十六話 アダルにとっての脅威
悩みの種がいなくなった事にヴィリスの気も少しは軽くなっていた。其れは普段通りの動きをしている事から分かる。
「其れで分かった事があるって話しだったけど。どんなことが分かったの?」
「また魔王種が関わっているって事。今はまだそれくらいか?」
アダルがハティスに同意を求めると彼は頷いた。其れを耳にしたヴィリスは顔を顰める。
「そんな顔したくもなるよな? 俺もそうだわ・・・」
アダルは疲れた表情をして座っているソファに身を沈めている。
「其れは確定情報で良いの?」
「・・・・・まあ信じられないのは仕方がありませんが。間違いなくそうであるという確証はあります」
答えたハティスはうっすらと笑みを浮かべる。その表情をみて一瞬だけ胡散臭いとヴィリスも思ってしまう。しかしその瞳を見て己の意見は変わった。
「そうなんだ。・・・・・・・。どこで其れが分かったの?」
彼女の対応にハティスは少し驚いた。いつも通りの笑みを浮かべたのだから彼女も又表情を変化させると思って居たのだ。其れなのに彼女の表情は変わらず、真っ直ぐにハティスを射貫く。ここでハティスが思ったのは純粋なのか。それとも頭脳派なのか。彼の中で瞬間的に思考が回る。その結果前者である事を前提にすることに己の中で決めた。
「私の目は特殊能力があるようなのです。・・・・・具体的に言えば過去に起った事が見える。過去視がこの目には備わっているのです」
「その目で見たことが魔王種と繋がった証拠だったと?」
彼女の問い掛けにハティスは頷く。
「人形がこの国の王族達を全滅させていました。その後王女の自体に近付いた人形は王女の体に何かを入れると人形は力が抜け、死体だった王女が動き出しました」
「それはただ生き返ったわけでは無かったと・・・・・」
「そう言うことだな」
答えたのはアダルだった。言い切った彼の言葉に不思議が残ったのかヴィリスは聞いた。
「どうして断定できるの?」
「魔王種はこの世界に姿を現すためには体が器が必要だ。お前は直接見ていないから聞いただけだと思うがこの前の殻割りの儀の時現れた魔王種も姿形は一見為ると人と変わらなかったが、その特徴は明らかに人形だった。奴等は最初の器を人形にして現れるんだよ」
説明を聞いてなるほどと納得するヴィリスにアダルはさらに追い打ちを掛ける。
「実は言っていなかったがこの前の軟体獣との戦いの時。魔王種の一体が俺に接触してきたんだよ」
そのことを伝えていたのはフラウドだけ。初めて聞いたヴィリスは目を見開いた。
「そいつはインディコって名乗ったな。声と話し方からして多分だが女の魔王種だった」
「インディコ。・・・・・・藍色か」
ヴィリスの呟きでその前に言っていたことを思い出した。
「そういえば藍色の悪魔将なんて事も名乗っていたな。おそらく役職名なんだろうが・・・・」
そして真名は名乗れないとも言っていた。おそらくは本当の名前も存在するのだろう。
「今の所魔王種だと分かっているのはヴァールとインディコ。そしてメアリ・ブラッド。この三人だな」
「・・・・前にアダルくんがいっていたスコダティって方は?」
その名前が出た途端一気にアダルの顔つきは険しくなった。
「今の所あっち側だが・・・・・・分からない。・・・・・ただあいつは悪魔や魔王種の類いではない。だから魔王種に加えて良いのかは分からないな・・・」
正直言ってスコダティのことは分からないことが多すぎる。分かっているのは能力と性格の一部。そして名前だけ。その名前も真名では無いだろうとアダルは呼んでいる。
「これはあくまで俺の妄想だ。スコダティの正体は悪神か邪神の類いだと俺は思って居る」
「悪神か邪神。どっちにしても邪な神の類いなんだ・・・」
そこまで話していてアダルはハティスの方に目をやる。いつもの調子で話していたが、ハティスには伝えていない情報だったことを失念していた。
「ハティスすまん。知っていることが前提の話しをしてしまった」
「いえ、お構いなく。私としても興味深い話しでしたよ。・・・・できればそのスコダティと名乗っている肩の話しを聞きたいのですが・・・・」
お構いなくと言っては板が、少し困惑した様な顔をしていた。悪い事をしたなと反省しながら口を動かし始める。
「スコダティっていうのは名。俺の宿敵みたいな存在だ。・・・・むかし旅をしていたんだが、その先々でアートと言って殺戮の限りを尽くすような明らかに頭のねじが飛んでいるような奴なんだよ」
「興味深い話しですね。・・・・ですが貴方がそのよう苦い表情を為ているという事は厄介な相手だったことも窺えます・・・」
自然にそのような顔になっていたことを指摘されたアダルは静かに真顔に戻す。
「まあ、そんな感じだ。奴の考えは狡猾すぎて俺にも分からない。と言うか何を考えているのかもさっぱりだ・・・・」
アダルは答えながら疲れた様な息を吐く。当時のことを思い出して気が滅入ってしまったのだ。
「そのような厄介な方があちら側についているという認識で良いんですね」
「まあそう言うことになるな・・・」
そこまで伝えるとハティスも難しい顔をする。
「貴方でもそのような表情をする相手というのが厄介ですね・・・・・」
「そうなんだよな・・・」
この場の空気が一気に落ちたことが肌で分かる。
「暗いはなしの最中申し訳ないんだけど。そろそろこれからする対策のはなしにしない?」
空気を変えるようにヴィリスは手を数回叩いて話題替えを提案した。
「・・・・・まあそうだよな」
「私もそれが良いと思います」
アダルは切替えるようにそのことに賛同し、ハティスも其れに乗っかった。
「吸血種の王族が全員殺された。それで生き返ったのはメアリと言う一人だけなのか?」
ずっと気になっていたことを口にするとハティスは多ダウ成す板。
「私もそこには驚いています。吸血種は殺しても生き返る存在。其れが王族とまでなれば最早死ねないと思って居ました。しかし・・・・」
現実はそうではなかった。其れがどういうことを表しているのか。
「ったく。面倒な事だ。・・・・まあ考えてみれば順当なんだけどな・・・」
「不死を滅する事が彼らにはできるということなんだ・・・・」
不死の無効化。其れはアダルに取っても厄介な事だった。
「あいつらと事を構えるなら気をつけないとな・・・・・・」
重々しく呟くアダルはその事実を受け止めて尚、闘う決意を固めた。
「一つ良いですか」
挙手したハティスに二人の目が行く。
「今回の件でお手伝いをしてくれそうな方を思いついたのですが・・・・・」
果て一体誰だろうとアダルとヴィリスは少しかんがえた。少ししてアダルは分かったのか納得した様子を見せたが、其れと同時に首を捻った。
「まあ、俺が思いついた奴と一緒なら。・・・・まあ今回は手伝ってはくれそうだな・・・・。だけどな・・・」
首を捻り続けるアダル。その様子から見るに何か思うところがあるのだろう。
「如何したの?」
「いやな。奴が俺たちと肩を並べられるのかというと疑問でな・・・」
眉間に皺を寄せながら唸っているとハティスが口を出した。
「それもそうですが。・・・・ですがさすがに今回は見方をしてくれることを願いたいですね。何せ王族はあの方の直系の者達。その方々が全滅したというのならば動いてくれると思います」
そこまで聞いてようやくヴィリスも察しがついた。確かにその方ならアダルのする反応も正しいだろう。
「吸血種の始祖。真祖。あの肩の力をお借りしましょう」




