十九話 肉食獣の発生源
それぞれ戦闘態勢を取りつつ背中合わせで岩の肉食獣と対峙為る。
「これって生物じゃないよね」
「ああ。ゴーレムみたいだな」
「ですから遠慮は入らないと思われますが・・・・」
口にしながらヴィリスの方に目をやると当然の如く彼女は頷いた。
「分かってるからそんな心配そうな目で見ないで・・・・」
「ならいい。だが俺たちにも其れは当てはまるからな」
「肝に銘じていますから」
遠慮はいらないと言ってもやり過ぎて良いと言う事ではない。それぞれが分かっているのだ。自分達がやり過ぎてしまったら。この土地に悪い事を。ヴィリスとアダルは毒や光を撒き散らす。其れによって土地は今でさえ岩肌しかないというのにそれ以上悪くなってしまう可能性がある。一見関係なさそうなハティスでさえそのことはわきまえている様子だった。
「あくまで撃退だからな・・・」
皆まで言わないことをあえて言うのは自分を含めて釘を刺すため。そんな事をしていると一体の肉食獣がアダル目がけて襲ってきた。
「開戦ですね」
「そんな事行っている場合じゃないだろ」
軽口を叩くアダルの腕に肉食獣の牙が襲う。噛みついた瞬間。牙は大きな音を立てながら折れていった。それでも噛み続ける肉食獣は食い千切ろうと体と頭を左右に振る。
「本当に肉食獣みたいな動きをするなこいつら。ったく、面倒だな!」
鬱陶しそうにしながらかみ続けられた状態で一度その腕を高く持上げる。直後目に映らないくらいの速度で肉食獣は地面に打ち付けられた。その衝撃で肉食獣は原型を止められなくなり、動か無くなり、ただの石塊に戻っていった。
「なるほど。行動不能にすればいいのですね」
「そのようだな。まあ・・・・」
当たりを見渡すと二十は超える数の肉食獣によって囲まれている。その後ろからさらに新たに生れてきているのも確認できた。おそらく奧にアル大岩が発生源だと思われる。其れが光ると近くの岩肌から発生しているのが確認できた
「数は多いがな・・・」
苦虫を噛み潰したような顔をする。翼を展開しているが、ここで飛翔する事はできない。何故ならそれだけでも迎撃される可能性があるから。其れも釘を刺すことにした。
「ヴィリス。飛ぶなよ。おそらくそれだけでも迎撃してくるからな。するなら軽いジャンプにしておけ・・」
「分かった。気をつける」
言葉にしながら大鎌で肉食獣をあしらいがなら一体ずつほんの少しの毒を付与して行っていた。毒を受けた肉食獣達は十秒ほど経つと動けなくなり、砂になっていった。
「その毒。大丈夫なんだよな」
「大丈夫だよ、砂になった無効化するようになって居るから」
彼女の発言は眉唾だとは思ったがそれ以上深くは追求しなかった。
「岩でできたものだとは言え、自分の種族の個体に似た獣たちを倒すというのは中々気分が悪いものですね・・・」
「まあ分からなくはないな。俺だって鳥類の魔獣を殺す事に躊躇うからな」
同意しつつ、ハティスの戦いにも意識する。彼の戦い方は正しく冷静。常に考えながら戦闘不能にしている風に思える。偶に何かを試すような事を見受けるが其れも有効のようだった。爪と牙は岩の塊であるはずの肉食獣の体を易々と貫くほど鋭利であり、そしてそこから切り裂く。その過程を何度も繰り返しているのだが一向に鋭さは変わらないため相当頑丈だと言う事も窺える。それは蛇のような尻尾も同じだった。
「お前の体は刃物みたいだな・・・」
「アダルさんの体は全身が飛び道具ですね。危険度で言ったら貴方の方が危ないかと・・・・」
確かにと思いながらアダルは右手全部の指を固まってくる方向に向ける。そして指先から光弾を射出した。其れは断続的に行われ、その方向から来る群れを一掃する。
「やり過ぎるなって注意をしたのはアダルくんだよね」
「心配する事はない。この程度の事で環境に悪影響を起こしたことはないからな・・」
口にしながらもマシンガンを続けて、肉食獣を一掃し続ける。屠っている数で言ったら彼が一番多いであろう。
「だけど飛び道具ってずるいと思うな・・・」
「それもそうですね。だけどこればっかりは彼の能力なので仕方がありませんよ・・・・」
アダルの力を少し羨ましがる二人。だが其れに関して言えばアダルだって言いたいことはあった。
「俺の力を羨ましがっているようだが。こればっかりは仕方が無い事だ。其れにお前らだって俺からしたら破格だからな」
そのタイミングでハティスとヴィリスに肉食獣が襲いかかり、反応はできなかった二人だがお互い苦笑いだけする。
「まあ、自分と他人を比べ手も仕方が無いのは分かっていますが!」
尻尾で貫き、爪で切り裂き、石塊に帰したハティスは愚かなことを口にしたと反省為る。
「それでも羨ましいと思ってしまう事は仕方がないって笑ってほしいな・・・」
正面から来る個体を鎌の柄で受け止めていると背後から二体襲撃してくるのが分かった。その二体を翼で覆い、すぐに離すとそこには最早砂すら残っていない。恥ずかしげに言うがその言葉からは説得力を感じられないなとアダルは感じた。だが其れをあえて口にする事はしなかった。
「まあそういうもんだと思って納得しておくか」
空笑いしながらアダルは軽くジャンプして真下を通過した肉食獣たちを光弾で撃ち抜いていく。岩に戻ると直ぐさま着地し、両手首を交差させた。
「そろそろケリをつけようか!」
周囲から光を集めたアダルの腕は白熱化している。其れを目にした二人も彼に倣うように行動に移った。ヴィリスは鎌に毒を付与し、ハティスは両手で口を覆った。
「これで終いだ」
「毒で消えて」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ハティスの咆哮は衝撃波になり、発生源に肉食獣を巻き込みながら直撃した。ヴィリスの鎌を地面に突き刺してそこら一帯の土地を脆くする。その作用は当然の如く奧の発生源にも影響したはずであった。そして最後にアダルは両腕を勢いよく水平に開く。するとその軌跡から三日月型の光の刃が現れた。それは手前にいた衝撃波に巻き込まれなかった肉食獣を切り裂きながら発生源の岩を切り裂く。
「追い打ちだ」
もう一度両手首を交差させるとすぐに白熱化する。其れを今度は上下に開く。すると今度は盾に三日月型の光の刃が現れ、地面を切り裂きながら発生源に直進するのであった。瞬く間に発生源に直撃すると深い十時の切れ込みができた。
「頑丈だね」
「そうだな。どっちも加減したとは言え割断すると思ったんだがな」
少し困った風にするアダルだが、それでも周りにいた肉食獣達の動きは止まった。おそらく中に仕込んであった術式を破損させることができたのであろう。
「まあうざい岩の獣たちの動きを止めることができたんだ。それだけでいいだろう」
少し不服そうだが目的は果たせたのだからと無理やり納得してみせるとアダルは戦闘態勢を解いた。形態ではなく態勢をである。其れを見たヴィリスも同じように解き、軽く体を伸ばした。そんな中、ハティスだけが未だに発生源の岩に目を向けていた。注意深く。警戒した眼差しで。
「脆くしたのに硬い岩だよね」
そんなハティスに話をふると彼は頷く。
「ええ。まるで其れも想定されていたのかと疑いたくなるくらいには・・・」
「だよな。おれも信じられないんだよ。・・・・・これで終わりなのかってな・・・」
戦闘態勢を解いたからと行ってここで戦闘形態を解除するのは明らかに危険が過ぎる。
「・・・・・仕方が無いが、しばらくこの形態で山を登るとするか・・・」
少し疲れた様な口ぶりに、二人とも賛成のようで頷いた。




