハティスには真祖に語ったことを全て話した。そしてもたらされた情報も。
「周りの山に異常が。・・・・・・そのせいで温泉の温度が急上昇したんですかね・・・」
「まあだろうな。火山活動の活性化。其れによって温泉が高温になったんだろうが。・・・・・」
アダルが次に言いたいことはハティスもよく分かっていた。
「・・・・時期からしてこれは自然現象ではないと言うことですかね・・・」
「お前が過去視で見たのはつい最近のことだろう」
頷くとハティスは口を開く。
「私が見える過去視というものは明確な時間は分からないものですが、何故か日付は分かります。王女の体が乗っ取られたのは私が見た日付はちょうど大樹城にて襲撃を受けた日になりますね・・・」
初めて聞かされた情報であったが、驚きこそ有れ、彼を責めることはなかった。黙っていたのにも何かしら理由があるのだろうと勝手に推測したから。
「・・・・・・・。同じ日。・・・・なのか。・・・・・問う言う事は他の魔王種達もその日に依り代を手に入れるために動いていた」
「・・・・そう言うことになるのでしょうか。・・・・何分確証がありませんから。・・・・ですが同じ日というのは偶然ではないのでしょうね。・・・・この時期が良すぎる火山活動の活性化も含めて・・・」
これではっきりとした。この異常な火山活動は明らかも人為的なもの。そして其れをもたらしたのは魔王種であると言う事。
「・・・・・どっちの能力でやった事なんだろうな・・・」
思って口から出てしまった言葉。当然ながら其れは反応を示された。
「どっちの能力というのは?」
「・・・・・いや、疑問に思わないか? 俺たちには特殊な力が備わっている。だったら出自が似ているの彼奴らにも同じように特殊な能力があっても可笑しく無いだろ? そして今回の事。自然に干渉出来る力である事には変わりない。其れは一体どっちの能力なのかってな・・・・」
そこまで聞いてハティスは冷や汗が出ていることを実感した。頭が働くせいで彼が次に言うであろう事が予想出来てしまったのだ。其れと同時に恐怖を感じた。自分達が戦おうとしている相手の恐ろしさを実感してしまった。
「・・・・・まあそこまで言えば分かるか。・・・・・だがこれこそあくまで予想の範囲でしかないからな」
予想出来ると言うだけ。もしかしたらそんな事は無いのかも知れない。だがそれは多分ないであろうということは二人は理解していた。
「・・・・・まあ魔王種が能力が二つあったとしても戦うとなったら俺たちは勝つしかないんだ。それにそれに付いては星の意思も何か考えて居るんだろうよ」
さらっと先程まで溜めていたことを言ったのは言う必要が無いと判断したためであった。
「対策ですか。・・・・・しているんでしょうが。・・・・如何せん分かりにくいですね」
ハティスに意見に同意為るように頷くアダル。
「想定していないって言うのは。まああり得るんだろうな。・・・・・だがその分俺たちには数があるからな・・・・」
前に星の意思によって招かれたから知っているのだ。神獣種は七体だけではないという事を。大母竜も言っていた。把握している神獣種には招待状を送ったが、実際に来たのは五人だけ。つまりは他にも神獣種は存在しているのだ。
「・・・・お前は知っていそうだな。俺たちと同じ様な呼び方をされている奴・・・・」
「・・・・・まあ、二体ほど顔を知っている方は居ますよ。ああ、この前招待された方ではない方々です。そのお一方が私に情報をもたらしてくれるんですよ」
面識がある存在が二人も居ることも驚いたが、彼の情報源がその一体の神獣だという発言の方に興味が湧いてしまった。
「へえ。いつか俺も其奴に会ってみたいな・・・・」
「・・・・・どうでしょうね。・・・・その方は大の女好きで男は嫌悪しているレベルなので。あわない方が良いと思いますよ・・・」
語るハティスの表情は苦笑いと疲労感が表されていた。
「・・・そうなのか。まあ男だったらそう言う奴も居るんだろうな・・・・」
男嫌いで女好きという発言だけで男であろうと勝手に推測する。
「残念ながらその方は女性です」
アダルの言葉に呆けていた彼は訂正するように言った言葉。その言葉を耳にして、今度は彼が呆気にとられた。
「・・・・まあ、そんな奴も居るのか」
女好きで男嫌いの女性。正確には神獣種的には雌と言った方が良いのかも知れないが、其れでは言葉がきつすぎルという思いと、前世は人であると言うことを知っている事から女性、又は女といった方が良いだろうと言う判断でそういうことにした。
話を戻すが、其れは少し参ったなとアダルは思った。
「男嫌いと言う事はわかった。それはどこまで重傷なのかが問題だ。例えば俺とのコミュニケーションを受け付けないのか?」
問い掛けにハティスは頷く。
「男とはほとんど喋らないと彼女は言っていました。其れなのに何故か私とは話してくれるのですから、可能性はありますが・・・・」
こればっかりは邂逅してみないと分からないものだ。だが彼の言動から見て、彼女に可能性を感じてもいた。
「話していなかったが、俺も一人知っている。ヴィリスと同じように海人種の王子だが、其奴も神獣種としてカウントできる奴だ」
リヴァトーンのことは確か言っていなかったなと思い、情報を出すとハティスは頷いていた。
「其れは知っています。・・・・いえ、貴方がその方と親交を持っているのは知っていました。・・・・ですがまさか海人種の王子だったとは」
親交を持っているハティスの知り合いでもリヴァトーンの素性までは把握していなかった事も確認できた。と言う事は彼女も地上生まれで、潜水能力は持たないと言う事なのだろう。
「・・・・・・・さて、お互い知り合いの情報を出すだけ出したな。・・・・いや、お前の方はもう一人いたな・・・」
情報源の彼女のほうを取り上げていたから気にしていなかったが、話を終わらそうとしたら突然思い出してしまった。
「ええ。そちらの方は何というか。何の害にもならなそうな方ですよ? 狩りと農業が特異な方でよく私にお裾分けをくださる方ですね」
先程からハティスは一切見た目などの特徴ではなく、性格などの中身を伝えてくる。この先逢ったときに偏見を見させないために配慮してくれる。
「まあそれくらいしか事前にいえる事は無いと取っておくよ。後は俺が直接見て判断しろって事だな・・・」
「・・・・そう受け取ってくれると助かります」
曖昧な笑みを浮かべたのを見ると、アダルはおもむろに立ち上がる。なにをするかと思えば、部屋に用意された着替えを手に取った。
「ちょっと疲れすぎた。ここにも温泉が有るみたいだから其れに浸かってくる」
「・・・・・ええ。私も少し寝たらその後に言ってみます」
そうかと返事し、彼はあの足で部屋から出た。出た途端に体のバランスが崩れたのを感じ取り、音を立てないように壁に体重を預ける。
「ははっ! この程度で疲れるとかないだろ」
口では軽口を装っているが、内心の感情は憤りであった。なんでこの程度で疲れてるのかと。疲れるほどのことをした覚えは彼からしたら全く無かったから。
「・・・・最近まったくもって不抜けているな」
おもむろに拳を胸に置くと、少し付く余そこを叩いた。
「まだ何も成せていないんだ。・・・・これからだぞ。戦いは・・・・」
鼓舞するように口を開き、吐く言葉で自分を戒めた。




