十二話 空腹の時
「ですがどんな情報源よりも正確なものが入ってきやすいですからね」
「・・・・・問題は信じられる情報かどうかを見極める事だな・・・・」
正直言って難しい事なのは分かっている。喩え先程の掲示板に入った情報の中で一割だけ本当で、残りの九割が偽りだったのならそれ程難しくはない。少しでも考える能力がある者であったのなら見抜けるだろう。だがその逆だった場合。其れは格段に難しくなってしまう。正解の中で間違いがあってもその分野に詳しければ見抜けるだろうが、生憎一般大衆に其れを期待する事はできないだろう。そしてその間違った一割の情報が大事なところで有った場合、その間違った情報も正しい情報として大衆の中に拡がっていき、やがてとんでもない勘違いを大衆に起こさせる可能性だって有る。それが国からの情報の中に織り交ぜられていたとしたら、その一割の違和感に気付く存在は本当にごく僅かであろう。
「・・・・・間違った情報だらけなら逆のことも考えられるんだけどな・・・・・」
「おそらくはそのような安直なことはしないと私も思っています・・・・」
「・・・・だろうな・・・・」
ため息を吐くアダル。そのような単純な事を為るのは本当に単純な馬鹿だけだしなと内心で溢す。
「過去視でも目的を知ることはできませんでしたが・・・・・・。大分大変なことをしてきそうですね・・・」
「同意する。・・・・まったく。この行動が一体何になるんだか・・・」
最終的な目的は分かっている。悪魔種の解放と星冠の獲得。そのための行動だとしたらどこか遠回りな気がする。まだ情報が少ない為、其れはまだ違和感でしかない。そもそもアダルは星冠がどのように為れば手に入るのかすら分かってはいない。だが思ってしまった。何故魔王種達はこのような行動をするのか。
「・・・・面倒な事だ・・・・」
休むために着たというのに。アダルは今回も頭を働かせている」
「・・・・・・はらへったなあ・・・」
「食事は取ってなかったのですか?」
問い掛けに頷くとアダルは少し周りを見渡して飲食店か屋台を探している。
「ここに来てからミートラップっていう奴は喰ったけど。それだけだ。・・・・その後すぐにホテルに行ったからな。・・・・・折角の旅行だから空のを楽しみにしていたんだけどな。結果はこれだよ・・・・」
少し苦い顔をするアダル。其れがさらに苦虫をかみつぶしたような顔にまで引き上がった。
「駄目だ。この混乱じゃあどこも見当たらねえや・・・」
項垂れながらも腹が鳴るアダルの様子をハティスは興味深そうに見ていた。
「・・・・・貴方でも空腹にはなるものなんですね・・・・」
「はあ? 生物なんだから当たり前だろ・・・」
と言いながらアダルもそこは疑問に思ってしまった。思い返してみれば、アダルは元の姿に戻ったときは空腹に感じることは無かった。腹が減るのはいつも人化しているときだけ。その違いに今さらながら気付いた。
「・・・・・いや、確かに不思議だわ。住まん。むかついて瞬間的に反論してしまった」
「いえ、気にする事は無いですよ。・・・・私も何故か空腹になることがあるので不思議だったんですよ。何故かこの姿になると・・・」
「お前も人化しているときになる物なのか?」
訝しげに反応為ると彼は頷いた。
「お前もと言う事は貴方もそうだと言う事ですね。・・・・不思議です。私も元の姿でいるときはホトンで何も口にしなくても良いというのに。・・・・・精々摂取するのは水くらいでしょうか・・・・」
「俺も同じだ。・・・・・引きこもっていたときは正しく何も食べなかった様なものなんだが。其れで鍛錬をしても腹は一切減らなかった。・・・・・可笑しなもんだよ」
空笑うアダルの腹は又鳴った。
「ああ・・・・。腹が減りすぎていらいらしてきそうだ・・・・」
「ベルティアみたいにですか?」
思い浮べるのはどんなときでも何かしら口に含み続けていた暴食蟲少女。確かに彼女なら何も食べる物が無くなったときは機嫌が悪くなりそうだなと思い、少し笑ってしまう。
「・・・・・・あいつと同じにするな。あいつは雑食だろ。何でも食べられてしまう存在。俺たちのことも美味しそうとか言っている奴だぞ」
「確かにそうでしたね。・・・・・・ベルティアが何も食べられないと言う事はこの世界の全てが彼女によって食べ尽くされた後と言う事かも知れませんね・・・・」
其れは星の終わりか。・・・・・・それとも宇宙の終わりか。・・・それとも素の先の終わりなのかは分かりかねない。もしかしたら終わりなど無いのかも知れに後考えると少し寒気がした。
「話が脱線したな。・・・・・・兎に角まだ情報は出ないだろうから少し個々を離れて飯屋を探そう。何か腹に入れないと頭が働かなそうだ・・・」
「・・・・・・・そうですね。先程起こったばかりですからまだ調査の段階。・・・・・最低でも半日は待たないと行けないかも知れませんし・・・・・」
そう口にしてハティスはようやくベンチから腰を上げた。
「いつもだとこのタイミングで大抵何か情報が来るもんだが。・・・・・・今日は無くて良かったよ・・・」
「そんな事言っているとフラグになりますよ」
正しくそうだと思ったアダルは少し目を見開いて周りを見渡し、耳も傾けた。どうやらまだ調査の結果は出た様子は無いようだと安心したが、これもフラグになると思ったのか体の緊張感は強めた。
「・・・・・そういえばフラグって。よくそんな使い方知っているな」
「ああ・・・・・。そうですよね。」
少し気になった言葉を投げると彼も曖昧に笑う。
「・・・・・時々訳の話からに言葉が頭を過ぎるんですよ。先程大浴場で会ったときも何故か知らない言葉がぽんぽん口から出てしまっていました。・・・・・そういえば貴方も気になる事を口にしていましたよね」
そういえば溢してしまったなとアダルは思い出して息を吐く。
「魔王種が転生者と言う事。そして貴方もその転生者と言う事。そして貴方以外にもそのような存在が近くにいるという事。気になることは全部なのですが。・・・それでも今一番気になるのは私が最後に述べたことです」
たった一言述べただけでハティスはアダルの近くにも転生者がいると言う事を考え到ってしまった。其れにアダルは内心で怖いと思った。
「たった一言でそこまで感づくお前は凄いな。・・・・・まったく。これじゃあ隠し事もできないし、迂闊に喋る事もできないじゃ無いかよ・・・・」
感心した素振りを見せながらアダルは歩き始める。釣られるようにハティスもアダルを追うように足を進めだした。
「まあ、その認識有ってる。俺の周りには転生者がいることもまあ、事実だよ」
「それはどなたか教えてもらう事は可能でしょうか?」
「教えてどうなるんだよ」
歩きながらではあるがアダルはきちんとハティスの顔を見て答えた。
「ははっ。まあ、お前には教えても良いんだけどな」
軽薄そうな笑みを浮かべたアダルはそう言うと前を向く。
「・・・・・すいません。あまりにも興味深いことだったので。・・・・・まさか踏み込んでいけない場所だとは思いませんでした」
「別に踏み込んで行け無い所では無いんだよ。・・・・・・ただおまえ達が羨ましいと少しでも思ってしまったんだよ」
其れは記憶を失ったことで前世に縛られることが無くなった事がである。前世の記憶があるからこそアダルは共に死んだクラスメイトを捜す旅に出た。其れによって辛い経験をした。今はして良かったと思ってはいるが、それでも思ってしまったのだ。もし記憶が無い状態で転生していたらと言う可能性の世界に。自由気ままに生きていけるという気楽な一生に。




