十一話 見えたこと
ハティスと合流したアダルは混乱と喧噪の中にある街を歩いていた。
「なにが起こっているのか分かっているのか?」
「ええ。少なくとも貴方よりはと言う事でしょうけどね・・・」
それでも助かることには変わりが無い。だがこういうところでも何故か向こうから情報が集まってしまったのだなと考えると少し落ち込んだ。自分は情報集めもできないのだなと自己嫌悪が主な理由だ。
「何か悩みでも?」
「さっきのとは関係無い自分の悩みだ。・・・・・いや、さっきも自分の事で自己嫌悪していたな。・・・・・そう言う意味では同じだな。・・・・とにかく不器用で要領の悪い自分の事が嫌いになった」
其れを耳にしたハティスは思わず吹き出してしまった。
「戦闘面や判断力の高さでは優れていると言う御方が自分の事を嫌いになることがあるとは。くっ。これは面白い事もあるものですね・・・」
「・・・・・・まあ、そんなもんだろ。知的生命体というものは何から自分にコンプレックスを持っているもんだ。・・・・・おまえには無いのか?」
と言う欠けにハティスは少しかんがえると曖昧な顔を浮かべた。
「まあ、そういうことだな。・・・・・・話を戻すが、何か知っているんだな?」
「ええ。其れは確かです。其れも結構信用出来そうな情報ですよ」
少し自身がありげに口にする。だがここでいつもの如くアダルは疑問を口にした。
「ところでどこに向かって歩いているんだ?」
「ふふ。この国では情報はどこから出ているか。知っていますか?」
アダルは首を振った。
「今日来たばかりですからね。それは問題無いです。逆に知っていたら此方が引いてしまいますよ」
「お前。・・・・・・もしかして今のは鎌を掛けたのか?」
「ええ。そうですよ」
以前から話していて分かっていたが、今日は改めて思ってしまう。ハティスも良い性格をしていると。
「今その情報源になる場所に向かっているんですよ。そこならこの騒動のことも情報が真っ先に来る場所なので・・・」
そんな場所があるのかとアダルは訝しんだ。
「ほらあそこです」
彼が指した場所は大広場であった。それもこの国の城の前にある大広場。其れを見たアダルは納得してしまった。
「ああ。確かにこの国の一大事だな。だから、・・・・まあそうだな」
国が大変になっているとき。その情報は国の中枢部に集まる。アダルがいた国であるならフラウドが長を務めていたあのモニターがいっぱいある司令室。ヴィリスの故郷なら大樹城。そしてこの国の中枢は王族が暮らし、国を纏めるために存在する部署が固まっている王宮で有ろう。
「この国では緊急事態の時、集まった情報をすぐにあそこにある大きい掲示板に貼るのが恒例になっているようです」
彼が指した場所にはもう既に人だかりができていた。だが如何せん調査し始めたばかりだということなので何の情報も開示されていなかった。
「時間が経ってないのに情報を開示はできてないようだが?」
「そのようですね。・・・・・・だけど今回に限ってはあの掲示板は信用出来るとは思って居ませんよ」
どういうことだと訝しんでアダルはハティスに険しい顔を見せた。
「私の情報では数日前。あの城に住んでいる吸血種の王族の方々が相次いで変死したとのことです」
突如彼の口からもたらされた情報にアダルも目を見開くしか無かった。
「・・・・・その情報が偽りの可能性は?」
「ありません。・・・・・この目で見ましたから・・・・」
発言が気になった事に気がついたのかハティスは自分の目のことを説明しだした。
「私はどうやら時を司る能力を持っているようなのです。それが目にも現れてしまっている。未来視も過去視もできてしまいます」
其れでこの目で見たという発言をしたのだろう。
「情報を得たときはさすがに私も信じられませんでした。だけど試しに見てみたら情報通り、吸血種の王族は殺されていたのです。・・・・・紅髪の人形の手によって」
「人形だと?」
犯人の心あたりがありすぎる。何せ前に遭遇したとき。相手は人形だったのだから。
「其奴は如何したんだ?」
「人形は王女の体に近付き、その体に何かを埋め込みました。次の瞬間には人形は動かなくなり、死んだはずの王女が動いていたんです・・・・」
冷静に淡々に話を進めてくれているハティス。しかしその内にある感情は確かに揺れている。
「どうした。たった二日の付き合いだが。・・・・・らしくないぞ」
「おや。これは手厳しい。ははは」
空笑いを浮かべたハティスは目を少し動かし、何かを探した。
「あそこで座って落ち着いて話します」
彼が見た場所は公共用のベンチ。アダルはハティスの以降に従って彼の行動の共をした。
「少し恥ずかしい話しなのですがね。・・・・あのような光景を見てしまうとね。思ってしまうわけですよ・・・・。凡庸な感想ですけど」
ベンチに体を預けながら呟くハティスの表情はいつもの胡散臭い笑みでは無く。
「許せないとね」
珍しく怒りがにじみ出していた。
「・・・・・難儀な力なんだな。・・・・事件の全容が見えてしまうってのは」
アダルは座る事無く彼の前に立ったまま。ハティスに同情しながら宥めていた。
「・・・・・そうですね。これが無かったらと思ってしまうこともあります。なにせ私の好きな推理ができなくなってしまいますから・・・」
「確かにな。お前の力があったなら殺人事件なんてすぐに解決して仕舞う。それこそ推理する探偵もいらないな」
戯けたように口にするアダルは同時に肩も竦めていた。
「それにしても以外だ。お前にも許せないって言う感情があるんだな・・・」
「私にも感情があったと言う事ですよ。正直薄いと思ってたんですけどね。自分でも意外なものですね」
空笑いをしつつ、左目を手で覆う。
「見えてしまった物は仕方がありません。自分で見たわけですしね。・・・・・ですが正直いって自分の認識の甘さは後悔して居ます」
静かに怒りを込めた言葉が口から漏れる。
「その王女の体を奪った人形の正体だが」
「・・・・・知っているような口ぶりですね・・・。ですが私も検討が付いています」
まあ同じ様な光景をついこの前見たばかりだからすぐに正体に見当は付くのも納得だ。
「魔王種の一体が王女の死体に取り憑いたって事なんだろう」
「私の考えも同じです。つい先日。同じ様な光景を見たばかりですからね。・・・・そう考えるしか有りませんでした」
考える力がある彼ならすぐに思い至った。そのためアダルの言葉を肯定した。
「趣味の悪い連中だ。死体に入るってのは・・・」
「吸血種の王女ですからね。体的に死んだとしても支障が無いと考えたんでしょう。何せ彼らは生き返る事ができてしまう。その隙を見て体を奪ったとしか思えません・・・」
生き返ると言う事は死なないのと同義ではない。死んで生き返るのだ。つまり体から魂つながりは一度切り離される。その隙に王女の体は奪われてしまったのだろうとハティスは推測した。
「見た限りだとその後王族は行き帰り、この事件のもみ消しをしたようです。当然ながら誰一人として王女に違和感を覚えてはいないようですね・・・・」
「だが人形が何か行動を起こした後、王女が動いたんだったら其れは確定で良いな」
確かに吸血種の王族は全員生き返ったのだろう。しかしその内の一人は明らかに敵というのは分かった。
「じゃあ王族が発表する情報も信用出来ないって事だな・・・・」
「・・・・残念ながら。・・・・しかし其れが分かっているのなら此方も対処するだけですね」
ハティスの言葉にアダルも同意為るように頷いた。




