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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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二十話 とある男女の会話

「・・・・・ほお。あれを倒すか・・・」

 日が燦々と照らすウッドデッキ。そこで日光浴を愉しんでいるサングラスを掛けた色素が薄い髪を持つ長身の男は下の気配を感じ取り、少し意外そうに頬を緩めた。

「一つは顔見知り。一つは竜のもの。一つは初見。だがどれも興味深いな・・・・」

 言葉にしながら軽く指で空に何かを書く。

「面白いものは歓迎だ。・・・・だがこれに倒されるようでは話しにならないぞ・・・」

 どこか愉快気で居る彼は言い終わると同時に空に書いていた物を押した。すると其れは生物のような動きを下が、次の瞬間には消えていった。

「・・・・・近頃、街が騒がしい。何か知っているな?」

 先程までの楽しげな顔は一変し、その表情から遊びが消えた。声にも威厳が備わる。その声が送られた先は彼の横で同じく日光浴をしている黒髪セミロングの女性だった。

「意外です。貴方が下のことに興味を持つとは。・・・・・」

 サングラスを外し、人形の様な綺麗な顔つきの彼女は優しく微笑む。

「意外とは侵害だ。感情が薄くなった今だって、この呪われた血を継いでくれた子孫には感謝しているのだ。その者達の気配が消えた。心配しても罰は当らない」

「当る罰があればですけどね・・・」

 彼女は立ち上がり、一度ウッドデッキから離れ、屋敷の中に入っていく。数分もしないうちに帰ってくる彼女の手には小型の端末が握られていた。

「其れは?」

「クリト王国の王族から送られたものです。便利ですよ? 一般的な情報収集には」

 話しながら端末を操作する彼女は直ぐさま街で起こっていることを探し出した。

「どうやら下の温泉が急に高温になったらしいですね。それで負傷者が多数出たとのことですよ」

「・・・・それだけか?」

「ええ。今の所は其れしか出ていません」

 他の事も探してみたがそれらしい情報は出てこなかった。

「王族のことも?」

「・・・・・ええ。全く。何もないかのように過ごしているようですね。今朝の様子も画像として残っているようです。ほら、見てみます?」

 証拠を見せるように彼に画面を見せる。そこには王族達が移動に介して朝食を食べている様子が映っていた。

「違和感でも?」

「しかないだろ。それは・・・」

 さすがに彼も其れを見たら苦笑いしかできない様子だった。

「私もそう想います」

 端末をしまうと彼女は男の方に近付く。

「おそらくですがこれから来る方々はある理由があって、貴方に応援をしていただきたいのだと存じます」

 あくまで臆測でしかない事を口にする。その表情はどこか寂しげであった。

「この力が必要だと?」

 顔では迷惑だと言わんばかりだが、口にした言葉からは喜びが感じられた。

「まったく。良い迷惑だ。此方は静かに過ごしたいというのに・・・」

 言葉とは裏腹に、彼の体は嬉々としている気配を感じられる。其れは長年付き添ってきた彼女だから分かること。

「嬉しそうですね」

「そういうわけではない! だが少しこの生活が嫌になっただけだ」

 喜びが勝ってしまい、彼はここで言葉を間違える。

「そうですか。・・・・・私と一緒に居るのは耐えられないと・・・」

 拗ねたようにいう彼女の言葉に自分が過ちを犯したのだと気付いた。

「そういうわけではない! 断じて違う! 確かに片時も離れずにいると言う事に息苦しさはある」

 良いながら気付いた。自分がさらに失言を重ねていることに。それを聞いている彼女が明らかに機嫌が悪くなっていく。

「そうですよね。・・・・四六時中共にいるというのは息が詰まりますよね・・・」

 同じ事を口にしているが、その言葉は男に刺さる。

「しかし可笑しな事ですよね。この面倒臭い女を好いて、貴方の側から離れないようにしたのは。どこの誰でしたっけ?」

 棘のある言葉で追撃すると、男は胸に手をあてた。

「・・・・・なんて。言ってみただけですよ。そんなに傷付かないでください」

 不機嫌そうだった表情は一気に晴れる。

「本当にか?」

「ええ。私には貴方を縛るような事などできるはずがありませんから」

 疑うように問い掛ける男に彼女は優しく頷く。

「ですが言葉には気をつけてくださいね。先程の発言。あれで私も少し傷付きましたから」

「・・・・・そうだな。さすがに言葉が過ぎた。すまない」

 自分の非を認めた男は素直に頭を下げる。

「謝ってくれたらもうこの話は終わりでいいです」

 謝罪を受け入れた女性はそこから少し引っかかる事を口にした。

「ですが、下で騒動があった日に来客が現れるというのも可笑しな話しですね・・・」

「そうか? だがそもそも来客自体がないというのに、わざわざ今日来るというのも確かに引っかかる話しではあるが・・・」

 少し思考するが、あまりにも馬鹿みたいな答えしか出ない男はすぐに其れを止めた。

「頭が全く働かない。まったくもって嫌になるものだな」

 ため息を溢しながら自虐の言葉を吐く。彼自身長年生きてきて、頭が働かないことに嫌気が差している。

「貴方は変なことばかりに頭脳を使っているからですよ。なんですか、あの趣味の悪い罠は。だからお客様が現れないのですよ?」

 反省しろと言わんばかりにその件を責める。

「仕方が無いだろ。ここ五百年頭が動くときは罠を作るときくらいしかなかった。今思えば最後に全力が出せたのも悪魔達との戦いだからな」

 その当時の事を思い出し、懐かしむ。其れを見た女性は呆れるばかりだった。

「あの時のことを思い出して辛い表情にならないのは貴方くらいでしょう」

「・・・・・そうなのか。正直あの時の大戦は楽しいとしか思わなかったが」

 彼も悪魔種との戦いで大事なものを無くしてきた。十人ほど居た彼の血を直接受け入れた者達がそのときに八人も亡くなった。残りの二人の内、一人は吸血種の王族となる。もう一人は今彼と共に生活しているこの女性である。

「確かに辛い事もあった。・・・・だがお前が残ってくれたことは嬉しく思うぞ」

「・・・・・いきなりそんな事を言っても何も出ませんよ。それとも何か疚しいことでも隠しているんですか?」

 彼としては褒めたつもりであった。だが彼女は素っ気ない態度の上に、何故か隠したいことが有るのでは無いかと疑いの目を向ける始末。

「別にそんな物は無い。どうせ隠し事はできないし、お前にはすぐにバレてしまうからな」

 胸を張って主張する男に女性は苦笑する。

「種族の祖としてはもう少し嘘が美味くなって欲しいのですが。・・・・こればっかりはもう良いです。其れが貴方の良さだと受け入れていますよ・・・」

 誇って欲しいところではないところを誇らしくされたとあっては彼女としても苦笑するしかない。だが其れも仕方が無い事であることはとうの昔に理解している。だからこれは長所として認識していた。

「愉しんでくださいね」

 一言口にして彼女は男に体重を預けた。男の方は女性の事を拒絶せずにそのまま胸で彼女を受け止める。

「私が居ないからって、はしゃぎすぎないように・・・」

「分かってる。お前の好きそうな情報を持ち帰るから心配するな」

 女性の問いに男も優しく返答した。長年付き添ってきた女性。その言葉ぶりはここから動けない事を言っている様な物だった。

「悪いな。お前だけ個々に止めるような真似をしてしまって・・・」

「其れは言わない約束ですよ。・・・・・・それにこれは私が望んだ事ですから。・・・後悔はないんです」

 それだけ伝えると彼女は男の体から離れた。

「では健闘を祈ります」

 微笑みながら少し離れつつ、手を小さく振った。

「行ってらっしゃい」


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